東畑開人・著『なんでも見つかる夜に、 こころだけが見つからない』を読む!【書店員花田さんのハタチブックセンター】

2022.05.21

書店員花田さんのハタチブックセンター

小舟に乗って夜から朝へ心の中を旅する心理学エッセイ

『なんでも見つかる夜に、 こころだけが見つからない』東畑開人・著

なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない
東畑開人・著 ¥1760 新潮


心理士として15年、現代人の心の問題に向き合ってきた著者がカウンセリングのさまざまな事例をもとに自分自身の思いをつづり、複雑な人生の問題を整理するための「補助線」を引く心理学エッセイ。

 これはとっても不思議な本だ。まるで外国の童話を読んでいるみたいでもあり、臨床心理士が普段カウンセリングを行う中で感じたことを書いたエッセイでもあり、傷つきながら自分の心を見つめて心の問題を乗り越えたあるカップルの恋愛物語でもある。そしてすべてはあなたの心へと語りかけられるメッセージ。不思議だけどそんな1冊なんです。

 昔に比べていろいろな生き方が認められるようになった今は個人の時代になりすぎて、小舟で海に漂っているようなものだと東畑さんは言う。つまり私たちは自由だけど弱くて頼りなく、少しの風でもぐらついてしまう。そんなときにはカウンセリングを受けるのも手だけど、まずはこの本で東畑さんをガイドに一夜の船旅に出てみよう。自分の心を理解すること、誰かとつながること――夜が朝になっていくように、つらい気持ちに少しずつ光が差し込むのを感じられるはずだ。


『ショートケーキ。』坂木司・著

ショートケーキ。』
坂木司・著 ¥1540 文藝春秋


日常を少し特別にしてくれる「ショートケーキ」。どこか寂しさ、生きづらさを感じて暮らす主人公たちは、そんな穴を埋めるために今日もショートケーキを食べる。読後はちょっと優しくなれる、5編の連作集を召し上がれ。

『うまれることば、しぬことば』酒井順子・著

うまれることば、しぬことば
酒井順子・著 ¥1650 集英社


根暗、映え、陰キャ、わかりみ……っていつ生まれたんだっけ?逆に、"禁句"になったあの「ことば」はなぜ消えた?時代とともに変遷していく言葉にフォーカスし、日本人の意識や社会的背景を掘り下げるエッセイ。

『夏の体温』 瀬尾まいこ・著

夏の体温
瀬尾まいこ・著 ¥1540 双葉社


「出会い」がテーマの全3編を収録した作品集。小児病棟を舞台にした表題作「夏の体温」では、小学3年生の主人公が抱える感情がまっすぐ描かれている。出会いが人にもたらすポジティブな変化に勇気をもらえる1冊。


はなだ ななこ 
多数の書店で店長を務めた名物書店員。自身の体験をつづった『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年のこと』が好評発売中。

2022年7月号掲載
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