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No.087 めえ

【直木賞受賞『木挽町のあだ討ち』】時代小説初心者、大学生におすすめしたいワケ

2023.07.24更新日:2024.05.24

永井紗耶子/著『木挽町のあだ討ち』(新潮社刊)
永井紗耶子/著『木挽町のあだ討ち』(新潮社刊)
第169回(2023年下半期)直木賞(日本文学振興会主催)を受賞した、永井紗耶子さんによる、『木挽町のあだ討ち』。選考前から受賞が期待されていた、傑作時代小説です。時代小説初心者でもスラスラ読める本作の魅力をお届け!

永井紗耶子氏による『木挽町のあだ討ち』が第169回直木賞を受賞

第169回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が2023年7月19日に開かれ、直木賞に垣根涼介さんの「極楽征夷大将軍」(文芸春秋刊)と永井紗耶子さんの「木挽町のあだ討ち」(新潮社)がダブル受賞しました。永井紗耶子さんは、昨年の第167回直木賞に『女人入眼』が候補入り、今回の受賞作は今年の山本周五郎賞を受賞し、各メディアで大注目されていた作家さんです。

直木賞受賞作『木挽町のあだ討ち』(新潮社刊)のあらすじ

永井紗耶子/著『木挽町のあだ討ち』の表紙
永井紗耶子/著『木挽町のあだ討ち』(新潮社刊)
ある雪の降る夜に芝居小屋のすぐそばで、美しい若衆・菊之助による仇討ちがみごとに成し遂げられた。父親を殺めた下男を斬り、その血まみれの首を高くかかげた快挙は多くの人々から賞賛された。二年の後、菊之助の縁者という侍が仇討ちの顛末を知りたいと、芝居小屋を訪れるが――。現代人の心を揺さぶり勇気づける令和の革命的傑作誕生!

『木挽町のあだ討ち』時代小説初心者でも楽しめるワケ

時代小説は、現代とは離れた舞台設定や古風な言い回しに、難しいのでは?と読むことを諦める人も多いはず。しかし、『木挽町のあだ討ち』は時代小説に馴染みの薄い方からコアな方まで幅広く楽しめる、エンタメ性の高い小説となっています。時代小説をあまり読んだことのない方にも是非、手に取って欲しい本作の魅力をご紹介します。

① 芝居街で起きたあだ討ちの真相を、5人の話者の証言から迫る

木挽町芝居小屋の裏手にて、菊之助が父の仇である作兵衛を討ち果たした一件「木挽町の仇討」。あだ討ちの真相を、5人の目撃者から聞いて回るという本作。

芝居小屋の入口にて客寄せする木戸芸者「一八」、芝居小屋の稽古場で殺陣の指南をする立師「与三郎」、女形の傍ら衣装の仕立てを行う「2代目吉澤ほたる」、小道具の職人の妻「お与根」、旗本生まれの戯作者「金治」の5人の話から、真相に迫ります。あだ討ちを成し遂げた菊之助の当時や過去の様子が、少しずつ明らかに。終幕はすべての伏線を回収する、驚きの展開。読後には大きな余韻が残るはず。

② 江戸の空気感を伝える、軽妙な筆致

本作では、読者はあだ討ちを成し遂げた菊之助の縁者の武士として、芝居小屋で生きる様々な人の話を聞いていくという設定。言うならば、物語の最初から最後までを鍵括弧で閉じているような語り口形式。

彼らの話には事件に関わるものから、全く関係のない世間話や冗談まで盛り込まれています。芸者のひょうひょうとした語り口、武士の威厳さ、町人のうやうやしい口調から、江戸の空気感が伝わります。まるで江戸の世にタイムスリップしたかのような没入感があります。

③ 身分や職業上の差別に苦しむ人生模様が、現代人の感覚に馴染む

本作はミステリー小説としての面白さだけでなく、語り手5人の境遇に引き込まれます。それぞれ苦悩を抱えながら、木挽町の芝居小屋に行き着いた人達。木戸芸者「一八」は吉原生まれで女郎の息子として、女形「2代目吉澤ほたる」は飢饉で家も母も失くし火葬場の番人・隠亡として生きた人生模様が描かれています。彼らが受けた差別は、現代につながるものも。

個人的には、生まれは武家の立師「与三郎」の話を綴った「第2幕:稽古場の場」での、「与三郎」が道場で共に稽古していた人物に理不尽な理由で仕官先を奪われ、武士としての矜持を見失ってしまったエピソードが心に残りました。忠義を尽くす武士に映し出された、己の進む道に暗雲が立ち込めた時の重苦しさには深く共感しました。5人それぞれの人生模様が興味深く、一幕、二幕、三幕と閉じていくごとに余韻が残ります。

④ 歌舞伎や武道に関する説明も丁寧で分かりやすい

とは言っても、歌舞伎に関する知識がないと楽しめないのでは、と心配する方もいるはず。大学生の筆者も、歌舞伎の知識は全くありませんでしたが、本作では芝居小屋や芸者、舞台裏まで丁寧に解説されているため、難なく読み進められます。聞きなれない漢字が登場することもありますが、読み方や意味を調べて新たな知識を得ることも時代小説を読む魅力です。

『木挽町のあだ討ち』を楽しんで

直木賞受賞前に手に取り、時代小説の面白さに気付かされた筆者。時代小説初心者や大学生にも是非読んで欲しい、傑作小説です。夏休み期間、読書したい学生さんにもぴったりな一冊。

書誌情報

『木挽町のあだ討ち』(コビキチョウノアダウチ)

発行形態:書籍、電子書籍
出版社:新潮社
判型:四六判変型
頁数:270ページ
発売日:2023年1月18日
ISBN: 978-4-10-352023-8
C-CODE: 0093
ジャンル: 文芸作品
定価: 1,870円
電子書籍 価格: 1,870円
電子書籍 配信開始日: 2023/01/18

  • 出身地

    富山県出身

  • 身長

    162cm

  • 学年

    大学4年生

  • 推し

    推し:デザインや美術、ファッションが好きです。憧れは、フードエッセイストの平野紗季子さん。

大好きなディズニー情報は定期で発信。
大学生の興味をキャッチ、わかりやすくて何度も見たくなる記事を目指します!

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