たとえば、夜中に街を歩いていてふと空を見上げたときの切なさとか、イヤホンで聴いている音楽が心にかちっとはまって奇跡みたいに聴こえるときとか。名前もつけられない、誰にもうまく伝えられないような一瞬の心の動きは、記録しておくことが難しく感じる。そんなきらめく瞬間をおどろくほど正確に切り取っているのがこの歌集だ。短歌というと、なじみのない人には難解に思えるかもしれないが、この本なら200%心配無用だ。まるで写真のようにぱっと情景を浮かび上がらせ、一度聴いたら忘れられない音楽のように心の中にずっと響いてくる。読書は苦手という人でも、これを読んだら、意味を理解する前に感覚そのものが手の中に飛び込んでくるような、不思議な体験ができると思う。
大人だからこそ感じるさみしさや悲しさに触れながらも、読んだ後はふわふわのぬいぐるみと眠るときのようなやさしい気持ちが身体じゅうに溢れる。夢のような本だ。