自分の好きなものを羅列することは簡単でも、どう好きなのか、どんなふうにいいのかを人に伝えるということはほんとうに難しい。好きなアイドル、ミュージシャン、もしくはコンビニのスイーツでも何でもいいが、人に話したときに「どこがいいの?」と聞き返されて言葉に詰まったあげく、「もう、とにかくいいんだって!」と説明を放棄したことがある人は多いのではないか。
その意味で、この本は最高の教科書だ。「好き」としか表現しようがないと思っていた感情は、こんなふうに因数分解して説明すればよかったのだと教えてくれる。さらに「なるほど」と納得しかけた読者に対してうわごとのように激しい愛をかぶせてくる執念に打ちのめされる。ああ、「好き」って、そこまで思いつめるような感情のことだった。
結局のところ、「好き」を語ることは「好きを感じている自分」を語ることなのだ。何かを好きになれることの根源的な幸福さを教えてくれる本だ。