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2020.07.18
ノンノの書籍連載を担当する、書店員の花田菜々子さん。悩みを持ったノンノ世代の読者に本をおすすめする第2回目です。私も気になる本がたくさんありました。是非ご覧ください。
大好きな祖父が天国へ旅立ちました。少しでも前を向く手助けをしてくれる本はありますか?
先日、一緒に住んでいた祖父が天国へ旅立ちました。とても急だったので、驚きと悲しみと信じたくない気持ちが入り混じってこんなに泣いたことがないというほど涙が止まりませんでした。心では前を向こう、強く生きよう!笑おう!と思っていますが、家族みんな喪失感でいっぱいなはずなのに、空回って元気だったり。前に進むために、これから強く生きていくために、私、そして家族みんなが読んで前を向けるような本があれば、読んでみたいです。
\ おすすめの本、1冊目は /
『ライオンのおやつ』
小川糸・著 ¥1500 ポプラ社
「1冊目に紹介したいのは、今年の本屋大賞にもノミネートされたベストセラー小説。一人の女性がガンを告知され、瀬戸内のホスピスで最期の時間を過ごすという物語。彼女には家族や恋人もおらず、ただ一人で死に向かっていたのですが、ホスピスでの人との出会いや自然の美しさに心が開かれ、自分の最期をあるがままに、まっすぐに受け入れていきます。死別を描いた小説は多いと思いますが、この物語がひときわ新鮮だなと思ったのは、死ぬ人本人の目線で死が描かれているということ。この描写が「正しい」のかは自分で体験するまでわかりませんが、とてもリアルで「死んでいく人から見たら世界はこうなのかも」ととても納得がいきました。作品のメッセージとして私が感じたのは、とてもチープな言い方になってしまうかもしれませんが、『死とは悲しいものではない』ということ。私たちはどうしても、死は悲しいこと、あってはいけないこと、避けたいことと思ってしまいますが、どう生きるかということの最後には必ずどう死ぬのかというテーマがあるのだから、ある意味、これは最高の死を描いているのかもしれない、と。
私はこの物語を読んでいるとき、こんなに泣いたことない!ってくらい、ずっと涙が止まりませんでした。こみ上げすぎて、いったん本を閉じないと読めないくらい。小説の中ではひたすら優しい時間が過ぎていくんですが、心にぐさぐさ刺さって、沁み込んでいく、すごい爆発力のある小説だなと思いました。私も身近な人の死を経験したことがありますが、そういう時って、友達にもいつまでもその話を聞かせるのも申し訳なく思って元気なふりをしたり、家族同士でも遠慮があったりして、気持ちのぶつけどころがないですよね。小説のいいところは、そういう気持ちのぶつけどころになってくれるところ。とはいえ、Oさんのおうちではご家族皆さんで悲しんでいるとのことでしたので、皆さんでこの物語を読んでいただいて、『そういえばおじいちゃんの好きなおやつってこうだったよね』とか、そんな話もしてもらえたらいいなと思って、おすすめさせていただきました」(花田菜々子さん・以下同)
\ おすすめの本、2冊目は /
『最後だとわかっていたなら』
ノーマ コーネット マレック・作 佐川睦・訳 ¥1000 サンクチュアリ出版
「アメリカの9.11テロ事件のときに、遺族の方が書いたメッセージがもとになった詩集です。いつも通りの日常が続くと思っていたのに、亡くなった家族に対して、《もっとこうしたいのに、最後のあの時ああ言うべきじゃなかったのに、抱きしめてあげたかったのに》、という気持ちをつづったもの。心の準備がある程度できている死もあると思いますが、Oさんのおじいさまが亡くなったのは突然だったということで、お別れする覚悟ができてなかったのことも、今の悲しみを増幅しているのではないでしょうか。後悔しても仕方のないことを後悔してしまうのが、遺された人の苦しみだと思います。この作品を読んで、みんなもこう思っているんだ、と共感していただけるのではないかと思います。なかなか人とわかち合えないつらさや後悔で苦しいとき、この本が共感相手になってくれたらうれしいです」
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素の自分を出せない、感情をうまく伝えられない私におすすめの本はありますか?
他人が見た自分と実際の自分とのギャップに苦しむことが多いです。自分のことを客観的に見てしまうもう一人の自分がいるのか自分を守っているのか、感情をうまく出せず相手に伝えられません。特に怒りや悲しみの感情を相手に伝えるのが苦手で、そのせいか周りから「何を考えているかわからない」「遠く感じる」と言われてしまうこともありました。自分の殻を破りたい、変わりたいと思っていますが、21年間の生き方をなかなか変えられません。
\ おすすめの本、1冊目は /
『ピースオブケイク』
ジョージ朝倉・著 全5巻 祥伝社
「Sさんにおすすめしたい1冊目は、私も大好きなジョージ朝倉さんの漫画。ジョージ朝倉さんの作品の魅力的なところは、主人公含め、登場人物みんながすごく“激しい”ところ。思いを言えないまま終わる、というような静かな展開はあまりなくて、お互いにぶつかり合っているところがとても羨ましいなと思いながら読んでいます。
主人公の志乃は、仕事や恋愛がうまくいかず、心機一転、あるアパートに引っ越してきます。隣の部屋に住んでいるバイト先の店長といい関係になりかけたものの、店長は美人の彼女と同棲中。いわゆる三角関係で、もし自分がそういう立場だったら、遠慮してしまうし引いてしまう場面だと思います。でも彼女は身を引くのでもなく略奪するのでもなく、ただ店長に対して『店長のことがどうしても好きなんです』と思いを溢れさせ、伝えている。関係が変化してからも、言いたいことを言う。やりたいことをやる。主人公だけでなく、同棲相手も、ちょっと優柔不断な店長も、みんなそうだから魅力的に見えるんですよね。ぶつける言葉や行動は、間違っていたり誰かを傷つけてしまうこともいっぱいあると思いますが、私たちは、誰かを傷つけないようにすることを最優先事項にすべきではないのだと教えてくれる作品です。とくに恋愛の場面では、相手を動かせるかどうかは別にして、自分はこうだ、と伝えることが大事なんだなあ、と憧れます。
Sさんは、『特に怒りや悲しみの感情を伝えるのが苦手』とのことですが、私も似たような性格なのでよくわかります。自分がアクションを起こさなければ傷は浅いけど、それでその人と向き合ったと言えるのだろうか、と。分かりあうことを諦めてカーテンを閉ざしてしまうのはやさしいからじゃなくて、コミュニケーションをサボっているだけなのかもしれません。自分の感情を出すお手本として、ぜひ読んでもらえればと思います」
\ おすすめの本、2冊目は /
『黄色い目の魚』
佐藤多佳子・著 ¥710 新潮文庫
「2冊目は、本屋大賞となった『一瞬の風になれ』などを書かれた佐藤多佳子さんの小説です。佐藤多佳子さんは、若者の揺れや葛藤、逃げたい気持ちと戦いたい気持ちのせめぎ合い、みたいなものを描くのが本当にうまい作家さんだなと思っていて、その中でもこの作品は私も特にお気に入りの1冊です。高校生の男女2人が主人公で、男子・木島はサッカー少年でありながら絵を描くのも好き、リア充で友達も多いタイプ。女子・村田は気が強くて我が道をゆく問題児で、学校でも家でもうまくいっておらず、変わり者扱いされている。対照的な二人は美術の授業でお互いの絵を描くことになったのをきっかけに近づき、二人の間には恋愛とも友情とも違う感情が芽生えます。将来のことや友達のこと、親との関係など、この時期ならではの悩みを共有するうちに、特別な関係になっていく。二人の関係性は、恋人というよりはライバルのようであり、お互いに相手を意識しているゆえに「こいつにはこんな格好悪い自分を見せられない」と思うような存在。そうやって衝突しながら、傷つけあって自己嫌悪に陥って、激しく火花を散らす二人はとても眩しくて。こんな青春がほしかった!と絶叫してしまいそうになります。二人の関係を読んで「こんなふうに思ってもいいんだな」「こんなことを誰かに言ってしまってもいいんだな、それでも関係はよくなっていくんだな」と感じてもらえたら。もっとありのままの自分をさらけ出してみたくなる、背中を押す1冊になると思います。」
いかがでしたでしょうか? 花田さんの著書『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』でも思いましたが、花田さんのおすすめは、まさに本の処方箋。悩みを消すことはできないけれど、本を読むと、きっと自分の中に変化があると思います。同じような悩みを抱えた人や、そうでなくても読んでみたくなった、という人の心に残る1冊になればうれしいです。
● はなだななこ
HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE店長。新刊『シングルファーザーの年下彼氏の子ども2人と格闘しまくって考えた「家族とは何なのか問題」のこと』発売!
▼この記事を書いたのは…
入社3年目。主にファッションを担当。漫画とイケメンが好き。最近は変なガチャガチャを集めるのにハマっています。