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2021.04.13
21歳の現役大学生。ノンノ世代の芥川賞作家、宇佐見りんさんってどんな人? 小説への熱い思いから意外な素顔まで、たっぷり語っていただきました♡
小説『推し、燃ゆ』で芥川龍之介賞を受賞。現在、21歳の現役大学生。史上3番目の若さであり、さらには、デビューから2作目にしてのスピード受賞。この驚きのニュースはあっという間に世間を駆け巡った。「受賞してからの毎日はすさまじかったです。周りから予告されていましたが本当に忙しくて。夜に見る夢が派手になりました。眠っているのに眠っている気がしない、心よりも体が戸惑っているのを感じています(笑)」今回の撮影中も「小説とはまったく違う脳を使っているので。若干、戸惑っております」と照れくさそうに笑った宇佐見さん。ノンノ世代の天才作家が小説を書き始めたのは小学生の頃、国語の授業がきっかけだった。「原稿用紙に書いたのはそれが初めてだったのですが、それまでも"小説のようなもの"は書いていて。幼い頃から、書くことは好きだったんでしょうね。日記のような感覚で"自分への手紙"を書くこともありました。たとえば"将来の私は翻訳家になる夢を叶えているかな?"なんて内容をつづったり。中学受験をする時は、落ちた自分あてと受かった自分あての2通の手紙を用意。合格発表の後に過去の自分への返事を書いたりして(笑)」
授業をきっかけに小説を書く楽しさに目覚め、気づけば"書くこと"が日常に。「中学時代はガラケーのグループメール機能を使って、3000~4000字くらいの物語を友達と送り合っていた」なんてエピソードも。「でも、真剣に小説と向き合うようになったのは高校生になってからなんです。当時は自分の中で難しいと感じることが多い苦しい時期で。そこで、人生が一筋縄ではいかないことを痛感したというか。その出来事をきっかけに私の中でいろんなことが変化したんです。それまでは、夏目漱石をはじめとする純文学をあまり理解できなかった。でも、そこで初めて"ああ、こういうことが書かれていたんだ"と理解できた。自分の中で一致した。"だから、文学は存在するんだな"と思えた……。そこから、書く内容も変わりました。小説が友達に見せて楽しむものではなくなった。デビューするまでは真正面から小説と向き合おう、と心に決めたのもその頃なんです」高校時代に感じた生きづらさ、それは宇佐見さんの作品のテーマになっているようにも感じる。彼女は作中でそれを「重さ」と表現。登場人物とは性格も環境も違うはずなのに「私も知っている」と感じる、多くの人が体感しているであろうその"重さ"が作品の世界へと読み手をグングン引き込んでいく。「私自身、日常生活の中で重さを感じることが。ふとした時に外側の自分と内側の自分にズレを感じることがよくあって。それを素直に文字にすると心が少しラクになるんです。私の創作ノートにはそんなメモがあふれていて。でも、創作ノートと小説はまた違う。小説を書くことで"重さ"が昇華されるのかというと、それはまた別の話。小説を書くのは楽しいけど苦しい。社会的に生活をしている時には忘れているようなことを、いったんはがしてむき出しにして文字にする、それは苦しい作業でもあります。ただ、小説にしか引きずり出せないものがあって……。対話ではなく小説だからこそ伝わるものがそこにはあるというか。それが形になった時の素晴らしい瞬間を知っているからこそ、私は小説を書き続けているのかもしれないですね」大学の授業と執筆活動を両立させる多忙な日々を送っている宇佐見さん。いつ小説を書いているのか尋ねるとこんな答えが。「私の場合、隙間時間に書いているわけではなく、小説の隙間に日常生活がある感じなんです。私の頭の中には常に小説が存在するというか。頭の中で何か考えている時間がとても長くて。たとえば、先日考えていたのが"なぜ人はネットに卒業文集をアップするんだろう?"。その答えを探しながらスマホにメモし続けていました。電車に乗りながら(笑)」
いつどんな時も頭の中に"小説"が。そのせいか普段はこんなハプニングも。「先日も帰宅するために乗った電車が反対方面で。慌てて電車を乗り換えたら、それもまた反対方面。家から遠ざかるばかりで。さらにはスマホが電池切れ。売店で充電器を買ったら端子がささらなくて……。何かに集中したら、何かが抜け落ちてしまう、私はそういうことがよくあって。知らない人から話しかけられる時もたいてい"落としましたよ"とか"コートの裾を引きずっていますよ"とか、そんなものばかりなんです」小説を中心に回っている毎日。宇佐見さんが何を大切にしながら人生を歩んでいるのか知りたくて、最後に"座右の銘"を聞いてみた。「自分の決断を尊べ。これは尊敬する高校の先生の言葉であり、腑に落ちないからこそ私の中にずっと残り続けている言葉でもあるんです。人によっては選択肢が限られている場合もある。そこから辛うじて選んだ決断は自分のせいとは言い切れない。他人のせいでも自分のせいでもないことがこの世にはきっと存在する……。尊敬している先生の言葉だからこそ、向き合いたい、考え続けたい言葉」大学卒業後は「いろんな経験をしたいから」と就職予定。21歳の彼女がこれからどんな作品を届けてくれるのかとても楽しみだ。
宇佐見さんの"バッグの中身"
担当編集さんからプレゼントされた『推し、燃ゆ』カラーの手帳には予定だけでなくさまざまなメモが。何度も読み返す本にはブックカバーをつけるのが宇佐見さん流の愛し方。この日は敬愛する作家・中上健次氏の『岬』がバッグの中に。執筆環境で大事なのが匂い。執筆前は窓を開け雨の匂いや季節の匂いをかいだり、お香をたくこともあるそう。
芥川賞受賞作
『推し、燃ゆ』
宇佐見りん・著 ¥1540/河出書房新社
周りの人ができることも私はできない、そんな生きづらさを抱えている主人公のあかりにとっては"推し"のアイドルがすべてであり、彼を推すことが唯一の生きがいだった。しかし、その推しが女性を殴って炎上。あかりの心の支えが揺らぎ始める……。"推し事"を通して描かれる喜びや苦悩や葛藤や虚無感。"重さ"がズシンと心に響く1冊。
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2024.11.22
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