――仕事や恋愛に悩む20代の葛藤を描いた映画『明け方の若者たち』。東京への憧れや、夢と現実のギャップ……スクリーンの中には、誰しも一度は抱いたことのある感情がちりばめられている。
「私の演じる〈彼女〉が主人公の〈僕〉にフジロックフェスティバルに誘われて、”フジロックよりもっとおもしろいことしようよ”って提案して海に出かけるシーンがあるんです。ちょっとしたやりとりなんですけど、すごく分かるなって思いましたね。実は、私自身もフジロックに対抗して、同じ時期にわざわざ会場近くの新潟のキャンプ場に行ったことが(笑)。キャンプが好きで、テントを立てて火をおこしたら、ごはんを作る以外は何もしないんですけど、それがいいんですよね。ぼーっとしているだけで、体が浄化されていく気がするんです」
――撮影を振り返って印象に残っているのは、飲み明かした〈僕〉と〈彼女〉が親友と明け方の高円寺駅前を走るシーン。
「夜中からリハーサルを繰り返して、夜が明け始めてからの30分間で10カットくらいを撮らなきゃいけなかったんです。だから、本番では全力で走っているけど、実際は元の位置に戻る時のほうがさらにダッシュしていて。みんなが心を一つにして頑張ったあの時間は部活みたいで、すごくいい思い出になっています」
――のちに主人公が「かけがえのない時間だった」と回想する、そのシーン。黒島さんにとっての、そんな人生のマジックアワーといえば?
「今まであまり”ザ・青春!”みたいなことをしてこなかったので、30歳くらいになった時に経験できればいいですね。気心の知れた仲間と野菜を収穫して、庭では犬が遊んでいる……みたいな大人の青春を味わえたら、最高に幸せです」