友野一希の「トモノのモノ語り。」
友野一希連載「2024-25シーズン開幕インタビュー&練習レポート」【 #トモノのモノ語り。】vol.40
2024.08.21 更新日:2024.10.27
フィギュアスケーター友野一希さんの人気連載「トモノのモノ語り。」も今回で40回目! この連載では毎年シーズンの開幕に際し意気込みやプログラムの見どころを伺ってきましたが、今年は大阪のリンクにお邪魔してインタビューを実施。練習のミニレポートと併せてお届けする特別回になっています。
これまでのインタビュー
練習ミニレポート
@関空アイスアリーナ
この夏も例年通りアイスショーに合宿にスケートの魅力を伝える活動に……と大忙しだった友野さん。
6月には『Fantasy on Ice』を終えたその足でショートプログラムの振付のためアメリカへ。さらにシニア合宿を終えるとカナダに渡りフリープログラム作りと大充実の日々を過ごされています。
そんな多忙な日々の合間をぬって今回の取材が実現。カナダから帰国されたばかりの7月の終わり、関空アイスアリーナにて行われた貸切練習にお邪魔してきました。
TOMONO LESSON 1
ウォーミングアップ
前述のハードスケジュールもあいまって、友野さんと取材でお会いするのは久しぶり。しかも今回の撮影はスタジオやロケではなくスケートリンクということで、「ノンノさんとスケートの撮影をするのはめっちゃ新鮮!」とうれしそう。
たしかにこの連載ももう3年目。最近の更新ラインナップの充実ぶりを見ていると、この連載がもともとフィギュアスケートの取材をきっかけにスタートしたものだったことをうっかり忘れてしまいそうになります。
この日友野さんはちょうど時差ぼけの真っただ中。なんでも入国時ではなく後から時差ぼけが来るタイプで、帰国後はいつも睡眠に悩まされているそう。
そのため昨夜もほとんど眠れなかったということですが、心配する取材陣をよそに爽やかな笑顔は今日も健在。
そうやっておしゃべりを楽しみながらリラックスした表情でウォーミングアップを終えると、スケート靴にはきかえ、いよいよ練習へ。
ここでは靴ひもを結ぶ素早い手さばきにカメラマンもびっくり。
なんでも靴をはくスピードは人に負けない自信があるそう。
ちなみに愛用の靴下は無印良品の「足なり直角靴下」のブラック。スケートでもプライベートでも使えるよう、同じものをいくつも持っているんだとか。
TOMONO LESSON 2
リンクで基礎練習
この日はチームでの練習ではなく、ちょうど日本に滞在中のミーシャ・ジーさんとのレッスンデー。
ミーシャ先生がいらっしゃるまでの時間は一人自主練習。
慣れた手つきでリンクのスピーカーの電源を入れると、iPhoneを接続してミュージックスタート。
リンクに入る前には、毎回欠かすことのない大事なルーティン、氷に向かって一礼も忘れずに。
1曲目はASIAN KUNG-FU GENERATIONの『転がる岩、君に朝が降る』。
その後もNewJeansなど、相変わらずジャンルレスなプレイリストにのせて風を切りながら体を少しずつ氷になじませていきます。
もちろんすっかりおなじみの光景となった「コンパルソリー」の練習は特に入念に。
フィギュアスケートというとジャンプが注目されがちですが、柔らかなスケーティング、深いエッジワークでも存分に魅了してくれます。
TOMONO LESSON 3
ミーシャ・ジーさんと新エキシビション作り
美しいスケーティングにしばし見とれていると、リンクにミーシャ先生が登場。
ひとこと挨拶を交わすと、ごく自然な流れでミーシャ先生が自ら買ってきたキャラメルラテを友野さんにパス。それを友野さんがキャッチする間に先生はリンクイン。そのまま練習がスタートと、長年の付き合いだからこその雰囲気に胸が熱くなります。(ミーシャ先生はハニーラテ)
この日のレッスンは新エキシビションの制作で、テーマは『Life Is Beautiful(ライフ・イズ・ビューティフル)』。
『ライフ・イズ・ビューティフル』といえば、かつて2020-21シーズンのフリープログラムとして制作されたものの、急遽前シーズンのプログラムを持ち越すこととなり、ついぞ日の目を見ることがなかった幻のプログラム。
今シーズン新たに作り直し、エキシビションナンバーとして披露することが決定したそう。
その理由を友野さんに伺うと、「せっかく作ったプログラムをそのままにしておくのはもったいないとずっと思っていたんです。ただ当時の振付はまったく覚えていないので(笑)、新たに作り直します。前回作ったものとはまた違った振付になるんじゃないかな」とのこと。
パンデミックの影響で多くの人の心に暗い影を落とした2020年、SNSで公開された新プログラムのお知らせに気持ちが明るくなったという方も多いはず。
そこから4年、『Halston』などいくつもの濃密なプログラムや新たなアイスショーへの挑戦を経た友野さんが見せる『ライフ・イズ・ビューティフル』。一体どんな色や形をして、どんなきらめきを放ち、そしてどんな美しい人生を氷の上に描いてくれるのか。想像するだけですでに胸がいっぱいになります。
休憩をほとんど取らずこの日だけで3時間、計2日間にわたって行われた振付作業。
お披露目の際にまっさらな気持ちで楽しんでいただきたいという思いから、実際の振付中のお写真はプログラム公開後にお届けする予定です。
公開をお楽しみに!
2024-25シーズン
開幕インタビュー
続いては先シーズンの振り返り、今シーズンのプログラム、そしてその先に見据えるオリンピックへの展望を伺ったインタビューをお送りします。
2023-24シーズンを振り返って
――昨シーズンはどんな1年になりましたか?
ひとことで言うなら、自分の真価を証明できた1年、ですかね。シンプルに去年はいいシーズンでした。
――では昨シーズンやり残したことや、こうだったら……と思うことはないということですか?
ないです。(きっぱり)まったくない!
去年やるべきことは全部やったし、すごく充実していました。
もうこれは何度も言っていますけど、全日本選手権でみんなが全力を出せたことで今の自分の位置を知ることができたのがとても大きかったです。そういう試合って意外と今までになかったから。
――昨シーズンは「プログラムを通して成長すること」が目標と伺いました。それを見事達成されたということですね。
達成できたと言えると思います。
ただ僕が成長した分、周りもすごくレベルアップしていた。だから今シーズン取り組むべき課題は自分の底上げ。ものすごくシンプルです。
そしてそれを今年だけじゃなく、来シーズンのオリンピックにつなげていくことが大事になってくる。周りと一緒に成長するのではなく、それを追い越していかないと。
昨シーズンのフリー『Halston』は挑戦のプログラムでしたが、新プログラムはさらに難易度の高いものになっています。今季は表現者としてだけでなく、競技者としてレベルアップしていくことが求められます。
――ステップアップするための取り組みの一つが新しい振付師の方との出会い?
はい。実際に振付師が変わったことで演技中の動きも違うものになり、それに合わせた成長が求められているのを感じます。ジャンプの軌道、タイミング、そしてペース配分。人によって何もかも違うので、まだかみ合わない部分も多い。でもその分新しい発見があるし、可能性がどんどん広がっていっている最中。今ここでしっかり自分のものにすることができれば、より高いレベルでフィギュアスケートに取り組めると確信しています。
今年は新しいことに取り組んでるという実感がありますし、それがすごく楽しくて仕方がないんです。
そしてシェイリーンとローリーに振付をお願いするのは夢でもありました。振付が例年より遅い時期になったことで正直焦りもありましたけど、もうやるしかないから。素晴らしいプログラムだからこそ自分でそれをダメにしたくないし、ちゃんとこなすことができるスケーターになって、それが結果につながればいいと考えています。
2024-25シーズンのプログラム
2024-25シーズンのショートプログラム
Tshegue『Tshegue』、『Muanapoto』
振付:シェイリーン・ボーン
――ではその新しいショートプログラムについて詳しく教えてください。
ショートはTshegueというアーティストの『Tshegue』、『Muanapoto』という曲で、すごく自分に合っているんじゃないかなと思います。
まだ衣装が完成してないので世界観は統一できてないけど、あれだけクセがありながらもスケートで魅せるパートも多いですし、バランスのいいプログラムになっていて僕はすごく好きです。
動きが激しい分、難しさもあるので、技術を身につけて完成度を高めていけたらと思います。
――かなり長い時間をかけて作られたんですよね。振付はどのように進んだのでしょう。
まずはシェイリーンが提案した何十曲もの候補の中から曲を選びました。自分では別のゆったりしたジャジーな曲を候補にしていたんですが、リンクに入った時たまたまこの曲がかかって。「あれ、こっちのほうがいいな」ってしっくりきちゃって急遽変更したんです。思ったより激しい方向にいってしまいましたが(笑)、今までこういったアフリカンな感じの曲はやったことがなかったからいいかなって。
――シェイリーンさんが作るプログラムは選手の背景を大事にしたものが多いイメージです。
そうですね、最初は僕という人間を知ってもらうところから作業が始まりました。シェイリーンはその人に合った振付をしてくれる中で、自分ができないと思うような動きも引き出してくれるんです。
とにかくアイディアが豊富で数えきれないほどたくさんの動きを提案してくれました。本当に不思議なんですよ。だって「あれやってみて、これやってみて」と言われてやっているうちに、気づいたらプログラムが完成しているんですから。
たくさんのパターンの中からいいものをピックアップして時間をかけて作るというやり方はとても楽しい体験でした。与えられるだけじゃなくて、一緒に可能性を広げながら作っていったのがすごく新鮮でしたね。
シェイリーンとの作業で、僕って自分のできることを決めつけてたと気づかされました。今までのプログラムになかった新しい動きをたくさん取り入れたのでそこに注目してほしいです。
――冒頭の表情からプログラムに引き込まれます。友野さんのお気に入りのパートは?
最初の表情は……どうなんだろう(笑)。なんかちょっと笑いかけているような、不思議な雰囲気を出しています。
僕のお気に入りはやっぱりステップ。ショートサイドからまっすぐに進んでいくストレートラインっぽいステップはずっとやってみたかったんです。ちゃんと魅せることができるようになったら、きっとすごくかっこいいんだろうなと思います。
――ステップしかり、シェイリーンさんのエネルギッシュな振付やスケーティングのスタイルが友野さんにすごく合っていますよね。
うれしい。僕もシェイリーンとは合う気がするって思ってました。 絶対いつかはお願いしたいと夢見ていたんです。
――ここまで待っていたのは、ご自身が成長されてからと思っていたからですか?
それもありますし、自信がなかったからかなー。なんとなくまだ依頼する勇気がなかった。今ならできるかなってレベルになって本当によかったと思います。
でもやっぱり難しいので、この素敵なプログラムをよいものにしていくために、まずは練習あるのみですね。
2024-25シーズンのフリープログラム
Jon Batiste『Butterfly』、『MOVEMENT 11’』、『I NEED YOU』
振付:ローリー・ニコル
――フリープログラムはローリー・ニコルさんの振付です。
はい。フリーはJon Batisteというアーティストの方の『Butterfly』、『MOVEMENT 11’』、『I NEED YOU』の3曲を使用しています。
正直ローリーはとても多忙なので、スケジュール的にほぼほぼ無理だと思っていたんです。でも奇跡的に時間の調整ができて。本当に待ってよかったなと思いました。
プログラムを作ったのはシニア合宿を終えた直後。1週間というとても短い期間でしたけど、めっちゃ濃い時間になりました。
実際に一緒に作業をしてみたら、もっと早くお願いしてもよかったと思うくらいすごい方で。ミーシャもシェイリーンもそうですけど、ローリーにも出会えてよかったと心から思いましたね。自分のスケートを変えてくれるようないい出会いになりました。
――具体的にどんなやり取りがあったのでしょう。
プログラムの考え方一つとっても、学ぶべきところがたくさんありました。
スケートの歴史についてよく知っている方だから、その本質をたくさん伝えてくれました。歴史や技術について書かれた資料をくださって、「コンパルソリー」などスケートの基礎を徹底的に教えてもらったことも。何度思い返しても宝物のような時間でしたね。
(浅田)真央ちゃんや(鍵山)優真くんも(吉岡)希も、ローリーと関わった人はみんな大きな変化がある。その理由がよくわかりました。
――指導で印象に残っていることはありますか?
全部! ローリーにとっては演技中の動きすべてがプログラムの一つなんです。一切妥協しないし、どれも高いレベルが求められる。スピンもジャンプまでの流れも何度もやり直しになりました。ローリーからはステップの動きについて書かれたメモをもらい、僕もそこに書き込みながら覚えていく作業でした。そうだ、滑る時に音を鳴らすといつも注意を受けたのを覚えています。
でも意外と自由にさせてくれる時間もあったんです。たとえばステップの動きをどうするか悩んでいる時、僕が音楽に合わせて踊っていたらそれを採用してくれたこともありました。プログラムを通して、前半~中盤にはローリーのこだわりが詰まったものに、後半は僕の個性を大切にしてくださったものになっているんじゃないかな。
そうやって一緒にいろいろな動きを考えるのはとても楽しかったですし、ローリーも楽しんでくれていたと思います。
――ローリーさんはどのような思いからこのプログラムを授けられたのだと思いますか?
ローリーも僕のスケートを見た上で、パーソナルな部分がたくさん出るようなものを選んでくれたんじゃないかって思います。
このプログラムは『Butterfly』から始まりますが、蝶は変化の象徴。変わることを切望している僕にはぴったりじゃないですか。
そうやって作っていただいたものだからこそ、いいプログラムにしたいです。授けてもらったものをよくするのも悪くするのも自分なので。
まあ直近の試合での演技はさんざんでしたけど(笑)。今はまだ振付してから数週間しか経ってないので総崩れ中。要因はやっぱりジャンプのテンポが変わったことなので、これから合わせていけば問題はないと思います。毎年この時期は難しいものですし。
――完成形が見られる日を楽しみにしています。
新プログラムに対する先生方の反応はいかがでしたか?
ショートはもともと平池(大人)先生が好きそうなプログラムだなと思っていたんですが、やっぱり気に入ってくれたようです。「個性があっていいねー」と言ってもらいました。
フリーについてはまだまだこれからって感じですけど……。でも僕は去年の『Halston』で、結局どうなるかなんて全部自分次第っていうのをきちんと示してますから。だから先生も「頑張り」っていうスタンス。僕ももうやるしかないので、そこは「見てて」っていう気持ちです。
ミーシャからは、「これまでとコースなど細かいところが変わってくるから、タイミングとかは自分で見つけていきながら頑張りなよー」って。
競技プログラムについては今季ミーシャ振付のものはないですが、いつもこうやってアドバイスをしてくださるのは本当に有難いですね。
二つの新エキシビション
2024-25シーズンのエキシビション
・Wake Child『Don’t Fall in Love』
振付:村元哉中・『Life Is Beautiful(ライフ・イズ・ビューティフル)』
振付:ミーシャ・ジー
――今シーズンの二つのエキシビションナンバーについても教えてください。
一つはWake Childの『Don’t Fall in Love』。振付は(村元)哉中ちゃんです。
きっかけは、哉中ちゃんが作ったかおちゃん(坂本花織選手)のエキシビ『Poison』を見たこと。めっちゃよくて僕もああいったプログラムをやりたい!と伝え、選曲までおまかせしました。
今回は初めて大人っぽいプログラムに挑戦。色気もあるようなかっこいいナンバーに仕上がっていて、ねっとりしてて、でも伸びやかで……やっと僕もできるようになったなっていう表現がちりばめられています。
これから機会があれば大ちゃん(高橋大輔さん)にも見てもらってアドバイスをもらいたい! 僕じゃなくて大ちゃんや哉中ちゃんのバージョンでも見てみたいって感じ(笑)。披露するのが楽しみです。
――「Fantasy on Ice」後の感想で「今年はムーディなプログラムが多くなるかも」と話されていたのがこのナンバーですね。
そして今回取材させていただいたミーシャさん振付のプログラムについては?
もう一つは映画『ライフ・イズ・ビューティフル』の曲です。実はまだちゃんと完成してないんですけど、これもどこかで滑ることができたらいいな。
まだ分からないですし、そうならないかもしれませんが、これが来シーズンのショートプログラムになる可能性もあります。とにかく今年だけじゃなく、今後に向けてたくさん披露できればと思います。どちらのエキシビもお楽しみに!
――グランプリシリーズでも見ることができそうですね。
はい。今シーズンのグランプリはフランスとフィンランドに行ってきます。
今年はファイナル一筋。まだ出たことのない舞台ですし、最近は世界選手権の選考が全日本選手権の結果だけじゃなくなってきているので。最初から全力でやらないと戦えないと感じています。いつもよりペースを上げないと。
――今年もグランプリシリーズから日本勢の熱い戦いが繰り広げられるかと思いますが、宇野昌磨さんが引退されたことにより、どういった変化があると思いますか?
そうですね、より難しくなると思います。みんなにチャンスがありますし、全員本当にうまくなっていますから。シニア合宿もすさまじかったですよ。みんながしのぎをけずって、これからもっと盛り上がっていくと思います。
今シーズンのテーマとその先のオリンピックに向けて
――それでは改めて、友野さんの今シーズンのテーマは?
(しばらく考える様子)
……僕は今、ひたすらスケートがしたいんです。ミーシャが素晴らしい振付師であるのは大前提として、スケートを追求していくためには他の振付師の方のつくるプログラムも経験してみたかった。今年ようやく長年憧れていたお二人のプログラムで滑ることができる喜びをかみ締めつつ、そのプログラムをものにして「競技者としてより高みへ」というのが今季のテーマですね。
そうやってより深くスケートと向き合って、試合でもトップになれるよう努力する。それに尽きるかな。
結果が出たから何かあるってわけじゃないと思いますけど、自分が今よりもっとうまくなった時、どういうスケーターになっているかを純粋に知りたいんです。
僕にとっての最終的な目標はオリンピックでメダルを獲得すること。
今まで以上に高い目標を設定するなら、もっとスケートにかける時間を増やさなきゃいけないこともわかっています。だけど、なにか一つのことに極限まで取り組む自分を見てみたいから。
自分の人生をかけるとしたら、それは今。オリンピックまでの一年半、全部やりきったって思えるくらい命がけでやっていきたい。
――友野さんが紡ぐ言葉の端々から今まで以上に強い気持ちが伝わってきます。
まあ正直もう長くないですからね。僕は本当にオリンピックまでって決めている。僕の人生をかける時が今なんだなって自分で分かるので。
もちろん今までだって頑張ってきましたけど、これから先は一年一年、全部やりきったって思えるくらい、命がけでやっていきたいんです。
――これまでと違い、明確な期限を設定して取り組むことは時に怖くないですか?
だって僕は決めてやらないとできないから。そうやって期限を設定して、極限までスケートに向き合うことで自分を変えてみせる、そう思います。
今はとにかく人生をかけて頑張ってみたい。何か自分を変えるくらいの1年にしてみたい。今年はそれだけ大事なシーズン。
これから1年半、オリンピックに向けて本気で取り組んでいきます。
――アスリートとしてというよりも、友野一希という一人の人間としての大きな戦いに聞こえます。
ですね。今が変わるべき時なんだなって。じゃないとこれ以上はいけないって思うから。
このまま同じように練習しててもきっとずっと同じ結果。それは昨シーズンに痛感しました。
じゃあ何をするかっていうと、自分が大きく変わること。良くたって悪くたっていい。向き合い方、取り組み方一つ変えればそれがオリンピックへのきっかけの一つになると信じているので。
――最後に、友野さんが目指すスケートの完成形を教えてください
もっとスケートがうまくなりたいという気持ちもありつつ、最終的にはもっとすごみのあるスケーターになることですかね。
オフシーズン中、アイスショーで大ちゃんや荒川(静香)さんと共演したことで、自分に足りないものは競技者として全力でやり抜く力だと感じました。
あの二人や昌磨くん、優真くんを見ていると、オリンピックでメダルを取ったスケーターには、何かを成し遂げた人だけがもつ独特のオーラを感じるんです。
きっと僕にもそれだけ真摯に取り組んだ先にだけ、見えてくるものがある。だから今後どんな人間になるにしても、まずは今、目の前のスケートに向き合わないと今後どこにも到達できない。だからこそ今は競技者として強くなりたい。
今シーズンは変化を求め、バタフライのように飛んでいけたらと思います。
いつも見守ってくれるファンの皆さんへメッセージ
今シーズンは皆さんに安心して……あ、もう早速そうじゃないんですけど(笑)。とにかく安心して見ていただけるようなシーズンにできたらと思います。必ず競技者として成長できるようなシーズンにします。今年も応援よろしくお願いします。
――アメリカ、カナダでのオフ時間や、競技の近況は今後の連載で教えてください。本日はありがとうございました!
Staff Credit
写真/花村克彦(Ajoite) 取材・文/轟木愛美 撮影協力/関空アイスアリーナ
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2024.06.27
Profile
2022-23シーズンは全日本選手権で初の表彰台、自らの力で世界選手権出場を果たし自己ベストを更新するなど確実な成長を示した1年に。オフシーズン中はありとあらゆるアイスショーに出演。各ショーの特性に合わせた多彩なパフォーマンスでエンターテイナーぶりを発揮。初めてキャラクターを演じた「ワンピース・オン・アイス」での熱演も各界で話題の的となった。
成長を求め自分のプライドをかけた戦いへと臨んだ2023-24シーズン。あえて強みを封印した挑戦のフリー『Halston』は、試合を重ねるごとに輝きを増し、これまで地道に磨いてきたものが結実したプログラムに。昨年12月の全日本選手権では、芸術性を極めたフィギュアスケートの真骨頂ともいえる演技で美しく崇高な世界観を作り上げた。
その進化はアイスショーを経てさらに加速し続け、高橋大輔さんプロデュースのアイスショー『滑走屋』ではショースケーターとしての本領を発揮。さらに6月の『氷艶hyoen 2024 -十字星のキセキ-』では歌に演技にと新境地に挑み、競技の枠に留まらない真の表現者としての地位を確立。そうかと思えば翌週の『Fantasy on Ice』では大人のムード満載のプログラムをこなれ感たっぷりに披露するなど、そのステージ一瞬一瞬で眩い輝きを放ち、圧倒的吸引力でいつも観客の心をつかんで離さない。
このオフには、スケーティングの原点に立ち返り、コンパルソリーを一から学び直す姿はどんな時でも基本を重んじる実直な彼ならでは。
迎えた新シーズンは2026年のオリンピックに明確に照準を合わせ、極限までスケートと向き合う1年に。これまで何度も自分だけのやり方で目の前を壁を壊し、乗り越えてきた彼が競技を突き詰めた先に出合う景色はどんなものなのか。その覚悟を今シーズンも応援したい。
Kazuki Tomono 友野一希
フィギュアスケーター
1998年5月15日生まれ、大阪府堺市出身。
2026年のミラノ・コルティナダンペッツォオリンピックを目指す男子シングル日本代表。感情をスケートにのせ、観客の心まで躍らせるHappyな演技で世界を熱狂させる愛されスケーター。
古着、サウナ、インテリアショップ巡りなど多彩な趣味をもつ26歳。実直な人柄、好きなことに対する探究心など、近年は競技以外で見せる魅力にも注目が集まる。
表現の名手であり、オフシーズンはアイスショーに引っ張りだこ。各ショーの特性に合わせた多彩なパフォーマンスでエンターテイナーぶりを発揮している。
新シーズンは「競技者としてより高みへ」をテーマに練習に励む日々。今季のフリープログラムは『Butterfly』。さなぎが蝶へと変化するように、彼もまた、圧倒的変化を求め日々成長中。その美しき進化に出会える日はもうすぐそこだ。
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