-
【友野一希選手独占インタビュー】「僕は諦めたことがない」努力と覚悟の先に切り拓いた新しいステージ。輝きを放ったシーズンを振り返る【フィギュアスケート男子】
“ベテランと言われる年齢になったけど、今スケートがとても楽しい”。そう話すのは、今シーズン極上の演技で自己ベストを何度も更新し、メダル争いに食い込む選手へと成長を遂げた友野一希選手。
権威ある四大陸選手権で初のメダルを獲得し、世界選手権でも存在感を見せつけ勢いに乗る彼に独占インタビューを敢行。
アイスショーを終え、大阪に戻られたばかりの4月。拠点の浪速アイススケート場にお邪魔して貴重なお話を伺った。
友野一希の「トモノのモノ語り。」
友野一希連載2022-2023シーズン開幕インタビュー!【 #トモノのモノ語り。】vol.4<フィギュアスケート男子>
2022.07.20 更新日:2023.12.22
フィギュアスケート界一のファッションラバー友野一希選手が自らのフィルターを通して大好きなモノを語る連載「トモノのモノ語り。」は、前回に引き続き連載スタート記念としてスペシャルバージョンでお届け中。
これまで大好きな洋服への愛や趣味、毎日をご機嫌に過ごすアイディアなど、知れば知るほど気になるその素顔をクローズアップしてきましたが、今回はフィギュアスケーター友野一希としての顏に迫ります。
人知れず積み重ねてきた努力を輝かしい結果に変え、自信という新たな武器を手にした先シーズン。成長できることへの喜びを胸に迎える新しいシーズンに際し、意気込みやプログラムにかける思いなどをインタビュー形式でお送りします。
▶「トモノのモノ語り。」vol.3 特別編(前編)
vol.4 特別編「2022-2023シーズン開幕インタビュー 」
新プログラムの振付と、クリケットクラブでの練習
――前回お話を伺ったのは世界選手権後の4月でした。その時もお忙しそうでしたが、7月はそれ以上にハードなスケジュールを送られていますね
はい、7月は怒涛のアイスショーに加え、シニア合宿と、有難いことに合間がほとんどなくてやばいです(笑)。でもショーに出演することで調子も上がるし、刺激にもなる。地方に行くのも楽しいですし。
特に「THE ICE」は、あの錚々たる出演メンバーの中に入るなんて、と呼んでいただけてうれしい気持ちでいっぱいで。しっかりツアーみたいに全国を回るのはほぼ初めてなのでとても楽しみなんです。
―― 本連載の近況報告でも教えていただきましたが、5月の海外での振付、練習についてさらに詳しくお話を伺えればと思います。まずは久しぶりのミーシャ・ジーさんとの対面での振付はいかがでしたか?
対面だとその場ですぐ意見交換ができることもあって、細部まで妥協することなく取り組めたのがよかったです。
たとえばプログラムを作る時は、自分のこだわりたいところと競技とのバランスを取るのが大変で。これだといきすぎかなとか、でも魅せるのも大事だし、というようにお互い客観的な視線を大切にしながら進めていきましたね。
盛り上がって感情的になってどんどん作っていっちゃうと、完成した時に「あれっ?」ってなっちゃうので。特にショートはハードでしんどい分、テンションが上がってかなりハイになりながら楽しく作ったので、時には冷静になって話し合うことも忘れないようにしました。
―― 振付時のコミュニケーションだけでなく、スケート観など深いお話までたくさんされたとおっしゃっていました(vol.2参照)。いつも謙遜されますが、英語のスキルもさらにアップされたのでは?
いえ、英語は喋れません。なんなら昔の方がまだ分かったって感じです(笑)。
知ってる単語とジェスチャーを駆使して、それを相手に読み取ってもらうって感じでなんとかなっているというか。
実は親の仕事の関係で小さな頃から英語と触れる機会が多かったこともあって、ニュアンスを汲み取ったり、聞き取ったりするのは得意なんです。あとはコミュニケーション能力でカバーしてます(笑)!
―― そうだったんですね! その後のカナダのクリケットクラブでの指導で印象に残っていることはありますか?
クリケットクラブにはミーシャの繋がりで行くことができたのですが、毎日本当に丁寧に指導してもらいました。
スケーティングはトレイシー・ウィルソン先生に、スピンはペイジ・エイストロップ先生に、ブライアン・オーサー先生には、ジャンプや全体を見てもらいました。
最初にジャンプを練習して、後半の枠でスケーティングをみっちり、最後にスピンで1日が終わるっていう流れで、こんなにしっかりレッスンしてもらえると思ってなかったので本当にびっくりして。
「これがダメだよ」とかは一切なく、僕らしさを活かしつつ、うまくなるためのプロセスを教えてもらいました。トップ選手のマインドや、練習に対する考え方、あとはジャンプについても跳び方を変えるとかじゃなく、今のままのスタイルでタイミングの取り方を教えてもらったり。ステップも自分で練習できるよう、クリケットクラブ流エクササイズを教えてもらって。
特にエクササイズについては、この動きが今まで動画などを参考に見様見真似でやっていたものが、どうやって作られたのか、どういうためにあるのかを理解できて感動しました。全身を使うことで流れるような感じで体重移動ができ、滑りに抜け感が生まれますし、すごく気持ちよく滑れます。
今回はクリケットクラブのメソッドが詰まった“教材”をいただいたって感じなので、後は自分次第ですね。これから練習を積んで自分のスケートに落とし込めたらいいなって思います。
ショートは“自分らしいからこそ、ごまかしがきかない”プログラム
―― 先日披露された新しいショートプログラムでも、激しさとその“抜け感”がうまく共存しているような印象を受けました
「Happy Jazz」の前半のパートはうまく力を抜くことで、こなれ感が出るようになったと思います。
今回は激しいプログラムの中でもいかに自然に踊れるかってのを大切にしていて。昔はとにかく頑張って頑張ってって感じだったけど、今は力の入れ方、抜き方がだいぶ分かってきたなって。どういう風にすれば魅せられるのか、自分のやり方が確立されてきたからこそ、プログラムにも反映されるようになったんじゃないかな。
今シーズンは「自分らしいけど実はやってこなかったもの」がテーマなんですが、その“自分らしい”っていうのが意外と難しいんじゃないかなって思ってて。
新しい印象のプログラムだったらその新鮮さに助けられる感じもあるけど、 自分らしいものになると、ごまかしがきかない。自分っぽいからこそ、突き詰めていかないと、「らしいプログラムだね」だけで終わってしまうので。
今回はアップテンポなので、ちょっとテンポが遅れるだけでぐだぐだになっちゃいますし。楽しいんだけど、実はめっちゃ難しいことをしてるから、今までで一番きついな、難しいなって感じるところもあったり。
だから、なおさらこの自分らしいプログラムで成長したところを見せたいって思うんです。
―― 成長のためにあえてハードルを課した選択だったんですね。印象的な振付が随所にちりばめられていますが、特に見てほしいところはどこでしょう?
やっぱりトリプルアクセル前のダンスパートですね、これまでのプログラムではなかなかあそこまで踊ることもなかったので。
ただそこでテンションをマックスまで上げた後、集中し直してジャンプを跳ばないといけないのが大変で。アップテンポな分、曲につられそうになってジャンプを合わせるのが少し、いやめちゃめちゃ心配ですけど、これから慣れていかないと。
今の完成度は15%くらい。これから試合ができるレベルまで上げていかないといけないですし、「Dreams on Ice」で初披露して気が引き締まりましたね。“やっと始まった”って。
―― やはり初披露の瞬間は特別なものですか?
それはもう。だから毎回お披露目のタイミングになる「Dreams on Ice」はマジで緊張しますし、見てくださっている方の反応はかなり気にしてます。
客席をよく見てるので、どれくらいの人が演技後に拍手してくださっているとか、立ってくださっているとか 。ドワッて大きな反応がある時はやっぱり全然違いますし、楽しんでくれてるかな?というのは常に気になりますね。
―― 見ている方の反応を大事にする、という姿勢が友野選手のスケートの魅力につながっていますよね。オレンジのシャツにサスペンダーという衣装も新鮮でした
衣装はまだ完成ではなくて、もうちょっと落ち着いた色とか、いろいろ試してみようかなって。サスペンダーは残します!
フリーはクラシックに挑戦、エキシビションはロックで自分の殻を突き破る!
―― 「THE ICE」でお披露目予定のフリープログラムについても教えてください
フリーは、オペレッタの『こうもり』序曲を。
次はクラシックをやりたいと話していて、ミーシャが選んでくれました。
これまでもいろいろな方が演じてきた有名な曲ですが、コミカルで今までのプログラムとはまたちょっと違うテイストになっています。
衣装は指揮者のイメージでタキシードのようなスタイルです。
―― ジャンプの構成はどのようになりますか?
ジャンプの種類を増やしていかなければならないので、4回転ループを入れられたら。あとはアクセルーアクセルのジャンプなども練習していけたらと思っています。
でもまずは質を上げることを一番に考えて、ひとまずはこれまでと同じ(4回転ジャンプ2種類3本の構成)で、そこから新ルールに合わせていくつもりです。
―― 「過去一やべープログラム」(vol.3参照)とおっしゃっていたエキシビションも気になります。
エキシビションは、激しめのロックで久しぶりに佐藤操先生とタッグを組みました。
今回、ショートもフリーもエキシビションも全部がやばいんですが、なんならエキシが一番やばいんじゃないかな。
曲は世界的に有名なギタリスト、MIYAVIさんの「WHAT’S MY NAME?」で、元々やりたかったもの。
言ってしまえば今までちょっといいこちゃん系統だったのが、殻を破ったって感じで男らしさ全開のめちゃくちゃかっこいいプログラムになってます。
スタイルはTHEパンクで、衣装はスタッズがたくさんついたレザージャケット。髪もカラーワックスで赤にして、いい意味でぐっちゃぐっちゃにしてやろうかなって。「え、 誰……?」ってなるくらいに(笑)。
やらせていただくからには中途半端なものにはしたくないですし、曲にしっかりリスペクトをもってやりたいと思っています。
心機一転で挑む新シーズン
―― そういえば最近スケート靴を変えられましたか?
そうなんですよ、小塚(崇彦)くんがプロジェクトに携わっている「Tobiha」という靴を試しているところで、ひとまず今シーズンはこれでいこうかなって思ってます。
まだ開発中の靴なので、公の場に出たのはほぼ初めてになるのかなと思いますが、僕は食わず嫌いするよりかは、なんでも試してみたい!っていうタイプなので。
カーボンファイバーを使用しているので軽さと反発があって、今まで体験したことのない不思議な滑り心地で。正直慣れ切れてない部分もあって跳びすぎちゃったりもしますが、跳びやすさは感じてるので、うまく使えるようになればジャンプがよくなるんやないかなって。
―― 靴も変わって、所属先も変わって、心機一転迎えるシーズンになりますね
はい、ちょうどセントラルスポーツさんとの契約期間が満了になり、今は以前所属していた上野芝スケートクラブに戻っています。
セントラルスポーツさんには、2018年の世界選手権終了後から約4年間、最後まで本当にたくさん援助していただいて、その力がなければ、僕はここまで成長できてなかったですし、そもそもスケートを続けられてなかったと思います。本当に出会えてよかった、自分は運がよかったと心から思っています。
今後はトレーニングの施設の提供などをサポートしていただくので、いつか恩返しができるようにもっともっと上を目指していかなきゃと思います。
現在は新しい所属先も全然何も決まっていなくて、探している途中です。こういうのは縁もありますし、難しいものではあるんですけど。
今はそれが一番の悩みですし、不安を抱えながら競技するのはやはり大変で。リアルな話にはなりますけど、今はいろいろなお仕事をいただけてなんとかやりくりをしていますが、できるだけ金銭面の不安はなくしたいと思っています。
なのでサポートしてくださるスポンサーさんを募集しています。僕はまだまだやるんで。ぜひ、よろしくお願いいたします。
上野芝スケートクラブは高校に入る以前に所属していたクラブで、そこのリンクは僕がスケートを始めた場所でもあります。リンクはなくなってしまったのですが、クラブはまだ残っています。
なので新しい所属先が決まるまでは、恩返しをするつもりで、僕がスケートを始めたこのクラブで、僕の原点で頑張りたいと思います。
―― 新たにチャンピオンシップメダリストという肩書が加わり、新シーズンを迎えるにあたって気持ちの違いはありますか?
あんまり変わりはなくて、ただ次に向けてやるだけと思ってたんです。
だけど「Dreams on Ice」で演技前に「四大陸選手権2位、世界選手権6位」ってコールされた瞬間、自分にとって今までで一番大きな成績が会場内に響き渡って、ちょっと感動したっていうのはありました。
自分の中ではもう過去のことにはなっていると思ってたんですけど、やっぱり今までとは違うものがあったみたいで。
同時に心臓がキュッてなって、これに見合う演技をしなきゃって気が引き締まりました。なんならこれを超えていかないといけない、そして今度は「優勝」にしたいなとも思いました。
―― 今シーズンは地元大阪開催での全日本選手権、そして日本開催の世界選手権が控えています
そうですね、今シーズンは代表として世界選手権に出場し、そこで(スモールメダルではなく)大きなメダルを取るっていうのが一番の目標です。今はそれに向かってひたすら頑張るのみです。
―― まもなくグランプリシリーズのアサインが発表されますね
どこになるだろう、NHK杯行きたいですね、ごはんもおいしいですし(笑)。
僕は日本食が好きなので、海外のごはんをずっと食べるのはきつくて……。どうしても日本食が食べたいっていう気持ちが大きくなっちゃうんです。
―― 代替地に決定したフィンランドといえばサウナが有名ですが……
そっかフィンランドになるんですね!
フィンランド式サウナ、めちゃめちゃ行きたいんです!!!
フィンランドに行くのが夢なんで……今回はサウナには行けないでしょうけど、いつか本場を体験してみたいですね。うわ、フィンランドめちゃくちゃ行きたい、超行きたい……!! 行けたらいいなあ……!
―― このインタビューが公開される頃には、アサインが出ているかもしれません。各国でのエピソードはぜひこの連載でたっぷり語ってくださいね!
語り/友野一希 撮影/田形千紘 取材・構成/轟木愛美 撮影協力/ラドリオ
※記事初出時、ご出演のアイスショーの名称を「Dream on Ice」と誤って記載しておりました。正しくは「Dreams on Ice」となります。ここにお詫びして訂正いたします。
Profile
フィギュアスケート選手 |
1998年5月15日生まれ、大阪府堺市出身。上野芝スケートクラブ所属。
趣味は古着屋巡り、サウナ。
“浪速のエンターテイナー”の異名をもつ、表現力豊かな唯一無二のスケーター。
層の厚い日本男子の中で、地道に積み重ねてきた努力が先シーズン開花。四大陸選手権2位、世界選手権では世界歴代6位の記録でショート3位につける大躍進を遂げ、今後ますますの活躍が期待される選手。
▶詳しいプロフィール&これまでの活躍はこちら
友野一希さん出演 アイスショー情報
◆THE ICE(ザ・アイス)
・7月23日(土)、24日(日)@愛・地球博記念公園アイススケート場
・7月26日(火)~28日(木) @MGC三菱ガス化学アイスアリーナ
・7月30日(土)、31日(日) @丸善インテックアリーナ大阪
※チケット情報などは公式サイトでcheck!
Interview
-
【友野一希選手インタビュー】最近のファッション事情から、ハマっていること、 私服コーデも公開!【フィギュアスケート男子】
趣味は古着屋さん巡りや革靴を愛でること。フィギュアスケート界きってのファッショニスタで知られる友野選手の最近のお買い物事情からファッションのこだわり、さらには最近ハマっていることについてたっぷり聞いてみました! こだわりの詰まった私服コーデも公開!
-
フィギュアスケーター友野一希連載【 #トモノのモノ語り。】vol.1<フィギュアスケート男子>
フィギュアスケーター友野一希選手の好きなことや、お気に入りのアイテムについて紹介する連載がスタート! 最近買ったもの、気になっていることのほか、競技に関することや、近況などを貴重なオフショットとともに報告!
-
フィギュアスケーター友野一希連載【 #トモノのモノ語り。】vol.2<フィギュアスケート男子>
フィギュアスケーター友野一希選手の好きなことや、お気に入りのアイテムについて紹介する連載がスタート! 最近買ったもの、気になっていることのほか、競技に関することや、近況などを貴重なオフショットとともに報告!
-
フィギュアスケーター友野一希連載【 #トモノのモノ語り。】vol.3<フィギュアスケート男子>
フィギュアスケーター友野一希選手の好きなことや、お気に入りのアイテムについて紹介する連載がスタート! 最近買ったもの、気になっていることのほか、競技に関することや、近況などを貴重なオフショットとともに報告! 第3回は、スペシャルバージョンでお届けします!
Kazuki Tomono 友野一希
フィギュアスケーター
1998年5月15日生まれ、大阪府堺市出身。
2026年のミラノ・コルティナダンペッツォオリンピックを目指す男子シングル日本代表。感情をスケートにのせ、観客の心まで躍らせるHappyな演技で世界を熱狂させる愛されスケーター。
古着、サウナ、インテリアショップ巡りなど多彩な趣味をもつ26歳。実直な人柄、好きなことに対する探究心など、近年は競技以外で見せる魅力にも注目が集まる。
表現の名手であり、オフシーズンはアイスショーに引っ張りだこ。各ショーの特性に合わせた多彩なパフォーマンスでエンターテイナーぶりを発揮している。
新シーズンは「競技者としてより高みへ」をテーマに練習に励む日々。今季のフリープログラムは『Butterfly』。さなぎが蝶へと変化するように、彼もまた、圧倒的変化を求め日々成長中。その美しき進化に出会える日はもうすぐそこだ。
- #Tag
- Share