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フィギュアスケート
2025.07.31更新日:2025.08.08
JUNHWAN CHA
世界中のトップスケーターが集まる夢のアイスショー「ファンタジー・オン・アイス」。今年で2度目の出演となった、韓国のチャ・ジュンファン選手の独占インタビューをお届け。

non-no webに登場してくれるのは、2022年のNHK杯以来、約2年半ぶり。開幕したばかりの新シーズンに際し、ショーの感想や先シーズンの振り返り、競技を続ける原動力まで、今の思いを率直に語ってくれた。
「ファンタジー・オン・アイス」でのかけがえのない経験

毎シーズン、さまざまなアイスショーに引っ張りだこのジュンファン。日本で開催されるアイスショーでは、すでにお馴染みの顔となっているが、意外にも「ファンタジー・オン・アイス」のデビューは、つい昨年のこと。前回は神戸・静岡公演で、家入レオさんとのコラボレーションナンバー「ワルツ」を披露。その後タフなシーズンを乗り越え、今年再び、「ファンタジー・オン・アイス」の舞台に帰ってきた。

「今年もまた出演することができてとてもうれしかったです。『ファンタジー・オン・アイス』といえば、アーティストとのコラボレーション。昨年はソロでのコラボでしたが、今年はグループナンバーが豊富で、他のスケーターたちと一緒に滑ることができたことが特に思い出深いです。ショー全体から素晴らしい雰囲気が伝わってきて、その一員になれたことがとても幸せでした。」

と話すように、2度目となる今回は、オープニングから始まり、映画『NINE』のリード曲「Cinema Italiano」、「オーバーチュア」/「抑えがたい欲望」、フィナーレの「Dance of Vampire Finale」まで、数多くのグループナンバーに出演。
その中でも特に宮原知子さん、坂本花織選手、中田璃士選手、アンサンブルスケーターズとのコラボレーションプログラム「Cinema Italiano」は、劇中のシーンさながらのゴージャスで凝った演出が目白押し。映画鑑賞が趣味のジュンファンにとってもお気に入りの演目だという。

「『Cinema Italiano』は、とてもわくわくするナンバー。滑りながら楽しい時間を過ごせたし、お客さんと一体になって盛り上がることのできるプログラムだったと思います。今回事前に映画を見ることはできなかったのですが、練習自体は最初から最後まで驚くほどスムーズで、苦労することなく本番を迎えることができました」

ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』を氷上で表現したスペシャルプログラムでは、歌唱に加え、演出も務めた城田優さんの氷上でのパフォーマンスに大変驚かされたという。
「『ダンス オブ ヴァンパイア』は、本当に素晴らしい時間でした。なにより驚いたのは、歌手である城田優さんがスケート靴をはいて滑っていたこと。さらにそのまま歌も披露されていたのがとても印象的でしたね。滑りもとても上手で、一緒にリンクを周回したのも思い出に残っています。長い演目でしたが、全出演者が参加するフィナーレということもあり、とても楽しかったです。」

2023-24シーズンのフリープログラム『THE BATMAN』の面影を感じる衣装も見どころの一つ。数多のショーに出演している中でも、ここまで強烈なコンセプトを演じるのは珍しいのではないだろうか。
「確かに!『THE BATMAN』もコウモリをイメージした衣装だったから似てますね笑。私もあのマントがとても気に入っているんです。ヴァンパイアというコンセプトにすごくマッチしていたし、特に冒頭の部分は、マントをうまく使って音楽やシーンを再現できていたと思います。『ダンス オブ ヴァンパイア』のような強くて激しい曲にはいつもエネルギーをもらえるんですよ。こうしたチャンスがまたあれば、もっとダークな世界観で、パワフルなビートにのった曲にも挑戦してみたいと思います。」

ソロパートでは、2024-25シーズンのショートプログラム「Natural」を披露。スケート靴をはくのさえ辛い痛みに悩まされ、棄権を余儀なくされたこともあった昨シーズン、この曲に何度もエンパワーメントされたという。
「昨シーズンは、ショートとフリーで私の違う一面を見せたいと思い、ショートではちょっとポップな曲に挑戦してみました。それがImagine Dragonsの『Natural』です。もともと気に入っていた曲で、特に力強い歌詞が大好きなんです。どこか懐かしさのあるポップスのような雰囲気もあって、振付をしてくれたシェイ(・リーン・ボーン)も気に入ってくれました」
崖っぷちに立たされても顔を上げて、決して諦めない ――そんな「Natural」の力強いメッセージにパワーをもらいながら、不屈の精神で過酷なシーズンを戦い抜いたジュンファン。改めて、昨シーズンの歩みを振り返ってもらった。
冬季アジア大会で悲願の金メダル

2024-2025シーズンも数々の“韓国男子フィギュア初”の金字塔を打ち立てたジュンファンだが、その道のりは決して平坦なものではなかった。
グランプリシリーズ1戦目のカナダ大会で銅メダル。ファイナル進出の可能性が見えたところだったが、続く2戦目のフィンランド大会では、足首の状態の悪化により、フリーの演技を見送ることに。
「右足首の怪我の具合はだんだんとよくなってきています。ただ、痛めているのは内側の部分で、スケート靴をはいている時は常にダメージを受けている状態。だから100%の回復は難しく、今はこれ以上悪化させないよう、マッサージなどを続けて、怪我とうまく付き合っていくしかないんです。」
慢性的な怪我のケアもしながら、シーズンを通して11大会に出場。特に年が明けてからは、国内選手権、冬季ユニバーシティゲームズ、冬季アジア大会、母国開催の四大陸選手権と、主要大会が続いた。
その中でも、持ち前の完成度を追求した演技と、強靭な精神力をもって金メダルをつかんだ冬季アジア大会は、シーズン最大のハイライトとなった。


「冬季アジア大会では、他のスケーターのことは考えず、とにかく自分のことだけに集中していました。ショートでは小さなミスがありながらも、最善を尽くせたと思います。フリーでは許されないミスが何度かあったけど、そういう時のための“プランB”でリカバリーをして、減点を最小限に抑えました。
フィニッシュポーズを決め天を仰いだ瞬間、“今、自分にできることはすべてやりきった”と心の底から感じました。
と同時にほっとして体も心も軽くなり、目の前の景色がまるで光に包まれているかのように見えたんです。自分自身を解き放ったような宝物のような感覚。自分に集中したからこそ、得られた心からの達成感と、静かな幸福を感じた瞬間でした。」

極限まで集中力を発揮し、自分だけの「ロコへのバラード」を氷上に表現した4分間。プログラムに自分だけのストーリーをのせて滑ることで知られるジュンファンだが、今季の「ロコへのバラード(Balada para un Loco by Milva, Astor Piazzolla)」には、どのようなイメージを重ねていたのか尋ねてみた。
「このプログラムを滑るにあたり、ボーカルのミルバの歌声にすっかり魅了されてしまい、その“声”をスケーティングで表現しようと考えました。そうすることで自分の演技にも自信が持て、彼女の声をうまく滑りに溶け込ませることができたと思います。
ですので今回は明確なオリジナルストーリーはありませんが、もし想像するとしたら……最初のパートは、午前5時、早朝の街をひとり歩きながら、独り言を話しているようなイメージでしょうか。それが曲が進むにつれて、どんどん声が大きくなって、最後には大声で歌い出すような……そんなストーリーを想像しながら、プログラムを作りました。」
そのイメージ通り、この大舞台で見せたのは、自身がどれだけスケートに熱い思いを抱いてるかを伝えるような情熱的な滑り。ミルバの力強い歌声に呼応するように、少しずつ熱を帯び、あふれる思いを歌うように全身で描き出していくスケーティングだった。
この大会は、アジア冬季スポーツの最高峰の舞台。この大一番で、底力を発揮できた理由とは。
「とにかく後悔だけはしたくないんです。いつだって、やることは全部やるというのが私のモットー。演技前にしっかり深呼吸をして、一つ一つのシーンを丁寧に表現することに集中したことが、結果に結びついたのだと思います。」
あらゆるプレッシャーを引き受けて尚、自身の真価を証明してみせたジュンファン。この経験はオリンピックシーズンを戦い抜く上で、きっと大きな武器となるはずだ。
スケートを長く続ける原動力

来る新シーズンを前に、取り巻く環境にも変化が。大学卒業後の進路として、ソウル市が冬季スポーツを強化する目的で創設した実業団チームに入団したのだ。これは韓国フィギュア界の歴史上、初めてのこと。韓国では大学卒業を待たずリンクを離れる選手が多い中、彼は卒業後もスケートと生きる道を切り拓いてみせた。その原動力と、怪我に悩まされながらも長くこの競技を続けてこられた理由はどこにあるのだろうか。
「私がスケートを続けている理由は、自分のためだけというよりも、さまざまな責任を感じているから。でもその責任感こそが逆に最大のモチベーションになっているんです。怪我については、もう半分諦めて付き合っている部分もありますから。」
その責任は、国内選手権9連覇という偉業を成し遂げた絶対的エースとしての立場によるものかと聞いてみると、ジュンファンは「そうではない」と言う。
「チームや後輩の存在が大きいです。なぜなら私は国内ではもうほぼ最年長。韓国には若いスケーターがたくさんいて、彼らのために何ができるかと考えた時、世界選手権やオリンピックの国別出場枠の確保が非常に重要なこと。自分のために頑張るぞと思うこともありますけど、不思議なことに、後輩たちのためと考えたほうが私にとっては責任を感じますし、力が湧いてくるんです」
と、大舞台を踏むことで成長してきた彼らしい答えをくれた。
そんな考えを象徴するように、これまでの競技への向き合い方や成績はもちろん、近年ではチームコリアの精神的支柱としての存在感も際立っている。
たとえば、初出場の国別対抗戦でキャプテンとして休む間もなく応援席で声を上げ、チームの士気を鼓舞。また、国内大会の表彰式では後輩スケーターと楽しげにコミュニケーションを取るなど、チームの大黒柱として常に頼もしい背中を見せている。

「チームコリアの頼れる素敵な先輩なんですね」と声をかけると、「Maybe、笑」と少し照れたように笑いながら、「自分からアドバイスをすることはないんですが、時々後輩たちが話しかけてくれたり、質問しにきてくれたりすることがあって。そういう時は、できる限り力を貸すようにしています。」と、後輩思いな姿をのぞかせた。
エモーショナルな新プログラム

強い決意と共に向かう勝負のシーズン。気になるのは、新しいプログラム。
毎年世界選手権が終わると、春から初夏にかけてアメリカに渡り、長年タッグを組むシェイリーン・ボーンのもとで振付作業を行うのが恒例となっている。
「新プログラムはすでに完成しています。いつも念のためショートとフリーで6日間ずつ予定をとっているのですが、今年はかなり順調に進み、フリーのほうはなんと2、3日ほどで完成したんです。もちろん後から要素を追加したり、細部を詰めたりしましたが、振付作業そのものはあっという間でした。」
それほどまでにスムーズに進んだのは、長い間二人で作品を作り上げてきた関係性があるからだろうか。
「もしかしたら、それも理由の一つかもしれません。もう7年以上、シェイとは一緒にやってきていますから。彼女はいつも熱心にスケーターに向き合い、自身のエネルギーをめいっぱいプログラムに注いでくれるんです。」
毎シーズン“新しい姿を見せる”ことを命題にしているジュンファン。オリンピックシーズンは、これまでのプログラムを通して見つけた得意ジャンルや、“自分らしさ”が出るプログラムを選ぶスケーターも多いが、今シーズンもジュンファンのスタンスは変わらない。新プログラムは“カラフル”だと言うが、他にもヒントを聞いてみた。
「昨シーズンとは全く異なるプログラムに仕上がっています。だから新鮮な気持ちで、日々楽しく取り組んでいるところ。ヒント……そうですね、今回はショート、フリーともに僕の感情が強く込められいて、雷雨のような激しさを秘めているんです。」
3度目のオリンピックシーズンへ


そんな自身を投影したエモーショナルなプログラムを携え、ジュンファンは3度目のオリンピックシーズンを迎える。
初めてのオリンピックは2018年。熾烈な国内選考を勝ち抜き、韓国男子ただひとつの代表枠をつかみ取り、出場選手最年少の16歳で五輪の舞台に立った。
2度目は、パンデミックの影響で練習拠点のカナダに渡れない状況のなか迎えた北京オリンピック。その後は、世界選手権銀メダル、冬季アジア大会優勝と、着実に実績を積み重ね、トップスケーターとしての地位を確立してきた。
そして今、ミラノ・コルティナオリンピックが視野に入るなか、この3度目のオリンピックはジュンファンのキャリアにとってどのような位置づけとなるのだろうか。
「正直、自分が今どのステージにいるのかは、はっきりとは分かりません。ただ、これまでのことを振り返ってみると、オリンピックシーズンには本当に多くの学びがあって、その経験が自分を成長させてくれたと感じています。それは私だけでなく、どのスケーターにとっても同じこと。だから、今は楽しみな気持ちでいっぱいです。
過去2シーズンは怪我をしていたため、試合と回復を並行して進める日々でした。だから実は私にとっての最大の目標は、最初から最後まで健康に、シーズンを完走すること。あとはこれまで通り一歩ずつ着実に積み重ねていければ、きっと自然と、自分が満足できる結果がついてくると信じています。」

オリンピックは自分を成長させてくれるもの。
一歩ずつ地道に進んでいけば自ずと結果はついてくる-JunHwan CHA-
今までもこれからも。
新たな道を切り拓くジュンファンの挑戦は続いていく。
今シーズンも尽きることなきスケートへの情熱をもって、氷上に自分だけの世界を映し出してくれるはずだ。
Profile

▶競技以外の姿にアプローチした、番外編“Jun’s Latest Updates”も!
Staff Credit
Photo/Aki Ichimori Fantasy On Ice 2025 Aflo
Interview/Manami Todoroki
Interpret/Rico Ota
Ⓒ Fantasy On Ice 2025

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