フィギュアスケート

「ファンタジー・オン・アイス2025」スペシャルコラボナンバーを詳細レポート!【フィギュアスケート】

2025.07.03更新日:2025.07.04

5月31日、6月1日にと2日間にわたって開催されたアイスショー「太陽生命Presents Fantasy on Ice 2025 in MAKUHARI」(以下、「ファンタジー・オン・アイス」)。
氷上で繰り広げられた夢のような時間を、グループナンバーの選曲や演出にフォーカスして振り返ります。

「ファンタジー・オン・アイス2025」

「ファンタジー・オン・アイス2025」ビジュアル
Ⓒ Fantasy On Ice 2025 

国内外から豪華なスケーターとアーティストが集い、年々進化を続ける「ファンタジー・オン・アイス」。
今年は演出家・金谷かほりさんが新たに加わり、ステージ全体の構成がより一層ドラマチックに。さらに、ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』で主演を務める城田優さんが演出にも参画。
舞台とリンクが融合した構成で、“氷上ミュージカル”の新たな形を示した。

オープニング

まずは、毎年キャストも楽しみにしているという躍動感満載のオープニング。

「ファンタジー・オン・アイス2025」のオープニングを滑るチャ・ジュンファン

会場が暗転し、リンクに浮かび上がるネオンカラーの衣装。おなじみのオープニングテーマが脈打つ心臓のようにリズムを刻むと、ショーが始まる高揚感が会場全体を包み込む。

「ファンタジー・オン・アイス2025」のオープニング
Ⓒ Fantasy On Ice 2025 

今年のオープニング衣装は、明るさを抑えた照明の中でひときわ映える、カラフルなルック。風を切るようにリンクに飛び出していくスケーターを、観客が手拍子と歓声で迎える。
やがてリンクを縦横無尽に滑っていたスケーターたちが中央に集まり、リンクに円を描き出すと、最後は天に向かって拳を突き上げフィニッシュ。

熱が冷めやらぬ中、ゲストアーティストの露崎春女さんとエリアンナさんがFanatsy on Ice Specialバンドとともに登場。「Celebration」の歌声が響くと、クールな空気が一転、リンクはハッピーな祝祭ムードに包まれる。スケーターたちは「Come on!」と客席に手招き。観客も一体となり、氷上で開かれる最高のパーティが幕を開けた。

コラボレーションナンバー

今年の「ファンタジー・オン・アイス」では、コラボレーションナンバーが過去最大級のスケールに進化。
従来のアーティスト×スケーター、一対一の枠にとどまらない豪華な競演に、このショーに欠かすことのできないFaOIバンドの生演奏が加わり、ここでしか味わえないライブ感と熱気に満ちたステージが誕生した。

ロランス・フルニエ・ボードリー&ギヨーム・シゼロン
「A Million Dreams」(FaOI BAND/城田優/エリアンナ)

ロランス・フルニエ・ボードリー&ギヨーム・シゼロン

「ファンタジー・オン・アイス」に欠かせない存在の一人が、アイスダンサーのギヨーム・シゼロン選手。
ガブリエル・パパダキスさんとのカップル“パパシゼ”としてこれまで何度も出演、さらには昨年のステファン・ランビエールさんとの芸術的な共演も記憶に新しいところ。

世界選手権を5度制覇、北京オリンピックでは金メダルを獲得するなど、長年にわたりアイスダンス界をリードしてきたが、昨年、パパダキスさんとのカップルを解消。惜しまれつつ競技を退くこととなったものの、今年3月、カナダ出身のロランス・フルニエ・ボードリー選手との新たなカップル結成を発表。このショーが、公の場での記念すべき初パフォーマンスとなった。

「ファンタジー・オン・アイス2025」で 「A Million Dreams」を歌う城田優さん
Ⓒ Fantasy On Ice 2025 

曲は、ショービジネスの原点を築いた伝説の興行師、P.T.バーナムの半生を描いた映画『グレイテスト・ショーマン』の劇中歌「A Million Dreams」。少年時代のバーナムが、思いを寄せる少女・チャリティに自分の夢を語るシーンで歌われる、夢を持ち続けることの大切さを描いた一曲だ。

「無数の夢は叶えるためにある」「その夢を分かち合いたい」――そんな歌詞は、新たな夢に向かって歩き出す二人の物語の幕開けにぴったり。
城田優さんの語りかけるような優しい歌声に、エリアンナさんのハートフルな歌声が重なり、二人の門出を優しく後押しするナンバーに仕上がっていた。

友野一希、青木祐奈
「Chopin 幻想即興曲」/「Vivaldi 冬」(FaOI BAND)

友野一希、青木祐奈の「Chopin 幻想即興曲」/「Vivaldi 冬」

クラシックの名曲「Chopin幻想即興曲」や「Vivaldi 冬」をEDMに大胆アレンジした楽曲でコラボレーションしたのは、友野一希選手と青木祐奈選手。今やこのアイスショーに欠かせない存在となった二人が、鈴木明子さんの振付によって“愛の物語”を氷上に紡ぎ出した。

「ファンタジー・オン・アイス2025」での友野一希選手と青木祐奈選手のコラボナンバー

奇しくも同じ振付師のもとで表現を磨き、アイスショー『滑走屋』で氷上エンタテインメントの新境地を共に切り拓いてきた二人は、いわば“戦友”のような存在。
それだけに、心を響かせ合う後半では、思い描く景色と信念がぴたりと重なり、見事なユニゾンが生まれた。

そして時に、交わるようで交わらない二人の思いを、せわしなく高鳴るビートが激情的に掻き立てる。衝動と熱を全身で放出しながら、細部の音までも丁寧にすくい取り表現してみせる気概は、さすが表現の名手である二人。

クラシックと現代的リズム、そして現役シングルスケーター同士の表現力が交差した、衝撃的な4分半だった。

田中刑事
「夢の種~I’ll be by your side」(FaOI BAND/城田優)

「ファンタジー・オン・アイス2025」で夢の種を滑る田中刑事さん

リンクいっぱいに広がる光の粒が、まるで命を吹き込まれたかのように煌めく。その中央に姿を現したのは、白いシャツをまとった田中刑事さん。

プロスケーターとしてはもちろん、若手を導くコーチとしても活躍する彼が披露したのは、夢を追うすべての人に向けた応援歌。昨年リリースされた城田さんのオリジナル曲「夢の種~I’ll be by your side」だ。

「ファンタジー・オン・アイス2025」での城田優さん
Ⓒ Fantasy On Ice 2025 

プロならではの卓越した表現力と、競技を離れてもなお磨き続けてきた技術を織り交ぜた、極上のパフォーマンス。
繊細で伸びやかな身のこなしの中に、力強い意思を込めたスケーティングは、彼自身の歩みを映すかのよう。

城田さんの芯のある歌声に寄り添いながら、氷上を彩っていく情感豊かな演技。
夢を追いかける二人が手を差し伸べ合うラストには、未来への希望が優しく差し込んでいた。

・アリーナ・ザギトワ with Ensemble
 「Conga」(FaOI BAND/露崎春女/エリアンナ)

・織田信成、ロランス・フルニエ・ボードリー&ギヨーム・シゼロン、ステファン・ランビエールwith Ensemble
 「愛のコリーダ」/「September」(FaOI BAND/露崎春女/エリアンナ)

「ファンタジー・オン・アイス2025」でのディスコメドレー
Ⓒ Fantasy On Ice 2025 

第一部のラストを飾ったのは、70〜80年代のディスコメドレー。
ワイドカラーのジャケットやベルボトム、タイトなドレスにグリッターが光る、懐かしくも華やかな装いで登場したスケーターたち。ミラーボールのきらめきが氷面を照らし出せば、そこは一瞬で夢のダンスフロア。心躍らせるソウルフルな生歌唱、バンド演奏が臨場感を添える。

前半のディスコ・クイーンは、平昌オリンピック金メダリストのアリーナ・ザギトワさん。「Conga」の軽快なリズムにのった弾むようなダンスで、観客を一気にパーティの中心へと引き込んでいく。

後半の主役は、織田信成さん、ロランス・フルニエ・ボードリー&ギヨーム・シゼロン組、ステファン・ランビエールさん。「愛のコリーダ」で勢いよくリンクに飛び出した織田さんがパワフルなジャンプを披露し、さっそく観客を煽ると、華やかにステップを踏みながら登場したランビエールさんが、全方向に笑顔と愛をふりまいていく。ボードリー&シゼロン組がその流れを受けて、鮮やかに空間を染め上げ、情熱的なメロディとともに、リンクを熱く包み込む。

続いて、ディスコミュージックの王道「September」の胸躍るメロディが流れると、パーティはいよいよクライマックスへ。輪になって踊るスケーターたちが次々と中央に飛び出し、思い思いの技を繰り出すシーンは、まさにディスコの再現。ファンクなビートに身を任せたダンスでリンク中を駆け回り、氷上のパーティの盛り上がりは最高潮に。客席全体をポジティブなパワーで満たし、第一部の幕は晴れやかに下ろされた。

ステファン・ランビエール、田中刑事 with Ensemble(Men)
「Feeling Good」(FaOI BAND/城田優)

「ファンタジー・オン・アイス2025」で「Feeling Good」を歌う城田優さん
Ⓒ Fantasy On Ice 2025 

幕あいから一気に非日常へと引き戻すように、FaOIバンドの生演奏で第二部が始まる。
第一部のきらめくパーティムードとは打って変わって、「Cry Me A River」の旋律とともに、氷上には冷たくダークな空気が流れ込み、会場の温度が一段と下がったような感覚にさえ陥る。

スタンドマイクにそっと手を添え、低く深みのある声で歌い出したのは、城田さん。
艶やかなスーツに身を包んだランビエールさん、田中さんらがリンクに現れると、ステージに“夜”の影が静かに迫ってきた。

楽曲は数多くのアーティストにカバーされてきたジャズの名曲「Feeling Good」。今回使用されたのは、ジャズシンガーのニーナ・シモンによる重厚なバージョン。
静かな導入から一気に熱を帯びて立ち上がる構成が、舞台に大人の魅力と深みをもたらす。

「ファンタジー・オン・アイス2025」で「Feeling Good」を滑る田中刑事さん

ジャケットの裾を翻しながら見せる、大人の美学が宿るステップ。第一部とは対照的な、ダンディでシニカルな一面がじわりと滲み出る。

「ファンタジー・オン・アイス2025」で「Feeling Good」滑るステファン・ランビエール

客席に視線を送りながら、余裕たっぷりに滑り上げるランビエールさん。代名詞である美しいスピンが円熟した色気を添える。

「ファンタジー・オン・アイス2025」でのコラボナンバー「Feeling Good」
Ⓒ Fantasy On Ice 2025 

城田さんの甘く煙るような声に酔いしれる時間は、あっという間に過ぎてゆく。ラストは、氷上で遊戯を繰り広げた男たちがステージに腰を下ろし、物憂げな視線を投げかける、洗練された、けれど鮮烈なフィニッシュ。
余韻をまとわせながら次のソロナンバーへとなだれ込む、ショー全体の構成力もまた見事だった。

宮原知子、坂本花織、チャ・ジュンファン、中田璃士 with Ensemble
「Cinema Italiano」(映画『NINE』より)

「ファンタジー・オン・アイス2025」でのコラボナンバー「Cinema Italiano」
Ⓒ Fantasy On Ice 2025 

宮原知子さん、坂本花織選手、チャ・ジュンファン選手、中田璃士選手という多彩な4人で披露したのは、ミュージカル映画『NINE』の劇中歌「Cinema Italiano」。
主人公の愛人であるファッション誌の記者ステファニーが、イタリア映画界をシニカルに、そして痛烈に風刺しながら歌い上げるポップナンバーで、スタイリッシュなメロディと、毒気を帯びたウィットが光る一曲だ。

「ファンタジー・オン・アイス2025」でのコラボナンバー「Cinema Italiano」でのチャ・ジュンファン

その世界観を氷上に再現したこのプログラムは、衣装も映画から飛び出してきたかのような本格派。
女性陣はきらめくフリンジドレス。男性陣は黒のベストにネクタイ、革のグローブという出で立ちで、映画のスーツスタイルをスケート仕様に軽やかに落とし込んだスタイリッシュなルック。

女性陣が可動式ステージに乗って、翻弄するようにポーズを決めながらゴージャスに男性陣のもとに現れると、ひと夜のショータイムがスタート。

「ファンタジー・オン・アイス2025」で「Cinema Italiano」を滑るチャ・ジュンファンら

力みのない洒落たスケーティングと、炸裂するビートにぴたりと合わせたポージングの、しびれるようなコントラスト。さらに、次々と変わる一筋縄ではいかないフォーメーションといった大人の遊び心と鋭さが交錯するパフォーマンスは、劇中で描かれる男女の駆け引きさながら。

「ファンタジー・オン・アイス2025」の「Cinema Italiano」練習中のチャ・ジュンファン、坂本花織、中田璃士
Ⓒ Fantasy On Ice 2025 

ラストは全員が一列に並び、ビシッとポーズを決めた鮮やかな幕引き。
大がかりで完成度の高いグループナンバーだけに、さぞかしリハーサルは大変だったのでは……と思いきや、意外にも驚くほどスムーズに進んだそう。
実際、リハーサル中のオフショットには笑顔があふれていて、チームの一体感がそのまま本番の熱へと繋がったことが伝わってきた。

アンナ・シェルバコワ with All Skaters
「オーバーチュア」/「抑えがたい欲望」/「オーバーチュア」(FaOI BAND/城田優)

ショーはいよいよクライマックスへ。
自身が主演を務めるミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』を再構成した城田さん演出のスペシャルプログラムの幕が開ける。

「ファンタジー・オン・アイス2025」でクロロック伯爵を演じる城田優さん

風が吹き荒れ、雷鳴が轟くリンクに、異界への扉が開かれる。燭台を手にしたヴァンパイアたちがうごめくように群れをなす中、赤いドレスをまとった少女サラ(アンナ・シェルバコワさん)が迷い込み、闇の中を逃げ惑う。

「抑えがたい欲望」の、重くもの悲しい調べと共にゆっくりと棺桶の扉が開き、スモークの奥からぼんやりと浮かび上がる一つの黒い影。
リンクの中央で、城田さん演じるクロロック伯爵の独白が始まる。

「ファンタジー・オン・アイス2025」でのクロロック伯爵を演じた城田優さんと、サラ演じるアンナ・シェルバコワ
Ⓒ Fantasy On Ice 2025 

幾世紀にわたる記憶を反芻する伯爵の前に、かつて彼が惹かれ、そして失ってきた女性たちが次々と姿を現す。記憶と渇望を氷上に浮かび上がらせる、ストーリー仕立ての演出だ。

不死であるがゆえの孤独。永遠に満たされることのない苦悩が、切々と吐露されていく。

「世界中の全てを理解しても この私がわからない 自分でさえ」――。
その痛切な思いを吐き出すと、なんと伯爵自身がステージから降り立ち、静かに氷の上を滑り出したのだ。
約1年の月日をかけ、忙しい日々の合間を縫いリンクに通い続けてきたという城田さん。ゲストアーティスト自身がリンクに降り立ち、物語の中心を演じるという構成は、「ファンタジー・オン・アイス」の長い歴史の中でも、おそらく初となる演出だろう。

「ファンタジー・オン・アイス2025」での城田優さんとアンナ・シェルバコワのクライマックスシーン
Ⓒ Fantasy On Ice 2025 

伯爵の孤独が立ち込めるリンクに戻ってきたサラは、抗えぬ思いに導かれるように伯爵へと近づく。そして、ついに伯爵がその首筋に牙を立てた瞬間、リンクは闇に包まれ、壮絶な物語の終焉を迎えた。

「Dance of Vampire Finale」
(FaOi BAND/城田優/露崎春女/エリアンナ)

「ファンタジー・オン・アイス2025」のフィナーレの友野一希さん、チャ・ジュンファンさん

伯爵とサラの運命を見届けた“ヴァンパイア”たちは、そのままエンディングへ。
全アーティストが集まり、濃密な劇世界の余韻を胸に、華やかなグランドフィナーレが始まる。

「ファンタジー・オン・アイス2025」のフィナーレの友野一希さん
「ファンタジー・オン・アイス2025」のフィナーレの城田優さん

開放感あふれる笑顔で手をたたき、喜びを分かち合うスケーターたち。
最後は列をなし、伯爵とともにリンクを一周しながら観客に大きく手を振り、ごあいさつ。
このショーを情熱的に彩ったアーティスト、バンドメンバーに惜しみない拍手が送られ、夢のような時間が幕を閉じた。

✨Special Cut✨

「ファンタジー・オン・アイス2025」のリハーサルの様子
Ⓒ Fantasy On Ice 2025 

ソロナンバー演目紹介

一つの物語のように、コラボレーションナンバーをつないでいったのが、各スケーターのソロナンバー。スケーターのコールを極力控え、プログラム同士のつながりを重視した、物語性のある構成も話題を呼んだ。

「ファンタジー・オン・アイス2025」でNaturalを滑るチャ・ジュンファン

宮原知子「Dance the Night」

オープニングの熱気をそのまま引き継ぐように、トップバッターとして登場したのは宮原知子さん。映画『Barbie』の劇中歌「Dance the Night」に合わせて、バービー人形の箱から飛び出すという遊び心たっぷりの演出も、年々ショーマンシップに磨きをかける、彼女ならではのスタイルだ。

チャ・ジュンファン「Natural」

チャ・ジュンファン選手は、昨シーズンのショートプログラム「Natural」を披露。
すべての音を逃さず捉えるスケーティングに、低音のビートにぴたりと重なるキレのあるジャンプ。力強く切れ味鋭い動きの中にも、制御された冷静さが光る。
彼のシグネチャームーブメントを余すところなく堪能できる、贅沢なナンバーだった。

アンナ・シェルバコワ「My Tunnels Are Long and Dark These Days」

北京オリンピック女子シングル金メダリストのアンナ・シェルバコワさん。日本で6年ぶりとなる演技に選んだのは、「My Tunnels Are Long and Dark These Days」。
滑る一歩ごとに陰影を感じさせる、抒情的な演技。成熟したしなやかさとともに、大人びた新たな表情を見せた。

「ファンタジー・オン・アイス2025」で「Non, je ne regrette rien」滑る坂本花織選手

坂本花織「Non, je ne regrette rien」

坂本花織選手は、純白の衣装でフランスの名曲「Non, je ne regrette rien」を披露。エディット・ピアフが歌い上げた、過去を振り返らず前を向いて生きる女性の物語を、力強く、しなやかに氷上に映し出した。
心に訴えかけてくる歌声と、低く鳴り響く律動、そして坂本選手の雄大な滑り――三位一体となった表現が、壮大な世界を描き出す。
これまでにも「No More Fight Left In Me」などで芯のある女性像を演じてきた彼女。今回もまた、凛とした強さと清らかさをもって、シャンソンの名曲に新たな命を吹き込んだ。振付は宮原知子さん。

「ファンタジー・オン・アイス2025」で「Victorious」を滑る中田璃士選手

中田璃士 「Victorious」」

中田璃士選手は、世界ジュニアチャンピオンにふさわしい風格で、今シーズンのエキシビションナンバー「Victorious」を初披露。
カナダで振付された新プログラムは、スピード感にあふれ、見る者をぐいぐい引き込む力強さ。とどまることを知らない勢いと、“勝利”にこだわる中田選手の信念が重なったナンバーは、会場にスタンディングオベーションを巻き起こした。

「ファンタジー・オン・アイス2025」で「like you're god」を滑る青木祐奈選手

青木祐奈「like you’re god」

ステファン・ランビエールさんと、田中刑事さんらによる「Feeling Good」の余韻と哀愁が漂うリンクに登場した青木祐奈選手。
昨年「Whole New World」で共演した城田さんから、そっと送り出されるように現れる演出も心憎い。
楽曲は、「like you’re god」。ダークなコンセプトも今や彼女の得意領域。艶のあるスケーティングで、リンクを支配してみせた。

「ファンタジー・オン・アイス2025」で「Halston」を滑る友野一希さん

友野一希 「Halston」

その静謐なリンクに、ピアノの調べとともに現れたのは、友野一希選手。今シーズンは、2023-2024シーズンのフリーをリバイバル。
振付師ミーシャ・ジーさんと話し合いを重ねながら丁寧にブラッシュアップした新生「Halston」は、プログラム全体の流れをより意識した構成と振付になっているという。
淡々とした旋律に込めた静かな情熱。ブレードが氷を削る音、スポットライトだけのシンプルな照明は、彼の極限まで研ぎ澄まされたスケート世界に触れるのにふさわしく、観客は息をするのも忘れてその光に魅せられていた。

「ファンタジー・オン・アイス2025」で滑るロランス・フルニエ・ボードリー&ギヨーム・シゼロン組。

ロランス・フルニエ・ボードリー&ギヨーム・シゼロン 「Metamorphosis 2」

ピンと張り詰めた空気の中、氷上に現れたのは、ロランス・フルニエ・ボードリー&ギヨーム・シゼロン組。
選曲は、フィリップ・グラスの「Metamorphosis 2」。短いフレーズが幾重にも繰り返される中で、音楽は静かに、しかし確実に姿を変えていく。二人はその微細な変化を、距離感や視線、動き一つひとつに織り込み、結成間もないとは思えないほどの濃密な世界を氷上に描き出した。

「ファンタジー・オン・アイス2025」で「Send In the Clowns」を滑る織田信成さん

織田信成 「Send In the Clowns」

「Cinema Italiano」の熱気が残るリンクに、すっと姿を現したのは、ピエロの衣装に身を包んだ織田信成さん。
曲は「Send In the Clowns」。弦のような音色とともにその場に座り込むと、先ほどまでの明るい空気が嘘のように消え、織田さんが作り出す世界がリンクにしんしんと降り積もる。
時折見せるコミカルな動きの中にも哀しみがにじみ、現役復帰を経て、プロスケーターとして歩む彼ならではの多彩な表現が光る。さらに、随所にちりばめられた花びらが舞うようなジャンプが哀しみにそっと寄り添っていた。
一度はピエロの衣装を脱ぎ去るものの、ラストは、どちらの自分もまるごと抱きしめるように受け入れ、張り詰めていたものをそっと手放すような表情で舞台を締めくくった。

ステファン・ランビエール 「Je m’voyais déjà/Hier encore」

すると、舞台が鮮やかに切り替わり、静寂に包まれたリンクに軽快なイントロが響く。姿を現したのは、ステファン・ランビエールさん。
「ファンタジー・オン・アイス」最多出場を誇り、毎年どんなパフォーマンスを見せてくれるのか、観客が心待ちにする存在だ。
今年披露したのは、フランスの歌手シャルル・アズナブールの「Je m’voyais déjà」と「Hier encore」。
前半は、生まれ育った村で“世界を征服したい”と夢見ていた少年時代を、軽やかに、そしてひとさじのチャーミングさを添えて表現。
やがてジャケットを脱ぎ、照明がブルーに染まると、「Hier encore」とともに物語は転調。これまでの人生を雄弁な滑りで描き出していく。少年時代と今の両方を閉じ込めた、人生のスケッチのようなプログラム。いつまでも見ていたくなる、余韻に富んだ美しい時間だった。

アリーナ・ザギトワ
「Who wants to live forever」
(FaOI BAND/露崎春女/エリアンナ)

アリーナ・ザギトワさんの演目は、QUEENの「Who Wants to Live Forever」。
このショーのために自ら振付し制作したという意欲作だ。
露崎春女さんとエリアンナさんの包み込むような歌声と、FaOIバンドの生演奏が、楽曲の持つ壮大な世界観を浮かび上がらせた。
光を巧みに使用した幻想的な演出で、持参したランタンを愛しそうに抱く姿が胸に残るプログラムだった。

「ファンタジー・オン・アイス2025」のフィナーレ
Ⓒ Fantasy On Ice 2025 

「ファンタジー・オン・アイス2025」は、以下の日程にてCSテレ朝チャンネル2にて放送予定。ぜひお見逃しなく!

「ファンタジー・オン・アイス2025」放送予定

 CSテレ朝チャンネル2
 <初日第2公演> 7月13日(日)18時~20時15分
<初日第1公演> 8月9日(土)14時~16時15分

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