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フィギュアスケート
2023.10.26更新日:2023.10.30
初公開日:2019年11月1日
車 俊煥、チャ・ジュナン、차준환 2001年10月21日生まれ、韓国 ソウル特別市出身。 身長178cm。趣味は音楽、映画鑑賞。国内選手権7連覇中の韓国の絶対的エース。2016年ジュニアグランプリファイナル銅メダル、2018年グランプリファイナル銅メダル、2022年四大陸選手権優勝、2023年世界選手権銀メダルと、常に韓国男子シングルの最初の道を歩む。
流麗なスケーティングとエモーショナルな身のこなしで、見る者の心を奪う芸術的スケーター。代名詞ともいえる優雅なイナバウアーで、どんな有名プログラムも自分色に染め上げる名手。
15歳で韓国選手権を制して以降、現在7連覇中の絶対的エース。ジュニア時代には、4回転サルコーを武器にジュニアの歴代最高得点を更新。シニアデビューの年となった2017-2018シーズンには、代表1枠という厳しい国内戦を勝ち抜き、自国開催の平昌オリンピックにも出場。2018年にはシニア2年目にして韓国男子史上初のグランプリファイナル出場を果たし、銅メダルを獲得。
新型コロナウイルス感染症拡大以降、練習拠点のカナダに渡れない中でもひたむきに自分と向き合い、2021年の世界選手権で韓国男子史上最高位の10位に。2022年には、権威のある四大陸選手権で金メダルを獲得。さらに20歳にして2度目のオリンピックに出場を果たし、こちらも最上位となる5位入賞。2023年にはついに世界選手権で銀メダルと、毎シーズン歴史にその名を刻んでいる。
普段の朗らかな姿からは想像もできないほどストイックで自分に厳しい性格。彼のたゆまぬ努力が韓国男子フィギュア界の未来を切り拓き、若いスケーターたちの成長を後押ししている。
子役出身で、幼少期は俳優になることが夢だったというジュンファン。時代劇ドラマなどの出演のほか、CMの撮影で日本を訪れたことも。そんな彼はスケートを始めてからも注目の的。過去には次世代のスケーターとして韓国のアイドルグループ東方神起のリーダー・ユンホ(ユノ)さんと番組で共演した経験も。その後8年の時を経て、テレビ番組で再び共演を果たしたことも話題に。座長を務めたアイスショーでは、BTSの『DNA』や、VIXXのヒョギさんが歌う『Boy with a star』を使用したナンバーを披露したこともあり、スケートファンのみならずK-popファンからも注目が集まる。
さらに2022年の年末には韓国最大級の音楽祭の一つ「SBS歌謡大典」にアスリートとして異例の出演。元フィギュアスケーター、ENHYPENのSUNGHOON(ソンフン)さんと久しぶりに再会し、BTSの『Black Swan』のダンスを披露。堂々たるパフォーマンスに「직캠(チッケム)」(一人に焦点をあてて撮影した動画)の再生回数もうなぎ上りで、ここでもオールラウンダーぶりを発揮した。
また2023年の「THE ICE」では、大の仲よしのイリア・マリニン選手とユニットを組み、ENHYPENの曲でフロアダンスに挑戦するなど、類まれなるダンススキルで異彩を放つ。
プログラムに取り入れる4回転ジャンプは基本的にサルコー、トーループの2種類のみとなるが、その分プログラムの完成度や正確なスケーティング技術、音楽的解釈をもって得点を伸ばす、唯一無二のスケーター。ひとたび氷の上に立てば、鋭い眼光を放ち、長い手足を生かしたダイナミックな演技を披露。華やかなスケーティングで見る者の心を奪い、プログラムの世界観をドラマティックに表現。バレエや大好きなダンスで培ったしなやかな動きで、プログラムに緩急をつけるのも得意。男子では難しいとされている、セカンドジャンプにトリプルループをつけることができる選手としても有名。
グランプリシリーズ2戦ともに表彰台に上り、さらにファイナルでメダルを獲得するなど、世界にその名を知らしめた2018-2019シーズン。その年のフリープログラム『ロミオとジュリエット』は、かつて羽生結弦さんなども使用した王道の楽曲ながら、映画内のセリフやテクノミュージックをとり入れ、斬新で個性的なプログラムにアレンジ。クライマックスで流れるロミオの「ジュリエーーーーット」の雄叫びはキリングパートのひとつ。
飛躍の年となった一方、出場した大会は10試合以上にも及び、連戦続きで体を休める暇なく世界中を飛び回るという非常に過酷なシーズンでもあった。特に後半は足に合うスケート靴がなかなか見つからず、2週間で5回も靴を変えたという。シーズンの最後を飾る世界選手権は、ケガの影響もあり本来の実力を発揮できない試合となってしまったが、どんな状況でも諦めずベストを尽くし、試合を楽しみたいと前を向く姿に芯の強さが表れていた。
2019-2020シーズンは、新たに4回転フリップを導入。フリーにサルコー、トーループに加え、3種類の4回転ジャンプを入れた構成でスタートを切った。しかしシーズンの前半は、前シーズン安定していたジャンプさえもなかなか決まらず、悔しい試合が続いた。
試合を重ねるごとに修正と調整を続け、1月に開催された国内選手権では、フリップは封印したものの、サルコー、トーループを含むすべてのジャンプを加点の付く出来栄えで着氷。
ISU非公式記録ながら、トータルのパーソナルベストを15点以上更新するハイスコアで、見事4連覇を果たした。
その勢いのまま乗り込んだソウルで開催の四大陸選手権では、母国の熱い応援を力に変え、ショート、フリーともにほぼパーフェクトな演技を披露。
スピン、ステップはすべて最高評価のレベル4、ジュニア時代から磨いてきた4回転サルコーは3点以上の加点を獲得。一部のジャンプに回転不足があり惜しくも表彰台は逃したが、世界に再び存在感を示した。
さらにこの結果により、世界ランキングが10位に上がり、これは韓国のフィギュアスケート男子史上初の快挙となった。
本来の輝きを取り戻し、いざ世界選手権へというところで新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、大会は中止となってしまい、このシーズンの幕は閉じた。
拠点のカナダに入国ができないまま迎えた2020-2021シーズン。出場予定だったグランプリシリーズ、スケートカナダは中止となり、初戦は2月の国内大会となった。
前シーズンより継続したフリーでは、冒頭でしばらく入れていなかった4回転フリップに挑戦。惜しくも3回転となってしまったものの、それ以外の要素では2シーズン目で円熟味を増した艶やかな演技で、5度目のナショナルチャンピオンに輝いた。そしてジュンファンにとってこのシーズン最初にして最後の国際試合となった世界選手権。韓国での練習によりさらに磨かれたスケーティング技術で、揺るぎない演技を披露。フリーは中盤で転倒したが、久しぶりに再会したブライアン・オーサーコーチのリンクサイドからの激励で今一度奮い立ち、ミスを引きずることなく滑り切った。トータルの成績は、韓国男子史上最高位の10位で、平昌では「1」だったオリンピックの出場枠を、北京では初の「2」とする権利に寄与した。
長かった冬が終わり、ついに幕を開けた2度目のオリンピックシーズン。シェイリーン・ボーンのもと、“勝利”を掴み取るにふさわしい2つの新しいプログラムが誕生した。▷2021-2022シーズンプログラムの詳細
初戦のアジアオープントロフィーではショート、フリーともにジャンプがはまらず6位という結果だったが、次戦のグランプリシリーズイタリア大会ショートでは、見事に修正。ほぼノーミスで演技を締めくくると、ブライアンコーチと安どの表情で抱き合った。フリーではジャンプが乱れたものの、『トゥーランドット』が生まれたイタリアの地で心揺さぶる演技を披露し、総合5位で1戦目を終えた。
続く2戦目は初アサインとなったNHK杯。
自らコンダクターとなり、複雑な音楽に色をのせていくかのように滑り上げるショート。ここにきて完全にこのプログラムを自分のものとし、余裕すら感じられるノーミスの演技で3位に。フリーでは4回転サルコーで転倒があり5位となったが、総合3位で銅メダルを獲得。3年ぶりに国際大会でメダルに輝いた。
年が明けオリンピック開幕まであと1か月。韓国選手権で6連覇を飾り上昇気流に乗ると、オリンピック直前というタイトなスケジュールの中、四大陸選手権出場を選択。その結果韓国男子シングル初のISUチャンピオンシップタイトルを獲得し、またしても韓国男子スケート界に金字塔を打ち立てた。
ショート、総合得点で自己ベストを更新しての堂々たる金メダルは、韓国でも大きな話題となったが、そこからわずか2週間という短期間で臨んだ北京オリンピックにおいて彼が見せたのは、すべての得点で自己ベストを塗り替えての5位という快挙だった。
数多の名作が出揃うオリンピックシーズンにおいても一際異彩を放ったショート。首の傾き一つでプログラムに華を咲かせる圧倒的存在感をもって、この難解なプログラムを見事操った。 このプログラムはシーズン中ぼすべての試合でノーミス。大会ごとにより磨きがかかる珠玉の名作は、オリンピックでも99.51点という自己最高得点を記録し4位に。 一方フリーの『トゥーランドット』は、ショートと対照的に伸びやかで優雅なスケーティングを堪能できるプログラム。北京オリンピックでは冒頭の4回転トーループで転倒し大きく体を打ち付けたものの、すぐに立ち上がり、そこからはすべてのジャンプに加点がつく極上の演技を披露し、愛に焦がれる熱い思いを全身から迸らせた。このようにミスがあっても引きずらず、すぐに立て直すことのできる強さがこの2021-2022シーズンの飛躍を後押ししたのだった。
フリーの完成形まであと一歩。それだけに強い決意とともに臨んだ世界選手権だったが、練習中にスケート靴が故障。急場しのぎの処置を施しショートに挑むも、足をしっかり支えることができなくなった影響は計り知れず、ジャンプに苦戦を強いられた。しかしそんな中でも長年磨いてきた芸術的なスケーティングは健在。スピン、ステップではすべて最高評価のレベル4を獲得した。だが靴の状態が悪化したこともあり、止むなくフリー出場を断念。ショート17位の成績で、このシーズンを終えることとなった。
オフシーズンには日本のアイスショーにも引っ張りだこ。また、スケートにいそしむ傍ら学業にも励み、日々さまざまなことを吸収しながら、演技の幅を広げてきた。シェイリーンさんと制作した2つのプログラムは、どちらも自身で選んだもので、ここから新たに始まる4年間の幕開けにふさわしい意欲作。▷2022-2023シーズンプログラムの詳細
チャレンジャーシリーズはネペラメモリアル杯とフィンランディア杯に2戦連続出場。銀メダルと金メダルを獲得し、来たるグランプリシリーズ、アメリカ大会への自信につなげた。さらに久しぶりにクリケットクラブのリンクに降り立ち、グランプリシリーズへの準備は万端。
グランプリシリーズ初戦は3年ぶりとなったスケートアメリカ。
ショート当日はジュンファンの誕生日。21歳の幕開けを飾るのは華やかでゴージャスな「マイケル・ジャクソンメドレー」。冒頭の4回転サルコーは、3.74点の出来栄え点がつく鮮やかな着氷。トリプルアクセルがステップアウトとなってしまったが、得点は94.44点で2位発進。本場アメリカの観客の心を一気に掴んだ。フリーでも同じく完璧な4回転サルコーを決めたものの、後半のジャンプにミスが出てしまい総合は3位。グランプリファイナル進出の可能性を残し、2戦目のNHK杯へ。
以前からスケート靴の問題に悩まされてきたジュンファン。今回もNHK杯の直前に靴が壊れ、代わりの靴が見つかったのは大会3日前のこと。ショートでは、その影響もあってか、冒頭2本のジャンプでミスがあり、まさかの6位に。それでも気持ちを切り替え、挑んだフリーでは、目の覚めるような切れ味抜群の滑りを披露し2位に。6位から怒涛の追い上げで銅メダルを獲得した。
▶詳しくはNHK杯後のインタビューをCheck!
惜しくもグランプリファイナル進出とはならなかったが、国内大会に向けてじっくりと調整を続け、12月のランキング大会へ。ショートでは参考記録ながら待望の100点超え。ノーミスとはならなかったがフリーでも185.19点、総合286.55点を獲得し優勝。年明けの韓国選手権でもショートで100点を超えるスコア。フリーはややジャンプに苦戦したが、総合271.21点で見事7連覇を達成。2月、ディフェンディングチャンピオンとして四大陸選手権に出場。開催地は標高1800mのアメリカのコロラド・スプリングス。ショートではいざ演技が始まるというところで予期せぬトラブルが発生。集中が必要な場面で2度も仕切り直しを余儀なくされた。それでも4回転サルコーは美しく着氷、残り2本のジャンプでは乱れたが、スピンステップはすべてレベル4と、前回王者としての矜持を示した。ショート5位からの巻き返しを図るフリー。酸素の薄さも災いしてか、後半は体力的に厳しそうに見えたが、客席から送られる愛と拍手を力に、最後までボンドを熱演。フリーは4位、総合4位と今回は惜しくも表彰台には届かなかった。しかしここで立ち止まらないのがチャ・ジュンファン。このほろ苦い記憶を払拭するべく、翌週には国内の冬季体育大会に出場。ショートはノーミスで100.70点、フリーは181.23点で優勝を果たし、いいイメージをもって世界選手権へと乗り込んだ。
世界選手権については、本人も「これまで世界選手権では納得できる演技ができていない」と語った通り、ケガや度重なるブーツの故障で、本来の力を発揮できず悔しい思いをすることが多かった。
特に2019年に同じさいたまスーパーアリーナで開かれた世界選手権は、練習中に負ったケガの影響からか、演技終了後キスアンドクライに座るやいなや靴を脱ぐ程の深刻な状態に追い込まれていた。今度こそ全てを出し切りたいと、並々ならぬ思いを抱え、4年ぶりにこの地へと戻ってきたのだった。
ショートは最終グループ第一滑走で登場。名前がコールされると、満員の観客で埋め尽くされた会場を見渡しスタートポジションへ。最高が約束されたオープニングが流れると、ぐいぐいスピードを上げ、最高時速で4回転サルコーへ突入。4.02の出来栄え点がつくパーフェクトな着氷でランディング。「Can you feel it?」の呼びかけとともに、得意のシンボルジャンプ、トリプルルッツ+トリプルループを決める。拳を突き上げ踊るようにスピンのポジションへ。必殺ムーンウォークには客席から「待ってました」と言わんばかりの大歓声が起こる。
巧みな首のアイソレーションを披露し、ジャッジの前をなめらかに横切っていく姿に、会場のボルテージを測る針は振り切れ寸前。浮遊感を漂わせながら最後のジャンプ、トリプルアクセルを決めると、伝説のプログラムの道へとまっしぐら。不敵な笑みを浮かべながら縦横無尽にステップを踏み、観客とのコネクションを強めていく。割れんばかりの手拍子をバックにスピンを決め、ラストは振り向きざまにジャッジに誇らしげな視線を送ってフィニッシュ。
熱烈なスタンディングオベーションを受けると、演技中のクールな表情から一転、緊張から解放されたように笑顔を見せた。
得点は99.64点。100点にはわずかに届かなかったが、これは北京オリンピックでの自己ベストを更新するハイスコア。納得の表情でショートを終えた。
いよいよ決戦のフリー。フリーは国内大会以降、構成をブラッシュアップ。さらにこのシーズンは後半のジャンプでミスが多かったことから、体力強化訓練を重点的に行うなど、この日に向けて準備を重ねてきた。すべてはこれまでの練習の集大成を見せるため。その気持ち一つでここまで駆け抜けてきた。大歓声を浴びながら、精悍な顔つきでリンクの中央へ。冒頭の4回転サルコーは、9人中3人のジャッジが満点の5を付ける出来栄え。ショートよりさらに素晴らしい4.16点の加点がつくパーフェクトな着氷だった。華麗な身のこなしでスマートにリンクを滑走し、戦闘シーンのごとく怒涛の勢いでジャンプを決める姿はボンドそのもの。一つ一つ意思をもつかのように、心に訴えかけてくるエレメンツ。氷を削る音すら作品の一部にしてしまう緻密な構成に、没入感が増していく。
そしてプログラムはエンディングへ。クライマックスのロングイナバウアーで観客のため息を誘うと、“ボンドは死なない”そんな彼なりの希望を込めてラストに配置した“No Time To Die”の歌声に合わせ、余韻を残しながらフィニッシュ。自分の目指す演技をこの大舞台で披露し、ミッションコンプリート。最高の演技でこの地での思い出を塗り替えた。
フィニッシュポーズを解くと、こみ上げる思いとともに顔の前で両手を合わせ、珍しくガッツポーズ。感無量の表情を浮かべ、総立ちとなった客席に大きく手を振り、贈られるすべての愛とサポートに感謝を示した。
安どと達成感に満ちた様子でリンクを出ると、ブライアン・オーサーコーチ、チ・ヒョンジュンコーチの胸に飛び込む。得点は自己ベストを13点以上更新する196.39点で、当時の記録で世界歴代6位の高得点。スコアが出ると信じられないとばかりに頭を抱え、今まで見せたことのない表情で喜びをかみしめた。
合計でも296.03点と、こちらも自己ベストを13点以上更新する快挙を達成。結果はショート3位から順位を上げ、2位。これまでの韓国男子シングルの最高位は、自身が出した10位。2年前の自分を越え、母国に世界選手権男子初のメダルをもたらしたのだった。
母国にもたらしたものはメダルだけではなかった。今回の結果により、2024年の世界選手権での出場枠が「1」から最大の「3」に。幼い頃から数々の国際試合に出場し、平昌オリンピックでは大会男子シングル最年少ながら堂々と演技をしたジュンファン。こういった大舞台での経験がいかに大切で、いかに成長につながるかを知っているからこそ、後輩のチャンスを増やすことができたことへの喜びはひとしお。こういった考え方も彼が絶対的エースたるゆえんだ。
最終戦は、そのシーズンのポイントランキング上位6か国が出場できる国別対抗戦。チームコリアは世界4位で、記念すべき初出場となった。若きチームを率いるキャプテンには、平昌オリンピックで唯一、団体戦出場経験のあるジュンファンが選ばれた。
世界選手権を経て自信とキレを増した滑りに加え、演技を楽しむ余裕も見せたショート。得点は101.33点で、またしても自己ベストを更新。あと少しのところでなかなか超えることができなかったISU公認大会での100点の壁をついに突き破った。翌日はチームの応援に励み、迎えた大会3日目。演技次第でチームのメダルの色が決まるというプレッシャーのかかる中、フリーへ。高さがありフリーレッグまで美しい4回転ジャンプ、壮大なプログラムが映える伸びやかで吸引力のあるスケーティングで、今シーズンラストのジェームズ・ボンドを演じていく。後半のジャンプで惜しくもトリプルアクセルがシングルとなるも、磨いてきた高い技術で1位に。これにより、チームコリアは逆転を果たし2位表彰台。キャプテンとしての責務を全うし、見事銀メダルへと導いた。
チーム一丸となって手にした銀メダル。演技内容はもちろん、応援にも全力投球で、すべての瞬間を楽しみ尽くす姿が印象的だった。「Young Passionate Charming Team Korea is Coming!」のスローガンのもと、話し合いを行ったり、それぞれのニックネームにちなんだ小道具を準備したりと、大会に向けて入念に準備を重ねてきたチームメンバーたち。特にジュンファンは大会中ほとんどの時間を応援席で過ごし、全選手に大きな声援を送り、また時には韓服モチーフのファッションをさらりと身につけ、自国の伝統文化をアピールするなど、キャプテンとして、そして韓国フィギュアスケートの柱として精力的に活動した。
現在韓国では若い力が次々と台頭中。今回の大会はオリンピック団体戦へ向け、世界にチームコリアのもつ情熱と勢いを十分に示した意義深い一戦となった。
国内の大会を含め、全10試合に出場した過酷なシーズン。特に終盤の四大陸選手権終了直後には、コンディションが優れない中でも別の国内試合に出場し、素晴らしい演技を披露したジュンファン。強靭な精神力でいくつもの試練を乗り切り、スケートを始めた時の夢の一つでもあったという世界選手権でのメダルを手にした。
その原動力となるのは、いつも「自分自身を成長させたい」という強い思い。困難を乗り越え、大きな自信に変えていく。そんな根っからのアスリート気質のファイターが見せてくれる新しい景色が、韓国のフィギュアスケートの未来に大きな希望を与えてくれるのだった。
2026年のミラノ・コルティナダンペッツォオリンピックを見据え、ショートで4回転ジャンプを1本増やし、ショートとフリーで合計5本の構成で挑むことを決意。これまでもシーズン序盤のショートにおいて4回転を増やして臨むことがあったが、グランプリシリーズ以降は1本の構成に戻し、プログラムの完成度やジャンプの加点で勝負していたジュンファン。今シーズンを通してこの構成となるかは不明だが、次のステップへと進む姿を応援したい。
今シーズンのプログラムの振付のため、忙しいスケジュールをぬってアメリカへ。シェイリーンさんのもと、ショートはクラシックに回帰、フリーは昨年同様、映画のOSTを用いた壮大なプログラムを制作した。▷2023-2024シーズンプログラムの詳細今年も初戦はネペラメモリアル杯。ショートでは、冒頭の4回転サルコー+3回転トーループを2.72点の加点をつけて着氷するも、続く4回転トーループが2回転となり、2位発進。フリーは得意の4回転サルコーを決めたものの、初戦ということもあり後半にかけてジャンプに精彩を欠き、総合6位という結果に。休む間もなくそのまま上海トロフィーへ。2019年にも出場予定だったが、その時には残念ながら出場できなかったこの大会。ショートでは冒頭の4回転サルコーの着氷がやや乱れたが、4回転トーループを連続ジャンプにしてリカバリー。91.80点で首位に。
フリーでは連戦の疲れもあったためか、トリプルアクセルがシングルになるなどジャンプが決まらないシーンもあり、2位に。総合でも2位で、銀メダルを獲得した。シーズン前半の主要大会、グランプリシリーズはカナダ大会とフィンランド大会に出場予定。毎シーズン国内大会から一気にプログラムを仕上げていくことが多い印象のジュンファンは、これまでグランプリシリーズでの最高位は3位。今シーズンはぜひ表彰台の一番高いところに上り、5年ぶりにグランプリファイナル進出となることを期待したい。
SP:仮面舞踏会
FS:The Batman Theme
シェイリーンさんのドラマティックな振付が光る新プログラム。両プログラムともに“マスク”を身につけ、ショートでは豪華絢爛な仮面舞踏会に。そしてフリーでは悪に支配されたゴッサム・シティに。相反する二つの世界を舞台に、まだ知らない新たな一面を見せてくれるはずだ。
昨シーズンは、「マイケル・ジャクソンメドレー」で氷上のポップスターの座を欲しいままにしたジュンファン。イメージをがらりと変える挑戦的なプログラムも、シーズンが終わるころにはすっかり彼の代名詞の一つに。どんなプログラムも自分のものにしてしまう持ち前の表現力とダンススキルを十分に示した。そして今シーズン、そのステージは銀盤の舞踏会へ。演目は「仮面舞踏会」のワルツ。
「仮面舞踏会」は、現在のジョージアにあたるロシア帝国領グルジア生まれの作曲家、アラム・ハチャトゥリアンの作品。もともとは劇音楽として作られたが、その後5つの曲からなる組曲に再編成されたもの。ストーリーは、ある賭博師の男が妻の腕輪をめぐって、以前賭博で助けたことのある男と妻の浮気を疑う。嫉妬にかられた男は妻に毒を盛り殺害してしまうも、その後妻の無実を知り、自分の犯した罪の大きさに心を乱してしまうというもの。構成する5曲のうち、プログラムで使用されているのは第1曲のワルツ。舞踏会で食べたアイスクリームに毒が盛られていたとは露程も知らない妻が、帰宅後、素敵な夜の余韻に浸りながら回想するシーンで使用されるもので、妻のラストダンスを飾る一曲だ。プログラムの始まりは仮面から。心躍る3拍子のリズムにのせて華麗なる舞踏会へ。体を大きく使い、弾むように滑る姿は、舞踏会の高揚感を体現しているかのよう。力強さと気品を両立させるスケーティングは、ジュンファンならではの技巧。前述の通り、今シーズンのショートは4回転ジャンプを2本入れる構成に。難度を上げてもプログラムの温度を一気に上げるゴージャスな音ハメクワッドは健在だ。レイバックスピンや緩急に富んだ複雑なステップでマスカレードに魅惑的な色彩を添えると、ラストはクリムキンイーグルからのニースライドと、得意のムーブメントをふんだんに使った劇的なフィニッシュ。
ワルツといえばノービス、ジュニア時代の「死の舞踏」や、一気にトップスケーターへの階段を駆け上がった2018-2019シーズンの「シンデレラ」など、記憶に残る名作が多く、その相性のよさは証明済み。今シーズンは22歳となったジュンファンが躍る優美なワルツの世界を堪能したい。
無類の映画好きで知られるジュンファンが今シーズンのフリーに選んだのは、2022年に公開されたシリーズ最新作『THE BATMAN-ザ・バットマン-』。バットマンは、アメコミから生まれた人気ヒーロー。主人公は幼い頃両親を強盗に殺害されたブルース・ウェイン。表の顔は潤沢な富をもつ青年実業家だが、夜になると素性を隠すためのマスクとスーツを身にまとい、街に潜む悪と戦うというストーリー。
バットマンは超人的パワーを武器に戦うスーパーヒーローではなく、知識と鍛錬で身につけた身体能力や格闘技術で戦う、いわば生身の人間。それゆえにどこか物憂げで精神的に脆い一面も。心に傷を負い、闇を抱えたバットマン。「プリンス」の異名をもつジュンファンが演じるダークなヒーローに期待が高まる。蔓延る悪に立ちはだかるかのように胸を張り、バットマンのテーマとともにゴッサム・シティに飛び出していく冒頭。闇夜を切り裂くような鋭さで4回転ジャンプ3本を決めると、美しく正確なスピンを経て、極めつきは彼のシグネチャージャンプ、ルッツ+ループのコンビネーションジャンプで街を一気に掌握。「暗闇のソナタ」にのせて、バットマンの抱える苦悩や葛藤を映し出すようなステップを披露すると、映画のテーマソングにもなっているニルヴァーナの「Something In The Way」が抒情的なメロディを奏でる。正義の在り方や自分のアイデンティティに悩みながら、それでも進み続けなければならないヒーローの宿命を受け入れるかのように、シークエンスを含む3本のジャンプを跳んでいく。コレオシークエンスでは強烈なインパクトを残す力強いムーブメントの数々でプログラムを盛り立て、クライマックスへと向かうスピン。ラストは腕を翼のように広げ、拳を握りしめフィニッシュと、1本の映画を観たような壮大な余韻が残るプログラムに仕上がっている。毎回観る者の想像をかきたてるコスチュームにも注目。フロント部分から背中にかけての装飾は、ウイングスーツのドレープのよう。胸部のレッドカラーはバットエンブレムを彷彿とさせる。また、この映画が描くのは、活動を始めてからわずか2年という初期のバットマン。そのためか、身にまとうスーツは傷や補修した跡があるなど、歴代のバットマンのクールでタフなものと比べ、ハンドメイド感があるのが特徴。今回の衣装でもボトムにダメージのような加工が施されているなど、戦いの跡が見えるディテールも。全体には漆黒に透け感のあるマテリアルを使用し、ジュンファンらしいエレガントさを十分残しながらも、随所に作品の世界観が垣間見える衣装となっている。
2022-2023シーズン
SP:マイケル・ジャクソンメドレー
FS:映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』よりEX:golden hour/JVKE
振付はこのシーズンもショート、フリー両作シェイリーンさんが担当。
ショートはこれまでと雰囲気をがらりと変えた「マイケル・ジャクソンメドレー」。ザ・ジャクソンズ時代からの名曲「Can You Feel It」が流れると氷上にスターが登場。最高のエンターテインメントショーが始まる予感をまといながら、晴れ晴れしいスタートを切る。4回転サルコーを華麗に決め、次なるジャンプはこのシーズンからルッツ+ループに代わり、4回転トーループからのコンビネーション。さらにマイケルの代表作「Billie Jean」にミュージックチェンジすると、ここで一撃必殺の“ムーンウォーク”を披露。首を動かしながらしなやかに、浮遊感のある滑りで観客を熱狂の渦に巻き込んでいく。トリプルアクセルを決め、ラストは“ゼロ・グラヴィティ”のダンスでも有名な「Smooth Criminal」。キレのある動きで会場のボルテージを最大限にまで高め、力強くフィニッシュ。フィギュアスケート界随一のダンススキルをもつジュンファンの魅力が爆発したプログラムに仕上がっている。
フリーは映画『007』の最新作にして、ダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンドの最終作となった『ノー・タイム・トゥ・ダイ』。大好きな映画のサウンドトラックを使用したとっておきのプログラムだ。あごに手を添え、標的を射貫くような鋭い瞳でプログラムがスタート。シリーズおなじみのテーマソングにピタリと合わせた極上の4回転サルコーを皮切りに、緊迫感のあるムードの中、次々とジャンプを決めていく。『007』といえば迫力満点のアクションシーン。使命のために戦うボンドの姿を風圧さえ感じられるようなスピード感あふれる滑りで表現。かと思えば、ビリー・アイリッシュが歌う『No Time to Die』以降のパートでは、苦悩や切なさを漂わせた、しっとりしたスケーティングを見せる。仕上げはラストにふさわしい、すべてを浄化する雄大なイナバウアー。前作『007 スペクター』のメインビジュアルを彷彿とさせる堂々としたポーズでフィニッシュと、オープニングからエンディングまでハイライトが随所にちりばめられている。
衣装は光沢感のある生地を使用し、背中が開いた彼らしいデザインながら、肩にはガンホルスターのようなあしらいが施されているなど、ボンド仕様のディティールにも注目。追記)フィンランディア杯後に衣装をブラッシュアップ。よりジェームス・ボンドのエッセンスを感じるタイトなタートルネックに、映画の冒頭シーンに登場する雪に覆われた大地を彷彿とさせる美しいビジューがちりばめられたデザイン。
2021-2022シーズン
SP:Fate of the Clockmaker
FS:トゥーランドット
今シーズンは、ショート、フリーともにシェイリーンが担当。シェイリーンの住むカリフォルニアで、オリンピックを見据えた特別なプログラムの振付を行った。ドラマティックで壮大な音楽が、ジュンファンの大胆かつ華やかなスケートと化学反応を起こし、早くも名プログラムの誕生を予感させるショート。伸びやかな4回転サルコーから始まり、至高のルッツ+ループのコンビネーションジャンプ、迫力満点のクリムキンイーグルなど見どころが満載。緩急のある振付は氷の上を支配しているかのようで、ステップに向かう前の妖艶な笑みに、心を射抜かれる。風を受けひらりと舞う衣装までも芸術的。ファンが提案してくれたという「Cloak and Dagger」と、自ら選んだ「Fate of the Clockmaker」の2曲を使用。フリーは、フィギュアスケートの定番プログラム『トゥーランドット』。日本人選手だけでも荒川静香さん、宇野昌磨選手がかつてこの曲でオリンピックメダルを獲得しているだけに、オリンピック表彰台を目指す勝負のプログラムといえる。
濃いブルーを基調としたノーブルな衣装に身を包み、前半はしとやかで余韻のある滑りで魅了。クライマックスに向け盛り上がっていくコレオシークエンスでは、長い手足を使った躍動感のある滑りと優美なイナバウアーで、見る者の心を震わせる。今シーズンはまだ2戦ともジャンプのミスが続いているが、これから試合を重ねるごとにきらめきを纏い、栄光へと導くプログラムとなるだろう。
2020-2021シーズン
SP:Dark Pastoral(Ralph Vaughan Williams) FS:The Fire Within ショートはこれまで同様デヴィッド・ウィルソン振付で、新プログラムを用意。リモートで振付を行った。フリーはプログラムを継続することとなった。
2019-2020シーズン
SP:アストル・ピアノミックス (ミケランジェロ’70/天使の死) FS: The Fire Within
ジュンファンの2019-2020シーズンのテーマは“情熱“。 ショートは自らのリクエストでタンゴを選択。 フリーはピアノの音色が美しい「The Fire Within」(内なる炎)。前シーズン、グランプリファイナル出場という目標を誰にも話すことなく、自らの心に秘めて見事現実のものにしたジュンファンにぴったりのプログラムといえそう。
日本のファッション誌初! フィギュアスケーター、チャ・ジュンファン選手の独占インタビューを撮り下ろしカットとともにお届け。スタイリッシュな私服に身を包み、素敵な笑顔とクールな表情を披露してくれたジュンファン選手に、今シーズンのプログラムや目標を伺いました。
スタイリッシュな私服に身を包み、花が咲くような笑顔を披露してくれたジュンファン選手。彼の素顔に近づく質問を一問一答形式でお届け!
チャ・ジュンファン選手といえば花。花を手に撮影した未公開カットをお届け!
▷Instagram:@jun_july_august
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