エンタメ部
No.210 くらげ
【ドルオタ×法廷ミステリ】「六人の熱狂する日本人」
2024.07.31更新日:2024.08.01
唐突ですが、皆さん。アイドルはお好きですか。そして、話は変わりますが、ミステリはお好きですか。
両方好きな方にもどちらか片方が好きな方にもおすすめしたいのが短編ミステリ「六人の熱狂する日本人」(阿津川辰海『透明人間は密室に潜む』収録)です。
『透明人間は密室に潜む』
作者は阿津川辰海。表題作「透明人間は密室に潜む」、「六人の熱狂する日本人」、「録音された殺人」「第13号船室からの脱出」の四篇からなるノンシリーズの短編集です。
「六人の熱狂する日本人」(阿津川辰海『透明人間は密室に潜む』)
ドルオタ殺人事件
ある殺人事件の裁判の裁判員として集められた年齢も性別も様々な六人。裁判の被告人は果たして無罪か有罪か。評議室を舞台に裁判官3人と裁判員6人の議論が始まります。
事件の内容はアイドルグループ「Cutie Girls」のライブのために上京していた二人のオタク。ライブは2日間に分かれており、その1日目の公演が終わった後、彼らは宿泊していたホテルの一室で口論になったのか、一方がもう一方をポカリと殴って殺してしまった——というものでした。
計画性のない殺人と思われる事件ですが、1番、2番、3番……それぞれ番号で呼ばれる裁判員たちは事件に関して議論を始めます。
ですが——
「あいつはアイドルオタクの風上にも置けない! 死刑にするべきなのだ!」
(『透明人間は密室に潜む』阿津川辰海、光文社、2020、P.82)
ピンク色のライブTシャツを着こんでやってきた6番の言葉によって事態は一変します。
6番はなんとアイドルグループ「Cutie Girls」のオタクでした。アイドルオタクがアイドルオタクの起こした事件を裁く立場になっていたことが発覚します。
アイドルオタクによるアイドルオタクの裁判員裁判
(真相には言及しませんが、まっさらな状態で読みたい人はそろそろブラウザバックして本を手に取ってください)
評議室に集められた六人の男女——ある人は大学生、またある人は銀行員。主婦、教師、フリーター、喫茶店の店主……。彼らは裁判員であり、無作為に選ばれていますから、当然立場も年齢も様々です。
が、この裁判はドルオタによるドルオタの裁判。
アイドルオタクならではの視点から議論がまさに“熱狂”していきます。
「“現場”とは?」「“最前”とは?」「“コール”とは?」「サイリウムって“焚く”ものなの?」戸惑いの色を浮かべる裁判官たちを横目に推理はとんでもない方向に転がっていきます。
アイドルオタクの作者が送る短編ミステリ。ぜひアイドルが好きな方やミステリが好きな方に読んでほしい作品です!
ミステリ好きの誰かへ
この作品の面白さはその舞台です。この作品は「評議室」という空間を舞台に進んでいきます。はじめに裁判官が宣言した通り、いかなる議論がこの部屋でなされたとしても公表されるのは「判決」だけであり、議論——つまり判決に至るまでのその過程は公表されることはありません。
ネタバレになりかねないのでこの場で深く言及することはできませんが、裁判員裁判という設定、「評議室」という舞台にミステリとしての面白さが詰まっています! 舞台設定が天才的です!
こんな人におすすめ
アイドルオタクの作者が送る短編ミステリ。ぜひアイドルが好きな方やミステリが好きな方に読んでほしい作品です!
また、今回紹介した「六人の熱狂する日本人」のほかにも透明人間の密室殺人を描く「透明人間は密室に潜む」や、ある特異な能力から事件を解決する「録音された殺人」、脱出ゲームが舞台の「第13号船室からの脱出」――どの短編もとても面白いです! 「六人の熱狂する日本人」はもちろん、ほかの作品もぜひ読んでほしい一冊です。
アイドルオタクの作者が送る短編ミステリ。ぜひアイドルが好きな方やミステリが好きな方に読んでほしい作品です!
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出身地
東京都
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身長
159cm
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学年
大学2年生
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推し
推し:コスメ集め(主にネイル!)、文章を書くこと、小説(ミステリ!)、ピアノ、ゲーム、FAKE TYPE.