友野一希の「トモノのモノ語り。」

友野一希連載・全日本選手権直前インタビュー【 #トモノのモノ語り。】vol.11 <フィギュアスケート男子>

2022.12.16 更新日:2023.12.22

vol.11 全日本選手権前SP

今回は特別編として、普段の連載とはスタイルを変え、全日本選手権への意気込みをインタビュー形式で掲載。

目標とする世界選手権出場の切符を掴み取るため、目指すは全日本選手権の表彰台。
十分に備わった実力、磨き上げた自分だけの武器と手にした自信、そしてその強さを一番に知るファンの声援を追い風に進む
友野選手にお話を伺いました。

友野一希選手の全日本選手権前最新インタビュー

写真:西村尚己/アフロスポーツ

連載から今シーズンをプレイバック

シーズン開幕から今に至るまで、すべての大会終了後の声をご自身の言葉でお届けしてきた「トモノのモノ語り。」。

「目標が大きすぎると自分がダメに思えてしまう」と苦しんだこと、悲しそうな表情で滑る自分を見て「やっぱり笑ってないとな」と切り替えたこと。
これまでの努力が確実に得点に現れ、高く評価されたこと。そして自分の強さに目を向けることを決意した夜のこと。

シーズン総括インタビューと各回の「近況報告」には、時に悩み、試行錯誤を繰り返しながら、でも一歩ずつ確実に「トップへ」と進んできたこの8か月の歩みが詰まっています。
いよいよ数日後に迫った全日本選手権を前に、今シーズンの歩みをプレイバック。



  Check!  


4月
運命の世界選手権でショート100点超え。「僕はやっぱり諦めたことがないので。絶対最後までやる」

▶2021-2022シーズン総括インタビュー


7月
ミーシャ・ジーさんとの振付、クリケットクラブでの特訓、
プログラムの見どころ、スポンサーの募集について

▶2022-2023シーズン開幕インタビュー


8月
史上最高にハードな夏の思い出:怒涛のアイスショー、グランプリシリーズアサインについて

▶「トモノのモノ語り。」vol.5


まだまだ続くハードな日々。盛岡合宿と初戦のサマーカップ

▶「トモノのモノ語り。」vol.6


9月
LAでのブラッシュアップ、今季のテーマは、「トップへ」

▶「トモノのモノ語り。」vol.7


10月
・ネーベルホルン杯を終えて「結果を求めるのではなく、シンプルに自分と向き合う」
・近畿選手権優勝
“ああそうだ昨シーズンこんな感じで試合してたな”と思い出せた」フリー

・グランプリシリーズに向けて。フリーの最終目標は190点。「時には楽しくないこともあるかもしれないけど、それでも上を向いて、一歩ずつ成長していく

▶「 トモノのモノ語り。」vol.8

11月

初のグランプリシリーズ1戦目でのメダル獲得。PCSでも評価され、成長を感じられたフランス大会

▶「 トモノのモノ語り。」vol.9

12月

磨いてきた武器が評価され、自信につながったNHK杯。4回転ジャンプの分析、これからは「僕はやれば戦える」という気持ちで試合に臨む。自分の殻を破った決意

▶「 トモノのモノ語り。」vol.10

特別インタビュー

全日本選手権に向けて

友野一希選手の全日本選手権前最新インタビュー。練習の様子

今シーズンのショートは、昨シーズン100点を超えた「ニュー・シネマ・パラダイス」とガラリと雰囲気を変えた、アップテンポのナンバー。少しでも遅れるとフィニッシュに間に合わない濃密な構成で、自分に挑戦を課した。この日は間に合うまで何度も何度も同じ部分の練習に励んでいた(9月撮影)

試合に特別な感情を抱かず、毎日本番という気持ちでやっている。だから今は試合があまり怖くない



――全日本選手権に向け、今どんな練習をされていますか?

とにかくグランプリ(シリーズ)から変わらないです。試合を想定した練習を毎日、毎日の繰り返し。練習を試合だと思ってやるよう心掛けて。
あとはグランプリで成功できなかった4回転ジャンプを中心に取り組んでいます。

 

――試合を想定した、とは曲掛け練習でしょうか? 4回転ジャンプの調子はいかがでしょう

はい、毎日曲掛け練習しかしてない(笑)。

4回転ジャンプの調子は正直、上がったり下がったりって感じです。全日本も近いですし、かなり追い込まれた中での練習になっていて、毎日しんどいこともたくさんあるんですけど。
あとはもうやるだけですし、しっかり楽しみながらできてるとは思います。


――楽しんで練習ができているんですね。全日本選手権といえば、昨シーズンのインタビューで、「コレオ以外はなんも楽しくなかった」と反省されていたのが当時印象に残っていました

 

確かにそうだったと思います。
でも今回は今までと比べてもより「毎日本番」という気持ちでやっていて試合に特別な感情を抱かず、意識しないよう心がけています。
だから今は試合があまり怖くない。
とにかくいい練習がしたい、そうやって練習を一番に考えると試合でもいい結果が見えてくると信じて。
結果も大事ですが、自分の成長ということに目を向けて取り組む毎日です。
※『ワールド・フィギュアスケート』
No.94に掲載されたインタビュー



――これが今シーズンの気づき?

これが自分の中のテーマ。ネーベルホルン杯の後にも話しましたが、結果を気にしすぎるとどうしてもダメになってしまう傾向があるので、あせらず目の前のことに集中していきたいって。
振り返ると全日本はいい思い出のほうが多いですし、それだけ毎シーズンこの試合に向けて追い込んでやっているので。 今年も必ずできると言い聞かせて。笑って終われるよう頑張っています!


友野一希選手の全日本選手権前最新インタビュー!

フランス大会での銅メダル。グランプリシリーズ1戦目でのメダル獲得は初と、確実な成長を感じている

――グランプリシリーズ開幕前に設定された今シーズンのフリーの目標はいかがでしょう

フリーの目標は180~190点くらいですね。今シーズンの点数を見ると、180点台が現実的かな。
完璧の完璧ができれば190は見えてくると思いますけど、まずはしっかり自分の演技をすることが目標。そうすればショートは100点、フリーで180点が見えてくる。
あとはやりきる力が必要になってきますね。


――トップ選手との差は「やりきる力と気持ちの強さ」と昨シーズンの終わりに話されていましたね

やっぱり気持ちの強さというのは練習からくるものだと思ってて。最終的には準備がすべて。
毎日毎日いい練習をしてきた人が、本番で勝てる。僕も今シーズンは質の高い練習ができていると思います。



NHK杯での気持ちの変化

ショート終了後、Twitterに寄せられた演技に対する感想を見たことで、「自分を下げるのはやめて、これからは弱さではなく、強さに向き合いたい」と、気持ちに変化が生まれた。今までの自分に足りなかったのは自信。弱さではなく、これからは自分の強さに目を向けていこうと、NHK杯を終えてそう決意しました。(「トモノのモノ語り。」vol.10より)

――前回の連載に掲載されたお話についても少し聞かせてください。
ショート終了後、Twitterでポジティブな意見をたくさん見て、自分を信じることができるようになったと話されていました。自分を客観的に見ることが得意な友野選手でも、昨シーズンの結果や今シーズンのPCSの高さを自信に変えることは、難しいことだったのでしょうか?


自分で自分はそういう星のもとに生まれた人じゃないって、勝手に決めつけてる部分があったのかな。
でも自分のこれまでを振り返ってみると、それはしょうがないかなって思うところもあるんです。やっぱりそういう光が当たる場所に立つ経験が圧倒的に少なかったし。
「いやいや」って思うかもしれないですけど、僕って国際試合に出て目立つことに慣れてなくて。ジュニアの時のメダルも少ないし、若い頃の経験があまりないからこそ、どうしても「自分は……」って決めつけちゃっている部分があった。
代打が多いのもあるし、自分は戦えるのかな、勝ち切れる力があるのかなって。心の奥底でずっとそう思ってたから難しかったんです。

 

――自分の弱さに十分すぎる程向き合ってきたからですね

でもそれをやっぱやめないと、いや、やめたいなって。
もうやめてもいい位置にいるし、やってきたことを振り返ってみると、僕も自信をもってもいいんじゃないかと。

自分は弱いからこそ、昨シーズン「史上最高」という目標を掲げて、自分を奮い立たせてやってきた。
今度は僕だって上に立てるんだっていうのを言い聞かせて、試合に臨むことが結果につながっていくんじゃないかと気づけたんです。



――その自信が今シーズンの大事なピースの一つになるのではないかと思います

はい。(宇野)昌磨くんとか(山本)草太とか(鍵山)優真くんとか、若い頃からすごい人たちを見ていたこともあって、どうしてもこういう思考になっていたんですよね。
でもきっとそうじゃなくて。時期なんて関係ないし、僕は僕なりに築き上げていきたい。

まあとにかく自信をもつことですかね。すぐに直るものでもないし。
自分を客観的に見れるのはいいことだけど、今度はそれを活用して、弱い部分だけじゃなく強い部分を見ていこうというのがNHK杯を通じて感じたことです。


――激戦区といわれたNHK杯ですが、多くの人の目に触れ感想が寄せられたという意味でメリットもあったわけですね

そうですね。自分の成長も含め、改めていろいろなことに気づくことができた、収穫の多い大会になったと思います。

友野一希選手の全日本選手権前最新インタビューと、NHK杯での演技

SNSとの付き合い方について

友野一希選手の全日本選手権前最新インタビュー。Twitterとの付き合い方

――応援してくださる人の声が届いたNHK杯。でもSNSはメンタルヘルスにとって、プラスに働くことばかりではないですよね。トップアスリートとしてどのようにSNSと付き合っていらっしゃるのでしょう?

SNSの使い方は意外と気をつけてて。最近はあまりTwitterを見ないようにしてるんですよ。

今までは何か大会があった時にエゴサするのが好きだったんですけど、最近はよっぽど大きなイベントがない限りはしないようにしてます。

だからこそNHK杯の時見たコメントがめっちゃ刺さったんかなって。

普段自分のTL(タイムライン)に友野一希関連のツイートが勝手に流れてくるんですけど、ショートが終わった後、おすすめツイートで褒めてくださってるツイートが目に入って。
自分で検索しなくてもTLに回ってくるくらい、みんなが応援してくださっているんだって思うとほんとに力になったし、後押しになりました。
自分の良さを一番知ってくれてるのはファンの方なんだなと分かって。この恩を返せるように僕は頑張ろうと。もちろん自分のためにもですけど。


――以前からTwitterをよく見ると話されていたので、気になっていたんです
 

自分が客観的にどう見られているかを知るのも大事ですし。
まあ基本的にTwitterに書かれてるのはいい意見しかないんです。普通の人はSNSに悪いことを書いたりしないので。

悪い意見だって正当なものだったりするし、僕は一意見として、流し見くらいですませています。
批判されることもそんなにないですしね。まあ最近になってちょっと増えてきて、なんならうれしいな、くらい。


――う、うれしい?

だって結局注目されてないと、批判すらされないですし。
僕はまだまだ言われることが少ないので、幸せな方(笑)

これだけ表に出て露出があると、絶対よく思わない人はいる。だから「そういう人もいるわな」くらいの気持ちでいるようにしてます。

今後活躍する場所が増えれば増えるほど、自分に向かってくる言葉は多くなってくる。

そうなったらそういった情報があまり入りすぎないよう、自分でコントロールしていかなきゃとも考えてるので、この先もきっと僕は大丈夫なんじゃないかな。



全日本選手権の目標と意気込み

友野一希選手の全日本選手権前最新インタビューと意気込み

プログラムの完成はもうすぐそこに。

全日本での目標は表彰台。やったもん勝ちで、やりきった人が全日本で勝てる

――いつも考え方に圧倒されます。
では最後に全日本選手権への意気込みをお願いします


先日のグランプリファイナルは刺激になったし、ファイナル組はみんな頑張っていました。特に草太なんかメダルも取って、一気に駆け上がっていく姿を見て僕も頑張らなきゃとやる気がみなぎっています。
全日本での目標は表彰台。昌磨くんに迫る勢いじゃないと表彰台に上れない、みんなそう思ってると思います。まあ昌磨くんがぶっちぎりかもしれないですけど(笑)。
追い抜くくらいじゃないと2位3位とか順位は変わらないと思う。ほんとにやったもん勝ちで、やりきった人が全日本で勝てる。
だから僕も本番は誰よりもいい演技をしていい成績を残すという気持ちだけでやるしかない。 そして一番の目標は自分らしい演技をすること。グランプリで一歩出遅れてるので、それを覆して世界選手権出場を掴めるように頑張ります。応援よろしくお願いします!


■ information

世界選手権代表が決まる大事な一戦、全日本選手権が
12月21日(水)から開幕。
現地大阪で、配信で、テレビで、リンクがHappyで包まれる瞬間をお見逃しなく!
▷全日本選手権放送&配信スケジュール

今年の最後の「トモノのモノ語り。」。
次回は通常通り「モノ語り。」と全日本選手権終了後の「近況報告」をお届け予定です。




お気楽お悩み相談室

友野一希選手連載「トモノのモノ語り」お悩み相談室

現地に行けなくても、応援の気持ちは届いている?

私はフィギュアスケートを見ることが好きなのですが、育児真っ最中で、いろいろな理由から試合やショーを見に行くことは難しく、テレビで試合を見ること、雑誌を買うことぐらいしかできません。今の自分にできることをとは思っているのですが、時々これって応援になってるのかな……と疑問に感じてしまいます。 現役の選手にとって一番うれしい応援ってどんなことですか? (ともこさん)

応援ありがとうございます!
人それぞれいろいろな応援の形があると思います。なにもお金をかけるからえらいというわけではないです。もちろんお金や労力をかけて現地に来てくださることはその人にとっての愛の形なので、本当に有難いですけど、選手に迷惑のかからない範囲であれば、僕はどんな応援であっても喜びますし、どんな応援が正しいとかは関係ない。
人生で初めて試合会場に行くことができて、でもそれが最後になるかもしれないってことだとしてもうれしいし、現地で見たことがないけどいつもテレビで応援してるというのでもほんとにうれしい。 なんなら育児真っ最中で忙しいなか、それでもテレビで応援してくれてるってもうめちゃくちゃ幸せです。

どんな形であっても僕は応援してくださってる人の気持ちをおろそかにしたくないですし、演技で返すのが僕の務め
応援しててよかったって思ってもらえるような演技をするのが僕にできることだと思っています。
なので僕はどのような応援でもすごくうれしいですし、それは確実に僕のもとに届いています。 

写真/アフロスポーツ 取材・文/轟木愛美
※いただいたお悩みは掲載にあたり、内容をそのままに文章の一部を短く修正している場合がございます

Profile

友野一希友野一希選手のInstagram 友野一希選手のTwitter

フィギュアスケート選手

 

1998年5月15日生まれ、大阪府堺市出身。上野芝スケートクラブ所属。

趣味は古着屋巡り、サウナ。
“浪速のエンターテイナー”の異名をもつ、表現力豊かな唯一無二のスケーター。
層の厚い日本男子の中で、地道に積み重ねてきた努力が先シーズン開花。四大陸選手権2位、世界選手権では世界歴代6位の記録でショート3位につける大躍進を遂げ、今後ますますの活躍が期待される選手。
▶詳しいプロフィール&これまでの活躍はこちら



  Interview  

Kazuki Tomono

フィギュアスケーター

1998年5月15日生まれ、大阪府堺市出身。
2026年のミラノ・コルティナダンペッツォオリンピックを目指す男子シングル日本代表。感情をスケートにのせ、観客の心まで躍らせるHappyな演技で世界を熱狂させる愛されスケーター。
古着、サウナ、インテリアショップ巡りなど多彩な趣味をもつ26歳。実直な人柄、好きなことに対する探究心など、近年は競技以外で見せる魅力にも注目が集まる。
表現の名手であり、オフシーズンはアイスショーに引っ張りだこ。各ショーの特性に合わせた多彩なパフォーマンスでエンターテイナーぶりを発揮している。
新シーズンは「競技者としてより高みへ」をテーマに練習に励む日々。今季のフリープログラムは『Butterfly』。さなぎが蝶へと変化するように、彼もまた、圧倒的変化を求め日々成長中。その美しき進化に出会える日はもうすぐそこだ。

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