【ノンノ編集部の司書・編集Hの推しBOOK】じっくり考えたくなる小説5選

2020.06.11更新日:2020.06.24

こんにちは! 入社2年目の編集Hです。

読書が好きな私は、前回に引き続き、おすすめの本を紹介します。

今回は、思わず深く考えてしまうような、ちょっぴり読み応えのある本を5冊選びました。時間がある今こそ、手に取ってみて欲しいです。

   

 1.『アーモンド』 ソン・ウォンピョン・著 矢島暁子・訳 

 ¥1600 祥伝社

アーモンド形の神経細胞の塊「アーモンド」が人より小さく、怒りや恐怖といった感情を理解できない男の子・ユンジェの話。

彼を守っていた母と祖母が、痛ましい事件で亡くなるところから物語は始まります。その後ユンジェは、感情は分からないものの、他者から与えられた愛や優しさに誠意をもって向き合うことで成長していきます。

ユンジェの言葉はいつだって素直でストレート。特に、「遠ければ遠いでできることはないと言って背を向け、近ければ近いで恐怖と不安があまりにも大きいと言って誰も立ち上がらなかった。」という彼の言葉は胸を刺さるものがありました。

自分が見えないところで起きた事件などの情報を日常的に多く目にする私たちは、知らず知らずのうちに「共感力」が衰えてしまっているかもしれません。もし、なんとなく自分も?と思った方がいたら、ぜひ「アーモンド」を手に取って欲しいです。私は、自分の手が届かない事象にも想像力を働かせる大切さに気付かされました。

  

 2.『BUTTER』 柚木麻子・著 

 ¥990 新潮社

交際相手の財産を奪い、殺害した容疑で逮捕された容疑者の女性。美しくない容姿にも係わらず、なぜ男たちは次々と彼女の虜になったのか――ここまで読めば、ピンと来た人もいるでしょうか?

この物語は、実際に起きた連続殺人事件が元になっています。週刊誌編集者の女性記者・里佳、事件の容疑者である梶井、里佳の親友・怜子。作中では、この3人の女性が様々な角度から描かれており、特に「女性のずるさ」に関して容赦なく切り込む描写には、思わずギクリとしました。物語を楽しみながらも、結婚観、女性の社会進出……今、私たちが与えられている課題に向き合わざるを得ない社会派長編です。

余談ですが、料理に関する描写が多いので、読んでいると本当にお腹が空きます。まさに文字の飯テロ。夜中に読むことはおすすめできません!

  

 3.『透明な夜の香り』 千早茜・著 

 ¥1500 集英社

友だちの家の香りで実家を思い出したり、電車で隣に座った人の香りで前の恋人を思い出したり。何かを考える時に香りを思い出すことはないのに、香りによって記憶が蘇ることはあるってなんだか不思議ですよね。

本書は、調香師の朔と、彼の手伝いをすることになった一香が、秘密を持つ依頼人たちに応えていくスリリングで美しい物語。2人は、過去の記憶、という共有し難い部分にだんだん踏み込んでいきます。2人の関係性はもちろん見どころですが、なんといっても五感を刺激してくる新鮮な描写が巧い! 朔のサロンがある洋館の庭に茂る草花や、一香の丁寧な手料理……あまりにいきいきとした表現に、1Kの家の中で読んでいることを忘れてしまうところでした。おうち時間に、華やぎを与えてくれること間違いなしの1冊です。

   

 4.『空白を満たしなさい』(上)・(下) 平野啓一郎・著 

 ¥680(上下ともに) 講談社

家族と接する時の自分、SNSでの自分、はたまた就職活動の面接での自分。それらが一致せず、どれが本当の自分なんだ、と悩んだ経験はありませんか?

主人公は死んだ3年後に生き返ったものの、意外にも家族や職場の人々には受け入れてもらえません。その理由は、死が自殺によるものだったから。そして、主人公が自殺の原因を自ら解明する過程で気が付く「分人主義」という考え方に、私は妙に納得しました。この「分人主義」では、一人の人間には色んな面(=分人)があり、分人同士で補完し合うことで一人の人間が成立している、とされています。一人の相手に全てを認めてもらうのではなく、色々な要素で隙間を埋めていくのがとても今っぽい考え方だと感じました。

進学や就職をして、自分とは何者か、と迷ってしまった方はぜひこの本を読んでみてください。少し、心が軽やかになるはずです。

  

 5.『発注いただきました!』 朝井リョウ・著 

 ¥1600 集英社

なんだかずっしりしたテーマの小説が続いたところで、最後は “お仕事小説”を紹介して終わりにします。

直木賞作家・朝井リョウ氏が、今までタイアップで依頼を受けた作品をまとめた本書は、それぞれの「発注内容」→「本文」→「本人解説」の順で構成されています。例えば森永製菓からの依頼内容は「キャラメルが登場すること。」などが条件。このようにミニマムな条件からインスピレーションを広げ、文章を創り上げる過程は普段見ることが出来ないので、「自分だったらどうするだろう」とついつい想像力をかきたてられました。ちなみに、「本文」が真面目であればあるほど「本人解説」との高低差が面白いので、そちらにも注目しながら読み進めて欲しいです!

   

ビビっと来る作品はあったでしょうか? 友だちとおすすめし合うのはもちろん、同じ小説を読んで考えや感想を共有し合うのも楽しいと思います!

少しでも、皆さんの参考になれば嬉しいです。

それではまた!

▼この記事を書いたのは…

編集 H

編集 H

入社2年目。主にファッションを担当。フェミニンな服が好きで、最近は大人っぽく見えるコーデを研究中。趣味は読書と美少女鑑賞です。

Icons made from svg iconsis licensed by CC BY 4.0