「オードリーの旅エッセイ」、そんな軽い気分で手に取ったこの本は、序盤からものすごいスピードで私を夢中にさせ、一瞬ではるか遠くの地まで吹き飛ばしてくれるような鮮烈な作品だった。離陸前の緊張も、飛行機からキューバの灯りを見る胸のときめきも、翌朝ホテルの屋上に出たときに思わずこぼれた笑いも。何気ない文章なのに自分が体験しているかのように感動がリアルに伝わり、旅の解放感と幸福で胸がいっぱいになる。
格差社会、成功、お金、勝ち組――。そんな日本的価値観に疑問を感じている著者が社会主義国のキューバで見つけた予想外の答えとは。そしてキューバへやってきたほんとうの理由とは。
巧みな展開で最後まで惹きつけながらも、この本を貫くいちばんの魅力は著者の十代のようなピュアな視線に他ならない。真のピュアさとは無知や幼さではなく、もっと見たい、知りたい、と見つめる力の強さのことなのだろう。