世の中においしいものについて書かれたエッセイは無限にあるが、その中でもこの人の文章はちょっと特別だ。いや、はっきり言って食の変態。としか言いようのないおいしさへの執念を炸裂させている。
変態といってもゲテモノを食べるわけではなく、高級な食材や有名なお店の話をするわけでもない。月見うどんの黄身がどれだけ魅力的かを饒舌に語り、宅配ピザはハーフ&ハーフを食うなストイックに行けと吠え、新幹線の車内では幕の内弁当の食べ順を司る軍師となって迅速にライスマネジメントを行う。ユーモアに満ちた楽しい文章に思わず笑ってしまうのだけど、ふと、これって食べものの本ではなくて感受性の本なのでは? と思う。
当たり前にあるものを前に、どれだけ何かを感じ、味わうことができるのか。それって人生の豊かさにもつながるのではないだろうか。きっとこの本を読んだらもう、スマホ片手に何かを適当に食べるなんてこと、もったいなくてできなくなるはず。