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映画&ドラマ&舞台
2026.05.30

映画『国宝』の影響もあり、今ノンノ世代でも注目度が高まっている歌舞伎。"見てみたいけど難しそう……"という初心者に向けて、徹底解説。
歌舞伎鑑賞がもっと楽しくなる基礎知識を中村歌之助さんがレクチャーしてくれました!
中村歌之助さんがレクチャー
歌舞伎の基本のき
歌舞伎をより楽しむために知っておきたい基礎知識。大学の比較芸術学科で世界の演劇を勉強したという歌舞伎博士の歌之助さんに聞きました!
教えてくれたのは
●なかむら うたのすけ 2001年9月10日生まれ。八代目中村芝翫(しかん)の三男。長男・橋之助、次男・福之助も歌舞伎俳優。屋号は成駒屋。2016年、四代目中村歌之助を襲名。次代を担う花形俳優。

Q性格を自己分析すると?
「冷たい性格(笑)。常に冷静で孤独も感じていたいと思います」Q今ハマっていることは?
「趣味といえる趣味がなくて。仕事も趣味も癒やしも全部歌舞伎です」Q好きな食べ物は?
「お寿司! もしくは焼き肉」

2026年5月1日(金)~5月3日(日)に、橋之助・福之助・歌之助の三兄弟で第四回となる自主公演『神谷町小歌舞伎』(浅草公会堂)を開催。「歌舞伎が初めての方でも見やすいので、ぜひご覧ください」
※取材は2026年3月に実施しました
A 歌舞伎ができたのは江戸時代。400年の歴史があります!
「歌舞伎の歴史は1603年頃に『出雲阿国(いずものおくに)』という女性が京都・鴨川の四条近くの河原で披露した『かぶき踊り』から始まったといわれています。現在は男性だけで演じられているけれど、当初は女性が主役だったんですね。でも、それが風紀を乱すと幕府に禁止され、やがて男性のみが演じるように。江戸の元禄時代には、見得をしたり、隈取を描いたりするような今の歌舞伎が完成されて、庶民の娯楽として不動の人気を得ました」(歌之助さん・以下同)。歌舞伎発祥の地とされる四条大橋のたもとには出雲阿国の像が。京都に行ったら探してみよう!
A 赤い隈取は正義や若さの象徴
「歌舞伎特有の赤い隈取。実はあの線は人が興奮した時に顔に浮き出る血管を誇張したもので、怒りとか、正義、若さを表しています。なので赤い隈取の人が出てきたら、『この人は正義のヒーローなんだな』とか『血気盛んな若者だな』と思ってください。
一方、青い隈取は血が汚れているという意味で、謀反をたくらむ悪者とか怨霊などを、茶色の隈取は人間に化けた妖怪や鬼などを表現しています。江戸時代はまだ電気がなくて、芝居小屋では窓からの光やろうそくの明かりを使って上演していました。暗い中でも役者の表情がよく分かるように強調して描いたんですね。歌舞伎独特の白塗りも、薄暗い中で役者の顔が反射してよく見えるように白くしたのが始まりだったといわれています」。メイクにも歴史あり!

2023年11月平成中村座『小笠原騒動』で小笠原隼人を勤める歌之助さん。白塗りできりっと凛々しい雰囲気に。©松竹

赤は荒事(豪快な動きが特徴の歌舞伎の演技様式の一つ)の代表的な隈。青は『車引』、茶は『土蜘』という作品の隈。

A 花道、スッポン、廻り舞台。どれも歌舞伎ならでは
「まずは『花道』。もとはお能の舞台からヒントを得て作られたもので、時に廊下になったり、川になったり……といろいろな使い方ができるオールマイティな仕かけ。舞台から飛び出すような形にできているので、お客さまの目を引くには効果抜群です」
舞台の下から人が上がってきたり、引っ込んだりする「セリ」は江戸時代からあったというから驚き。「なかでも花道にあるセリは動物のスッポンの首の動きから『スッポン』と呼ばれていて、妖術使いや動物など、人間ではないものが出入りすることがほとんどです。また『廻り舞台』の元祖は歌舞伎。他の演劇では暗転して行う場面転換をお客さまに見せてしまうというダイナミックな演出です。ぜひ注目してください」

A 半沢直樹が決めゼリフを言う場面だと思ってください(笑)
「ドラマでも主人公が決めゼリフを言う場面で、アップになったりしますよね。『見得』も同じような効果を狙ったもので、大きくポーズをとって、『ここが見どころですよ!』というのをお客さまに分かっていただくための演出なんです。見得の形は不動明王の形に由来するといわれています。
そしてここで重要なのが『ツケ』と呼ばれる効果音。ツケ板に拍子木を打ちつけて役者の動きを強調するもので、見得でも『バタバタバタ』とツケを打ち、『バッタリ!』と決めます。この呼吸が役者とぴったりと合うと迫力満点! よく歌舞伎はどこで拍手したらいいか分からないという方がいますが、見得の場面では思いきり手をたたいて舞台を盛り上げてください」

2026年1月大阪松竹座『菅原伝授手習鑑』で梅王丸役を勤める歌之助さん。豪快な見得がカッコいい! ©松竹
A 話がよく分からなくても役者がカッコいい! 衣裳が美しい!など気楽に楽しんで
「歌舞伎は『見取り狂言』といって、ストーリーを通しで見せるのではなくて、連続ドラマの一番視聴率の高かった回だけを抜粋してやっているようなもの。話が分かりにくくて当然なんですよね。だからちょっと面倒だけど前もってストーリーを予習するとか、イヤホンガイドを借りたりすると安心かなと。でも言葉が分からなくても役者がカッコいい! 衣裳が美しい! 音楽が素晴らしい!と五感で楽しめるのが歌舞伎なので、堅苦しく考えずに気楽に楽しんでほしいですね。また、新作歌舞伎から入るのもおすすめ。『ルパン三世』の歌舞伎をやっていたり、夏には『もののけ姫』の歌舞伎があったり。新作は言葉も分かりやすいので、そこから歌舞伎に親しんでいくのもいいと思います」

2022年8月歌舞伎座で手塚治虫原作の新作歌舞伎『新選組』に兄の福之助さんと挑んだ歌之助さん。深草丘十郎役で、マンガから抜け出てきたよう! ⓒ松竹

A お店の看板のようなもの
「歌舞伎俳優にはそれぞれ屋号があり、屋号というのは、そのお家が出しているお店の看板みたいなものです。何を屋号にしているかはお家によって違い、僕の家の『成駒屋』も由来は諸説あります。将棋の駒が敵陣に行ってひっくり返っていろいろな駒になるように、いろいろな役ができることを願ってつけられたとか、歌舞伎の市川宗家の屋号である成田屋さんから一文字をもらったという説も。
また、歌舞伎で『○○屋!』と屋号を呼ぶ声がかかりますが、あのかけ声は『大向う』といって、専門で声を出す方々がいます。よきタイミングで声をかけてくださると、舞台も華やかになって役者にとってもありがたい。大向うも含めて歌舞伎だと思っています」
A 伝承されてきた動きや心根のこと
「古典作品には代々受け継がれてきた『型』というものがあります。その役柄を演じる上で大切にしないといけない動きや段取り、セリフなどのことです。これはマニュアルみたいに文章で書き記されているものではなくて、親や先輩方に教えていただいて、いわゆる口伝(口伝え)で継承されていくものなんですね。ただ、僕が一番大事だと思う型は、動きではなくて、『ハラ(肚)』なんです。ハラというのは役柄の性根のこと。どんな気持ちでこのセリフを言っているのか、何を思ってここへやってきたのか――そういうことを学んで、初めて芸を伝承することができるんじゃないかと僕は考えています」
A 名前を受け継ぐと同時に、「襲命」でもあります
「襲名とは簡単にいえば、"名前を継ぐ"ということ。(松本)白鸚(はくおう)のおじさまは、ご自身の襲名の時におっしゃっていました。歌舞伎役者にとって『襲名』の『めい』は『名』じゃなくて『命』だと。たしかに先人たちが築き上げた名前を受け継ぐというのは、それくらい重みがあるもの。そしてその責任感が役者の芸にも反映されるのだと思います。
とはいえ、急に名前が変わったら混乱しますよね。僕だってそうです。兄は2016年に『橋之助』を襲名したけれど、2、3年はそれまで名乗っていた父のイメージが抜けませんでした。でも、次第に橋之助の字面がだんだん兄貴になってきたと感じるように。字面に人を感じるのは僕だけかもしれないですけど(笑)。
今年は5月の『團菊祭』で、(尾上)左近くんが辰之助を襲名します。同世代の襲名は僕にとっても喜ばしいこと。皆さんも劇場に足を運んで、一緒に祝っていただければと思います」

三代目尾上辰之助襲名披露の特別ビジュアル。『菊畑』で、奴虎蔵(実は源牛若丸)を勤める辰之助さん。これは見逃せない! ⓒ松竹
A これはもう本人しだいです
映画『国宝』でも話題となった女方。「お家によって女方の家系とか、立役の家系とかありますけど、人によって合う、合わないもあるので、基本的に決めるのは本人。うちは三兄弟で、父に『どちらでもいいよ』と言われていました。僕がやりたいのは立役なのですが、顔立ちのせいか周囲から女方をすすめられることもあります。でも、実際に演じてみると、僕にはとても難しいなと思うんですよね。
とはいえ、まだ立役しか演じないと決め込んだわけではありません。中村七之助さん(女方)は、20代前半の頃は『絶対に立役しかやらない』と思っていたのに、ある役を勤めたことで『女方っておもしろい!』と目覚めたそう。だから『30歳くらいまでどうなるか分からないよ』と。また、中村時蔵さん(女方)には、会うたびに『僕はまだ歌之助の女方を諦めてない』と言われ続けています(笑)」

2026年6月号掲載
Staff Credit
撮影/露木聡子 ヘア&メイク/伊東宏泰 取材・原文/佐藤裕美 web構成/轟木愛美 web編成/ビーワークス ※取材は2026年3月に実施しました

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