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【北京オリンピック】羽生結弦、宇野昌磨、鍵山優真……各国の注目選手をご紹介【フィギュアスケート男子】
いよいよ開幕した北京オリンピック。フィギュアスケートでは、複数の4回転ジャンプに加え、技の完成度、芸術性、そのすべてを満たさなければ表彰台には届かないという、かつてないほどハイレベルな戦いが繰り広げられる。8日から始まる個人戦を前に、百花繚乱の男子シングルの注目選手をご紹介。
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フィギュアスケート
2022.02.22更新日:2022.04.16
大熱狂のうちに幕を閉じた北京オリンピック。
フィギュアスケート男子シングルでは、世界選手権3連覇中の世界王者、ネイサン・チェン選手が圧巻の演技で金メダルに輝いた。
この4年間歴代世界最高得点を何度も塗り替え、出場したほぼすべての大会で優勝するなど、あらゆる称号をその手につかみ取ってきたフロントランナーに、ついに五輪王者のタイトルが加わった。
そして今回、大会を終えたばかりのチェン選手にZoomを通してインタビューを敢行。
前回のオリンピックから今に至るまでの道のり、ネイサン流メンタルヘルスメソッド、さらには自身とフィギュアスケートの未来についてなど、人柄の良さが垣間見える誠実な言葉で一言一句丁寧に語ってくれた。
今回お届けするのは、北京オリンピックの公式タイムキーパー、OMEGA主催のもと行われた合同インタビュー。OMEGAのアンバサダーを務めるチェン選手の腕に光るのは、「シーマスター アクアテラ 北京2022」。北京オリンピックを記念したモデルで、ホワイトのセラミック製ダイアルにフロスト加工を施し、氷をイメージしたもの。価格¥781000
思い返せば18歳で出場した4年前の平昌オリンピック。
金メダル候補の一人とされながら、ショートでジャンプのミスが続き、まさかの17位発進。フリーでは4回転ジャンプ6本という超高難度の構成で追い上げ、フリーの得点では1位、総合5位入賞を果たしたものの、チェン選手にとっては悔しさが残る大会となった。
そこから4年間、血のにじむような努力のもと、磨き上げられたジャンプと豊かな身のこなしを武器に、圧巻の快進撃が続いた。
そして幕を開けた特別なオリンピック。
そこにはもう4年前の姿はなく、あるのは誰もが認める圧倒的な実力と、数々の輝かしい実績に裏打ちされた王者の風格だった。
ショートでは、後半に4回転ルッツからの連続ジャンプを入れる人類史上最高難度の構成で、歴代世界最高得点を更新。スケートを心から楽しむような表情が印象的だったフリーでは、5本の4回転ジャンプはもちろん、10点満点で評価する演技構成点は5項目すべて9点台後半という数字が並んだ。
合計得点は2位に20点以上の差をつけての完全優勝。
平昌での忘れ物を見事回収し、両親のルーツでもある北京で、オリンピックチャンピオンという最高の栄誉を手にしたのだった。
▶ネイサン・チェン選手の詳しいプロフィールはこちら
―― 2018年の平昌オリンピックはチェン選手にとって、どのような意味をもった大会でしたか?
そしてそこから今に至るまでの4年間、どのような変化があったのでしょうか?
平昌オリンピックは私にとって信じられないほど素晴らしい経験になりました。
初めてのオリンピックでしたし、実際、シニアのスケーターとして確か3度目か4度目の主要国際大会でした。
それまではジュニアだったので、自分にとっては実に大きなステップアップでした。オリンピックに臨む上で必要な経験がありませんでしたし、それに向き合う勇気もないままとんでもないところに放り込まれたという感じです。
平昌オリンピックでは様々なミスがありましたが、それが次の4年間へと向かう原動力になりました。どうしてミスをするのか、次はどう修正すればいいのかを考え、トライ&エラーを繰り返しながら成長し続けるチャンスになりました。
この4年間、(イェール)大学に通っていた2年間以外、練習面では大きな変化はありませんでした。それまでは生活のすべてがスケート一色でしたが、大学では、スケート以外のことにも集中できました。その後、2年間休学してスケートだけに集中できたことは、スケートに必要なことを磨いていく上で大いに役立ったと思います。
子どもの頃から、オリンピックがいかに大きな大会であるかはずっと頭にありましたが、平昌オリンピックを経験したことで、自分が滑ること自体は、これまでに出場した他のどの大会とも実は変わらないと悟りました。日程から競技者、大会の流れまで、これまで出場したどの大会とも何ら変わらないのだと。
大会に出場して楽しむこと、それは自分が今までずっとやっていたことだと気づいたことが、今回のオリンピックでとても役に立ちました。
―― 今回のショートプログラムは、世界歴代最高得点をたたき出す最高の演技でした。記者会見では、メンタルコーチのサポートについても話されていましたが、それがオリンピックという大舞台でどのように役立ったか教えてください。
メンタルヘルスは体の健康と同じくらい重要で、運動に限らず、生活においても非常に大切なものです。
ここ2年間は、メンタルコーチがサポートに就いてくれました。
精神科医やセラピストとメンタルコーチは共通する部分がありますが、その違いは、メンタルコーチは試合でのアスリートのメンタルをサポートし、大会中にピークを迎えられるよう調整してくれるということです。
トレーナーとジムへ行って身体を鍛えるように、メンタルコーチとセラピーセッションを行うことで、メンタルを保つ訓練をするのです。
フィジカル面でも鍛えてきましたが、メンタルを整えることで、落ち着いて試合に臨めたと思います。
―― 金メダルまでの道のりを振り返ってみた時、ターニングポイントになったと思う瞬間はありましたか?
長い道のりだったのことは間違いありませんが、ターニングポイントというのは特にないと思います。
私はスケートを始めて以来、多くの方々から多大なるサポートを受けてきました。両親の助けはもちろん、初めてのスケート靴を買ってもらったこと、大幅な割引価格でレッスンを受けさせてくれたことや、家族が応援してくれたことが今の自分につながっています。
さらには、惜しみなく指導してくれるコーチに出会えたこと、カリフォルニアに移ることができたことなど、すべてが日々の成長を助け、この結果を得られたのだと思います。
ひとつひとつは大きなステップやターニングポイントではないかもしれませんが、今の私があるのは、まさにそうした支援があったからにほかならないのです。
確かに平昌オリンピックは自分にとって重要な経験になりましたし、2016年にケガをして手術をしたこともまた大きな経験です。
こうした小さなすべての事柄が学びへとつながり、その一つ一つの積み重ねが、現在の私を形成してくれたのだと思います。
ですから金メダルを振り返った時、自分がこれまで受けたすべてのサポート、フィギュアスケートから得たすべての経験に本当に感謝しています。
―― ともにフィギュアスケートの技術を押し上げてきた羽生結弦選手はもちろん、すべての選手に敬意を払う姿が印象的ですが、その背景にはどのような考えがあるのでしょう?
ここ何年かにわたって、ユヅと同じ舞台で戦うことができているのは、私にとって大変光栄なことです。私がまだ若く、ジュニアですらない時から彼の活躍を見てきたのですから。
ユヅは、たちまちフィギュアスケート界のアイコンとなり、初出場のオリンピックで優勝しました。当時、とても感銘を受け、刺激をもらったのを覚えています。
それから2年後、私もシニアに上がり、彼と戦う機会をもらった時、彼と氷上でともに過ごすことができるのはなんてすごいことだろうと思ったのを、今でも覚えています。
その気持ちは何年経っても変わりません。彼が氷上で見せるものすべてに刺激を受けています。彼はまさにトレンドセッターであり、史上最高のスケーターかもしれません。彼と同じ時代のスケーターであることは、信じられない経験なのです。
フィギュアスケートが他の競技と違う点は、他の選手と直接戦うことがなく、一人きりで戦うということ。自分ただ一人が存在する氷の上で、ただその時できる最高の演技をするだけです。
そのおかげで試合中は激しく競うことがあっても、リンクから一歩出れば、戦う相手ではなく、一人のアスリート、ただの人間に戻ります。
だからこそ、それぞれの努力やベストを尽くした演技に敬意を抱きますし、競う相手であっても心からリスペクトしているのです。
―― 今後また学業の両立も大変になるかと思いますが、時間をどう使いたいとお考えですか?
もちろん自分の時間の大半はスケートの練習に費やしますが、学ぶべきことがまだたくさんあります。確かにまた忙しくなるでしょうし、授業の合間に練習をやることになるでしょう。
ですが、過去14年間に学んだのは、スケートだけではなく、自分と向き合って過ごす時間も大切だということ。
例えば、友人や家族と一緒に過ごすとか、ギターを弾くとか、YouTubeで動画を見たりとか。リンクの上で最大限力を発揮するために、本業には関係ない楽しめることを見つけるようにしています。
―― 競技生活を含めた今後の人生のビジョンについてお聞かせ願えますか?
オリンピック優勝を果たした今、今後についてはまだ考えている途中で、周りに相談している段階です。
ですが、次のステップは復学すること。もちろんスケートもまだ続けますし、ショーにも出演しますが、競技に関しては時間をかけて考えるつもりです。
演技中のパフォーマンスで見えている部分がすべてのように見えますが、その裏側、見えない部分には、とても多くの時間と努力があります。
選手を続けていくためには、自分を突き動かす原動力となるものを見つける必要があると思います。
写真提供:OMEGA
「スピードマスター ムーンウォッチ マスター クロノメーター」は、人類初の月面着陸時に着用され、“ムーンウォッチ”としても有名な時計。価格¥924000円
―― オリンピックではOMEGAの新技術により、様々な要素が可視化されるようになりましたが、これが採点にどんな影響を与えると思われますか?
データが可視化されることは、スケートにとってはもちろん、スケート以外の競技にとっても素晴らしい進歩です。
演技を採点する上で、測定基準ができることは非常に重要だと思います。なぜならスケートという競技は展開がとても速く、様々なエレメンツが繰り出されるため、人間の目で捉えることは非常に困難だからです。
新たな技術を利用できることは、採点を数値化する上で大いに役立つでしょうし、今後どこまで進化していくのか、期待して見守っています。
―― ついついジャンプが注目されてしまいがちですが、フィギュアスケートは、技術と芸術が融合した素晴らしい競技です。来シーズン以降、ルール改正の話もあるかと思いますが、競技はどのように変化していくとお考えですか?
フィギュアスケートの場合、スポーツに加えてアーティスティックな側面があります。その側面があることで、技術と感情とのつながりが深まり、フィギュアスケートを楽しめるのです。 確かに高難度ジャンプによって競技のあり方は大きく変化し、採点の基準も変化してきました。
しかし氷上で素晴らしい作品を作り上げ、さらに勝つために必要なものを手にする選手はたくさんいます。たとえばUSAのチームメイトジェイソン・ブラウンは、美しいスケーティングで自分を表現しながら新たな物語を生み出し、素晴らしい結果を出してきました。
フィギュアスケートの将来に関しては、選手だけで決められることではありません。これまでも、総会などを通じて決められてきたと思います。
ですので、将来どうなるかとても楽しみですが、確実に言えることは、すべての選手がとても才能があって、適応力があるということ。だからこそフィギュアスケートの未来は明るく、まだ見ぬ力を秘めているということは間違いありません。
―― 競技への真摯な思いと愛が伝わってくるお話をありがとうございます。チェン選手はフィギュアスケートのどんなところがお好きなのでしょう?
好きなところはたくさんあります。
私のモチベーションは、大会で優勝することだけではなく、フィギュアスケートへの愛にもかかわってきます。
試合は新しいスキルを試したり、自分の到達具合を確かめたりするのはもちろん、仲間たちと会える場としてもいつも楽しみにしています。
―― 日本にもまたチェン選手に会えることを心待ちにしているファンがたくさんいます。次回日本に来た際、やりたいことはありますか?
日本はこれまで何度も訪れていますし、次の来日をとても楽しみにしています。
コロナ禍の間は来日できていませんので、また日本でファンと一緒に過ごすのを楽しみにしています。(前回はホテルに缶詰になったので、次は違う形で……)
日本のスケートファンは知識が豊富で、フィギュアスケートを愛してくれているのがよく伝わります。ですので、また日本を訪れ、自分の情熱を、真の情熱を抱いている人々と分かち合えるのを心待ちにしています。
―― 来日された際、いつも日本の食事を楽しまれているイメージがありますが、次回食べたいものはなんでしょう?
(笑顔で)実は日本食が大好きなんです。
ここしばらく、おいしい寿司やおいしいラーメンを食べていなので、食べるのはまずその2つでしょうね。
おにぎり、たこ焼き、スナック菓子も大好きなので、日本でまた味わえるのを楽しみにしています。
フィギュアスケート選手 |
1999年5月5日生まれ、アメリカ合衆国ソルトレイクシティ出身。身長166cm。
趣味はサイクリング、読書、ギターを弾くこと。
名門イェール大学に通う文武両道スケーター。
グランプリファイナル、世界選手権ともに3連覇中。大会ごとに自由自在にジャンプ構成を変更。5種類の質の高い4回転ジャンプとバレエで培った表現力で、フィギュアスケートの歴史を次々と塗り替えていくフロントランナー。
▶詳しいプロフィール&これまでの軌跡はこちら
いよいよ開幕した北京オリンピック。フィギュアスケートでは、複数の4回転ジャンプに加え、技の完成度、芸術性、そのすべてを満たさなければ表彰台には届かないという、かつてないほどハイレベルな戦いが繰り広げられる。8日から始まる個人戦を前に、百花繚乱の男子シングルの注目選手をご紹介。