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フィギュアスケート
2026.01.29

2003年5月5日生まれ、神奈川県横浜市出身の22歳。
オリエンタルバイオ/中京大学所属。
身長160cm。趣味は音楽鑑賞、風景の写真を撮ること。
技術を芸術へと昇華させる、銀盤の至宝

コーチは、実の父でオリンピアンの鍵山正和さん。日本人として初めて4回転ジャンプに挑戦した選手としても知られる。
その背中を間近に見ながら、5歳から本格的にフィギュアスケートの道を歩んできた鍵山選手。柔らかな膝を生かした質の高いジャンプを武器に、ステップやスピン、スケーティングまで高い完成度を誇る、オールラウンダーのスケーター。
2022年北京オリンピック個人・団体で銀メダルを獲得。日本フィギュア界の最年少メダリストに。2021年、2022年、2024年世界選手権銀メダル、2025年世界選手権銅メダル。
北京オリンピック翌シーズンは怪我により一時戦線離脱したものの、2023-2024シーズンに復帰。イタリアを代表する名スケーター、カロリーナ・コストナー氏がコーチとしてチームに加わり、ミラノ・コルティナ五輪に向けた盤石の布陣に。正和氏のもとで磨き上げた確かな技術に、コストナー氏の表現指導が加わり、唯一無二のスケーターへと進化中。
2024年、2025年と、全日本選手権2連覇。日本フィギュアスケート界をけん引するエースとして、その名を刻んでいる。

4回転ジャンプを武器に破竹の勢いで駆け上がった2019-2020シーズン

2018年の全日本選手権で、初出場にして6位入賞、新人賞を受賞するなど、一気に注目を浴びた鍵山選手。翌年の4月のリリーカップで初めて決めた4回転トーループを武器に、新シーズンに乗り込んだ。
ジュニアグランプリシリーズ第1戦目のフランス大会、ショートプログラムでは80点超えの自己ベストを更新し優勝。自身2戦目となったポーランド大会でも、ショート、フリーともに自己ベストを更新して2位に入り、ジュニアグランプリファイナルへの進出が確定した。
全日本ジュニア選手権では、国際スケート連盟(ISU)非公認の記録ながら、当時のジュニア最高得点を上回る251.01点をたたき出し、初タイトルを獲得した。

ジュニアグランプリファイナルではミスが響き、メダルまであと一歩の4位。悔しさを抱え、挑戦をテーマに迎えた全日本選手権。
ショートプログラムでは、トリプルアクセルの回転が抜け、規定を満たせず0点となる手痛いミスが。しかし、その後予定していた3回転ジャンプを4回転に変更する攻めの姿勢を見せて得点を稼ぎ、7位からのスタートに。
フリーでは、2本の4回転ジャンプ、トリプルアクセルを大きな加点のつく出来栄えで成功させ、2位のハイスコアを記録し、総合では3位に。ジュニアの選手ながら、憧れの宇野昌磨選手、羽生結弦選手と並び、初の表彰台に上った。

年が明け1月。15~18歳のアスリートを対象としたユースオリンピックの代表として、ローザンヌへ。大会では、注目選手として日本の旗手も務めた。

ショートプログラムでは、リンクサイズが小さくなっていたことに気づかずコンビネーションジャンプで壁にぶつかるアクシデントもあり、3位発進。
巻き返しを期すフリーでは、スピン、ステップともに最高評価のレベル4を獲得し、質の高いジャンプで加点を重ねて166.41点をマーク。総合239.17点で大会を制覇した。
一度きりしか出場できないユースオリンピックの舞台で、見事逆転優勝。キス&クライでは、渾身のガッツポーズとともに喜びを爆発させた。

2月にはシニアの大舞台、四大陸選手権へ。
ショートプログラムから初のシニア主要国際大会とは思えない落ち着いた滑りを披露。ショートで初の90点台にのせると、フリーでも着実に4回転ジャンプを決め、179点をマーク。自己ベストを大きく更新する270.61点で銅メダルを獲得し、華々しいシニアチャンピオンシップデビューを果たした。


シーズン最後の大一番となった世界ジュニア選手権。ショートプログラムで1位発進を切ったが、緊張からか、フリーではシーズンを通して安定感を見せていた4回転トーループで転倒し、トリプルアクセルも1回転となって5位の得点に。総合では銀メダルとなった。
「この悔しさを一生忘れず、来季につなげていきたい」と語った鍵山選手。このジュニア最後の大会で得た経験が、次なるシニアステージへと繋がっていく。

シニア本格参戦を果たした2020-2021シーズン

コロナ禍で迎えた、シニアデビューシーズン。
初戦となった10月の関東選手権。ショートプログラムですべてのジャンプを高い加点がつく完璧な着氷で成功し、100点に迫るスコアで首位に。フリーでもこのシーズンより本格的に取り入れた4回転サルコーを含む4回転ジャンプ3本、さらには男子では跳ぶ選手の少ない難しい連続ジャンプ、3回転ルッツ-3回転ループを決め、圧巻の演技で優勝を果たした。
フリーの188.75点と合計287.21点は、ISU非公認ながら、当時の世界歴代5位相当の得点。デビュー戦でのいきなりのビッグスコアに衝撃が走るも、これはまだほんの序章に過ぎなかった。
初戦から仕上がりの早さを印象づけたものの、約1か月後に控えた東日本選手権を前に、フリーを変更。佐藤操氏振付の「ロード・オブ・ザ・リング」から、ショートプログラムと同じローリー・ニコル氏が振付をした「アバター」に変更することを決断。
完成したばかりのプログラムかつ、複雑な足さばきが要求される難度の高い振付。準備不足を覚悟して臨んだ本番だったが、ジャンプやコレオグラフィック・シークエンスで転倒が相次ぎ、フリーの得点は140.60点にとどまった。
困難を承知の上で貫いた攻めの姿勢に対し、正和コーチからは「逃げずに頑張ったじゃん」と労いの言葉がかけられ、キス&クライでは涙があふれた。
結果は総合212.32点で2位。プログラムの完成は、約3週間後に控えたグランプリシリーズ・NHK杯へと持ち越されることとなった。

シニア初のグランプリシリーズとなったのは、パンデミックの影響から自国の選手を中心に開催されたNHK杯。
優勝候補の筆頭として出場し、ショートプログラムでは、4回転サルコーからの連続ジャンプを完璧に決め、東日本選手権で2回転となってしまった4回転トーループも鮮やかに着氷。最後のトリプルアクセルは1回転となり、0点となったが、スピンとステップでは最高評価のレベル4をそろえ、首位で折り返した。
短い期間で滑り込んできた新フリーでは、3回転ルッツに続く3回転ループが1回転になったものの、大きなミスなくまとめ上げ、2位に大差をつけ、堂々と大会を制した。
後にインタビューで、父の正和コーチですら現役時代にNHK杯での優勝経験がなかったことについて問われると、一瞬戸惑うも、「お父さんのリベンジという意味でも、今回は果たせたんじゃないかな」という頼もしい回答が飛び出した。

世界選手権代表が決まる全日本選手権。
コロナ禍による試合中止の影響もあり、このシーズンここまで直接対決のなかった羽生選手、宇野選手らトップスケーターが一堂に会する舞台となった。
ショートプログラムでは、NHK杯でのミスを払拭するかのような美しいトリプルアクセルを披露。他のジャンプもすべて危なげなく決め、ISU非公認ながら自己ベストを上回る得点で2位につけた。
フリーでは、宇野選手、羽生選手に挟まれての滑走順で登場。「口から心臓が飛び出しそうだった」というほどの緊張のなかでも、自分だけの世界観を氷に刻み付けた4分間。ジャンプでバランスを崩す場面がありながらも、重圧の中で持てる力を出し切り、フリー3位。総合でも銅メダルを獲得し、2年連続で表彰台へ。初めて世界選手権代表の切符をつかみ取った。

順位は昨年と同じ3位ながら、「失うものはない」と臨んだ前シーズンとは異なり、今回は表彰台を意識した中での銅メダルとなった。
プレッシャーのかかる状況でも自分を見失うことなく滑り切った経験が、次に控える世界選手権へとつながっていった。

シニアでの初の海外試合は、シーズンで最も権威のある大会、世界選手権。日本のトップ選手はもちろん、鍵山選手が憧れの存在として挙げるネイサン・チェン選手を始め、世界の名だたるスケーターが顔をそろえる舞台だ。
約1年後に控えた北京オリンピックを前に、世界の中で自分の立ち位置を確かめる意味でも、どのような演技を披露するかに注目が集まった。
ショートプログラムのジャンプはすべて余裕を感じさせる着氷。氷の上を旅するかのように自由に、躍動感をまとって舞う、見る者をわくわくさせる滑りを披露した。ノーミスでフィニッシュし、得点はここにきてついに100点超え。世界大会でもスピン、ステップはどれも最高評価のレベル4を獲得し、2位でスタートを切った。
そして運命のフリー。 直前にチェン選手が圧倒的な得点をマークしたばかりのリンクで、名前がコールされる。
重圧のかかる場面でも「(チェン選手は)ノーミスするとわかっていた」と、世界王者の演技を目の前にしても動揺することはなかった。 自分の演技に集中し、前半のジャンプは流れのある着氷で次々と成功。最後の2本でやや着氷が乱れたものの、ラストに向かうコレオシークエンスでは、映画『アバター』の壮大な世界観を体を大きく使って描き出した。
正和コーチと祈るように得点を待つキス&クライ。190.81点という自己ベストの得点が表示され、表彰台が確定するとぱっと花が咲くような笑顔を見せ、両手を上げて飛び跳ねた。
総合では自己ベストを20点近く更新し、シニア1年目、17歳にして堂々の銀メダル。これ以上ない鮮烈な印象を世界に与えた。

北京オリンピックの出場枠最大の「3」の獲得に貢献し、幕を閉じた世界選手権。オリンピックの表彰台は、もはや“夢”ではなく、現実のものとして射程圏内に入ってきた。
“挑戦的”とまで言われた名高い振付師の手がけたプログラムでさえ、自分の色に染めてしまう力、例年より大会数の少なかった中でもすべての経験を力に変えた吸収力、そして何よりこの快挙をもってしてもなお「演技はちょっと悔しかった」と振り返る飽くなき向上心。
そこに世界選手権銀メダリストという大きな自信が加わり、4年に一度のオリンピックシーズンへと確かな歩みを進めていった。
2021-2022勝負のオリンピックシーズンへ
いよいよ4年に一度のオリンピックシーズンが幕を開けた。
世界選手権で銀メダルという輝かしい成績を手にしてもなお、挑戦者の気持ちで臨みたいとし、このシーズンもさまざまな課題を自分に課した。
その一つが、新たな4回転ジャンプ。これまでのサルコー、トーループの2種類に加え、3つ目の4回転ジャンプ、4回転ループを投入し、トップの牙城へ挑んだ。
さらにオリンピックシーズンは滑り込んだ過去のプログラムを選ぶ選手も多い中、自分の成長のためにと、両プログラムともに新作を用意。まだ見ぬ新たな一面で、勝負に出ることを決意した。
怪我でジャンプ練習ができない日がありながらも着々と技を磨き、国際大会初戦は、北京オリンピックのテスト大会を兼ねたアジアンオープン杯に出場。実際の会場となるリンクで氷の感触を確かめ、ショート、フリーともにトップで完全優勝。翌年2月のオリンピックを前に、よいイメージで大会を終えることができた。

シーズン序盤の主要大会、グランプリシリーズが開幕。昨シーズンはパンデミックの影響により、イレギュラーな形式でのNHK杯のみの出場となっていたため、鍵山選手にとって通常の形式で行われるグランプリシリーズはこれが初となった。
初戦は、中国大会の代替として開催されたイタリア大会。かつて古代ローマ帝国として栄えたその地で、フリー「グラディエーター」を披露することとなった。
ショートプログラムでは4回転ジャンプがはまらず、まさかの7位と出遅れてしまい、試練のフリーに。当初は気持ちの切り替えに苦労したというが、正和コーチの声かけで闘志を呼び覚ました。
霧が晴れたように次々にジャンプを決め、後半に向かって力強さを増した激情的な演技を披露。最後のトリプルアクセルを成功させると、珍しく笑みもこぼれ、ノーミスでフィニッシュを決めると、氷上で感情を爆発させた。

得点は自己ベストを一気に更新する197.49点。暫定首位に立つと、イタリアの観客に向かって深々頭を下げ、感謝の思いを伝えた。
ショートプログラムでの1位との17.36点差を巻き返す、劇的な逆転優勝。
勢いそのままに次戦フランス大会へと降り立った。

ショートプログラムのジャンプ構成を見直し挑んだフランス杯。
作戦が功を奏し、2本の4回転ジャンプはすべて美しく着氷。後半のトリプルアクセルの着氷が乱れながらも、100.64点のハイスコア。2021年世界選手権での自己ベストに迫る得点を記録し、自信をつけた。
フリーでは前半すべてのジャンプを成功させたものの、後半のジャンプでミスが。それでも185.77点を記録し、グランプリシリーズ2戦を優勝で締めくくった。
この結果、グランプリシリーズ上位6名のみが出場できるグランプリファイナルに1位通過で進出が決定。日本での開催ということもあり、目標の一つにしていた大会だったが、残念ながらパンデミックの影響で開催中止に。 その思いはオリンピック代表最終選考会となる全日本選手権へと引き継がれることとなった。

北京五輪への3枚の切符をかけた全日本選手権は、オリンピックシーズンにふさわしいハイレベルな戦いに。
ショートプログラムでは惜しくも4回転トーループで転倒。それでも最高評価のスピン、ステップで会場を魅了し、95.15点をマークした。
一つ大きくうなずき、リンクの中央に立ったフリー。ショートプログラムでのミスを払拭するかのように、美しい4回転トーループを2本着氷。後半に向かうにつれて勢いを増す滑りで、北京への道をしっかりと手繰り寄せ、万感の思いを込めてフィニッシュ。
プレッシャーから解き放たれた直後、リンクサイドで見守っていた正和コーチに出迎えられると、安堵の涙をこぼした。
得点は197.26点、総合292.41点で銅メダル。念願のオリンピックの舞台へと辿り着いた。

2022年2月。4年に一度の特別な舞台が、北京で幕を開けた。会場は、前年10月のアジアンオープントロフィーで優勝を飾った首都体育館。
勝負の火ぶたが切られたのは、個人戦に先駆けて行われた団体戦。
男女シングル、ペア、アイスダンスの4種目で争われ、鍵山選手はフリーを担当した。
「オリンピックという舞台で、成長した自分を見せたい」と4回転ループも投入。
さらに基礎点が1.1倍になる後半に、4回転トーループからオイラーを挟んでの3回転サルコーの連続ジャンプを盛り込む、挑戦的な布陣で勝負に挑んだ。
4回転ループはやや着氷が乱れるも加点がつき、他のジャンプはすべて美しく成功。
初出場のオリンピックでも存在感を示す滑りを見せ、自己ベストを11点以上更新する208.94点をマーク。攻めの姿勢が実を結び、ついに200点超えを達成。
日本初の団体戦メダル獲得※に大きく貢献し、個人戦に向け弾みをつけた。
※ロシアのカミラ・ワリエワ選手がドーピング違反で失格となったため、繰り上がりで銀メダル

団体戦フリーから中一日というハードなスケジュールで迎えた個人戦。
ショートプログラムでは、ゴージャスな4回転サルコーを皮切りに、すべてのジャンプを高い加点がつく出来栄えで着氷。「When You’re Smiling(君微笑めば)」のタイトル通り、冒頭から笑顔を誘うプレイフルな滑りで、オリンピックという特別な時間を全身で楽しみ尽くすような演技を見せた。すべての要素を決めると、はつらつとしたガッツポーズ。
得点は前年の世界選手権で記録した100.96点を超える、108.12点。ここでも自己ベストを更新し、2位に付けた。

ここまでオリンピックという特別な大会を楽しみながら戦ってきた鍵山選手だったが、すべてが決まるフリーはやはり特別。独特な緊張感の中、当日を迎えることとなった。
フリー「グラディエーター」は、勇者が困難に立ち向かっていくストーリー。大きく息を吐き、精悍な顔つきで、ゆっくりと扉を開くように手を前へと押し広げていくオープニング。前半で描かれるのは、剣を取る前の切なさや葛藤。戦いへと踏み出す覚悟が定まるまでの心揺れる時間をかげりを帯びたピアノのメロディに合わせて表現していく。
最初のジャンプ、4回転サルコーは4.43点もの加点がつく出来栄えで成功。壁を越える一手の4回転ループは手を付いたが、回転不足に留め、転倒は回避。
プログラムの世界観を保ちながら、続く4回転トーループも流れのあるランディング。ラストに向かって勢いが増していく、情熱と闘志をにじませる滑り。すべての音を一つひとつ拾いながら感情を丁寧に表現し、観る者を「グラディエーター」の世界観へと深く誘った。

剣闘士の生きざまを投影するように全身全霊で戦い抜いた4分間。演技後はすべてを出し切り氷上に突っ伏し、やり切った表情を浮かべリンクサイドへ。
得点は、またしても200点超えの201.93点。
暫定1位に立ち、表彰台が確定すると、両手を上げて喜びを表現。その隣で、二人三脚で歩んできた正和コーチが、これまでの道のりをかみしめるように涙を浮かべた。

総合得点は310.05点で、銀メダルを獲得。日本フィギュア界の最年少メダリストに輝いた。
北京の氷上で躍動した18歳が、日本フィギュアスケート史に新たな一頁を刻んだ瞬間だった。

オリンピックでの興奮冷めやらぬ中、フランス・モンペリエで開催された世界選手権へ。
ショートプログラムでは4回転サルコー、4回転-3回転の連続ジャンプを流れまで見事な美しい着氷で成功したものの、トリプルアクセルではこらえる着氷となり、105.69点で2位スタートを切った。
フリーでは、課題の4回転ループの他、トリプルアクセルが1回転半になるミスも出てしまい、191.91点。合計297.60点で、2年連続の銀メダルとなった。

悔しさが残るシーズン最終戦となったが、最後まで攻めの姿勢を貫いた達成感とともに、来季に向けての新たな一歩を踏み出す締めくくりとなった。
怪我で休養を余儀なくされた2022-2023シーズン

4月、フィギュアスケートの名門・中京大学に入学。前シーズン終盤には横浜から愛知県豊田市にある大学内の通年リンクへと練習拠点を移し、練習に集中できる環境を整えた。
北京オリンピック銀メダリストの肩書を携え、意気込み新たに臨んだシーズンだったが、7月末に左足を負傷。疲労骨折寸前の状態と診断され、ジャパンオープン、グランプリシリーズの欠場を余儀なくされた。
復帰戦は、12月の全日本選手権。3月の世界選手権以来、9か月ぶりの実戦となった。
演じるのは、ショート、フリーともに新しいプログラム。今シーズン一度も試合に出場できていない中で、新プログラムがどのような評価を受けるのかを確かめたいという思いもあり、出場を決断した。
しかし、痛めた左足はまだ完治には至っていない状態。当初正和コーチからは欠場を勧められる状況でもあったが、左足の状態を見極めた上で、今できる構成に絞って臨む道を共に選んだ。
ショートプログラムは、シェイリーン・ボーン氏振付の「Believer」。会場中が待ち望む中、最終滑走での登場となった。
得意とする4回転サルコーはクリーンに決めたものの、続く3回転フリップ‐3回転ループでは手をつき、トリプルアクセルは1回転半に。それでも、氷に吸い付くようななめらかなスケーティングと、内側から湧き上がる不屈の力強さを宿した音楽表現で会場を十分に魅了。演技後には、客席に向かって手を合わせた。
得点は81.39点。6位につけ、追い上げを期してフリーを迎えることとなった。
フリーは、ローリー・ニコル氏振付の「Rain, In Your Black Eyes」。 4回転サルコーは1本目で転倒に、2本目も着氷が乱れてコンビネーションにできなかった。それでもスピン、ステップは抜かりなくレベル4。ピアノのメロディにのせて情感豊かに滑り上げた。
結果は、156.44点、合計237.83点で8位となったが、今やるべきことが明確になった意義ある試合に。
その後は、年明けに予定していた冬季ワールドユニバーシティゲームズを欠場し、怪我の回復に専念。完治とレベルアップを誓い、来シーズンへ向けて再び歩き出した。
再出発の2023-2024シーズン
休養期間中は、自身のスケートや表現を見つめ直すとともに、栄養や睡眠の改善にも取り組み、基本に立ち返りながら完全復活への土台を整えた。
オフシーズンには、イタリア、アメリカに渡り、昨シーズンのプログラムをそれぞれ大幅にブラッシュアップ。特にイタリアでは約3週間の合宿を行い、ローリー・ニコル氏や、ニコル氏の長年の愛弟子であるイタリアを代表する名フィギュアスケーター、カロリーナ・コストナー氏らとともに、表現やスケーティングに一層の磨きをかけた。
慎重に調整を重ねたかいもあり、怪我の回復は順調に進み、心身ともに新たな状態で迎える2023-2024シーズンとなった。
さらに、合宿を経てコストナー氏が正式にコーチとして加わった。 ソチオリンピック銅メダリストで、欧州選手権5度の優勝経験を誇り、芸術性の高いスケーティングで知られてきたコストナー氏。正和コーチの指導のもと、積み重ねてきた質の高い技術に、コストナー氏の表現面の指導が加わり、鍵山選手は盤石の体制でミラノ・コルティナオリンピックを目指すこととなった。

約1年半ぶりとなる国際大会への復帰戦は、イタリアで開催されたチャレンジャーシリーズ・ロンバルディア杯。正和コーチ、コストナーコーチ帯同のもと、頂点に立ち、国内大会優勝を経てグランプリシリーズへ。
フランス大会は3位、NHK杯では優勝を果たし、グランプリファイナル進出を果たした。
2021年大会はパンデミックの影響で中止となったため、鍵山選手にとってはこれが初のグランプリファイナル。
ショートでプログラムは、4回転サルコー、4回転トーループからの連続ジャンプ、トリプルアクセルをいずれもクリーンに着氷。スピン、ステップはすべて最高評価のレベル4をそろえ、103.72点をマークした。
100点台が3人並ぶハイレベルな戦いの中、3位でスタートを切った。
表現にも注力するため、4回転ジャンプ2本の構成で挑んできたフリー。冒頭、武器としてきた4回転サルコーが2回転となってしまうも、ミスを引きずることなく、それ以降はすべて持ち前の質の高いジャンプを披露。表現面でも、後半に向かってたたみかけていくドラマティックな音楽を緩急をつけたスケーティングで丁寧に具現化してみせた。 得点はシーズンベストを更新する184.93点。総合288.65点で銅メダルを掴んだ。

グランプリファイナルが閉幕すると、いよいよ全日本選手権。
昨年は満身創痍で臨んだこの舞台。故障を乗り越え進化した姿を見せるべく、会場の長野・ビッグハットに降り立った。
全日本選手権特有の緊張感の中で迎えたショートプログラムは、1本目の4回転サルコーで転倒があり、93.94点で3位につけた。
フリー最終グループは、全員が限界突破の好演技を連発。暫定首位が次々に塗り替えられていく、後世まで語り継がれるだろう伝説の一戦となった。
前滑走者の会心の演技が積み重なり、極限まで熱気に満ちたリンクに登場した鍵山選手。「ここまで来たら、何も守るものはない」と、覚悟をにじませスタートポジションに。
張り詰めた空気の中、ショートプログラムでのミスを払拭するかのように、冒頭の4回転サルコーを鮮やかに着氷。その後のジャンプはすべて加点のつく高い完成度でまとめ、最後までしなやかさと力強さを両立した滑りを貫いた。
ラストは、強く打ち鳴らす鍵盤の音と呼応した渾身のフィニッシュ。高ぶりとともに拳を握りしめた。

得点を待つキス&クライでは「頑張った!」と充実の表情。得点は、198.16点で暫定1位に。フリーの得点は1位、総合では2位。翌年1月末の四大陸選手権、3月の世界選手権代表に選出された。

全日本選手権を経て、完全復活への歩みは次の段階へ。世界選手権を見据え、フリーの構成をブラッシュアップ。サルコー、トーループに加え、フリップを組み込み、3種類の4回転ジャンプで挑む構成へと引き上げた。
年明け早々のインカレで、早速4回転フリップに挑戦。回転が抜けたため決まらず、成功は四大陸選手権へ持ち越された。
四大陸選手権は、2020年にジュニアながら初めてISUチャンピオンシップスでメダルを獲得した思い出深い大会。それから4年、復活のシーズンに再びこの大会へと舞い戻った。
ショートプログラムでは、荒々しいロック調の音楽に合わせ、エネルギッシュに躍動。かと思えば、グルーヴに身を任すような気持ちいい抜け感も交え、貫禄のある滑りを披露した。すべてのジャンプを成功させ、勢いに乗るステップシークエンスでも存分に魅了し、気迫のこもったフィニッシュ。
得点はシーズンベストを更新する106.82点で、圧巻の首位に立った。
新構成で臨んだフリー。要となる4回転フリップはステップアウトになってしまったが、今回はしっかり締め切り、大きな収穫に。 それ以外のジャンプは難なく成功させ、大技にミスが出ても崩れない安定感、そして難度を上げながらも、芸術性が損なわれることのない総合力の高さを示した。
さらにプログラムのハイライト、観る者の心を揺さぶるステップシークエンスは、ショート同様に9人中6人のジャッジが満点の5を付けるなど、このシーズン、コストナーコーチと取り組んできた表現が、確かな形となって表れた。
得点はシーズンベストの200.76点。北京オリンピック以来の200点超えをマークし、合計は307.58点。シーズンの目標として掲げてきた300点の壁を越え、チャンピオンシップス初タイトルの栄誉を手にした。

復帰シーズンながら、これまで10もの試合を通して完全復活への道を辿ってきた鍵山選手。
そのラストを飾るのは、3回目の出場となる世界選手権。会場はカナダ・モントリオール。事前にトロントでプログラムのブラッシュアップと時差調整を図り、万全の態勢で大一番に挑んだ。
ノーミスが続いているショートプログラム。ジャンプを曲の一部としてシームレスに成功させ、疾走感あふれるスケーティングには情熱をたっぷり込めて「Believer」の揺るぎない世界観を全身で描き切った。迫力に満ちたフィニッシュを決めると、観客のスタンディングオベーションを一身に浴びながら喜びをにじませた。

出迎えたコーチとハグを交わし、得点を待つキス&クライ。結果は、自己ベストに迫る106.35点。すでに長年のチームを思わせる一体感の中、両サイドに座るコーチたちと、固い握手を交わした。

2位で迎えたフリー。
2シーズンを通して磨き上げてきた唯一無二の作品「Rain, In Your Black Eyes」の集大成を見せる時がやってきた。
注目の4回転フリップは、音楽の流れと一体化した極上のランディング。出来栄えで4.56点という高い評価を獲得し、この大舞台で公式戦初成功を刻む勝負強さを示した。
後半のトリプルアクセルで着氷後に転倒するミスはあったものの、観客の温かな声援と拍手を力に、滑りは後半に向かって勢いを増していった。
ミスがありながらも、シーズンベストの309.65点をマーク。世界選手権3つ目の銀メダルをつかみ取り、完全復活を印象づけた。

怪我から復帰1シーズン目で四大陸選手権制覇、世界選手権銀メダルと、当初予想していた以上の復活劇。
長く氷に乗れなかった時期から、一歩一歩慎重に技術を取り戻し、シーズン最終戦にピークを持ってこられたことに喜びを感じながらも、頂点に立つために越えるべき壁を再確認。
1点でも多く獲得するために何が必要か、2年後のオリンピックへ向けて冷静に課題を見つめ、休むことなく新シーズンのプログラムに着手した。
新しい時代をつくる2024-2025シーズン

幕を開けたオリンピックプレシーズン。
夏には、延期となっていた北京五輪団体戦のメダル授与式がパリ五輪で開催され、さらに2026年の冬季オリンピックの開催地イタリア・ミラノでの合宿に参加。
約1年半後に控えた大舞台への思いを強くし、新シーズンへと踏み出した。
新プログラムは、ショートプログラムがギターの哀愁漂う「The Sound of Silence」、フリーがフラメンコの「Ameksa」で、どちらもローリー・ニコル氏の振付。トップと戦っていくために、フリーは4回転ジャンプを1本増やし、3種類4本の高難度構成に。出場するすべての大会で300点超えという高い目標を課した。
初戦は、チャレンジャーシリーズながら世界選手権の金・銀メダリストが揃ったロンバルディア杯。初戦ということでジャンプのミスが出たが、その中でも総合291.54点と、伸びしろを感じる試合に。結果は2位で、続くグランプリシリーズへと歩を進めた。

初戦はNHK杯。練習から調子がよかったというショートプログラムでは、さっそくパーフェクトな演技を披露。得点はシーズンベストの105.70点で首位発進。
フリーは、1本目の4回転フリップで転倒するも、しっかり立て直し、他のジャンプはすべて着氷。得点は194.39点、総合300.09点で大会二連覇を達成。
目標とする300点超えは果たしたものの、ミスに対しては悔しさをにじませ、2戦目でのリベンジを誓った。

間を空けることなく、翌週にはフィンランド大会へ。
ショートプログラムは再びノーミスでまとめ、103.97点をマークして首位に立った。しかしフリーでは、4回転フリップが2回転となる珍しいミスが出ると、普段なら軽やかに決めているジャンプにも乱れが生じ、思うように流れをつかめない展開に。動揺し心が折れそうになりながらも、客席からの手拍子に背中を押され、最後までフラメンコの世界を演じきった。
4本のジャンプミスが響き、得点は159.12点で、合計は263.09点。ショートプログラムで築いた大きなリードを活かし金メダルを獲得したものの、悔しさから表情は晴れなかった。
気持ちの切り替えが難しい中で行われた優勝インタビュー。
「最終滑走として恥じるような演技をしてしまって、皆さんにも自分自身にも申し訳ない気持ち」と語ると、思わず視線を落とした鍵山選手。
しかしその言葉が会場に通訳されると、フィンランドのファンからはすぐさま大きな声援と温かい拍手が送られた。
それを受け、少し柔らかな表情を取り戻すと、「みなさまのご声援が僕のフリーを助けてくださった」と、すべての観客に心からの感謝の気持ちを述べた。

2戦優勝で、グランプリファイナルに進出。 前戦の苦い経験を経て、まずは自分との勝負に勝つことを掲げ、フランス・グルノーブルに降り立った。
ショートプログラムでは、4回転サルコーで転倒があり、93.49点で2位発進。
緊張感を背負って迎えたフリーでは、冒頭の4回転フリップをついにシーズン初成功。しかし、続く4回転サルコーが2回転に。持ち前のスピン、ステップでも最高のレベル4を獲得ならず、本来の力を十分に発揮できない内容に。得点は188.29点となったが、攻めの姿勢でフリーは1位。合計では281.78点で、自己最高の銀メダルを獲得した。

7度目となる全日本選手権が開幕。
宇野昌磨さんの現役引退により、誰が勝っても初優勝の歴史の節目となる大会。
これまでの最高位は銀メダル。新王者に名乗りを上げるべく、超ハイレベルな国内選手権に乗り込んだ。

ショートプログラムでは、4回転ジャンプ2本を決めるが、惜しくも最後のトリプルアクセルで転倒してしまい、92.05点。演技構成点で得点を稼ぎ、首位で折り返した。

優勝への並々ならぬ思いを抱え、リンクに降り立ったフリー。
鍵を握る4回転フリップを4.71点の加点がつく出来栄えで成功させ勢いに乗ると、残る前半のジャンプもすべてパーフェクトに着氷。
後半のジャンプ2本でやや着氷が乱れるも、そこから先は芸術家・鍵山選手の真骨頂。体から音楽が鳴っているかのような迫力あるステップワークで、フラメンコのリズムを表現。観客を情熱の渦に巻き込むようにクライマックスへとなだれ込み、最後は氷上へ魂を叩きつけるようにフィニッシュ。力の限りを尽くし、演技後にはリンクに大の字になって倒れ込んだ。

観客の拍手に包まれた鍵山選手をリンクサイドで一番に出迎えたのは、他でもない正和コーチだった。感極まった表情で固い握手を交わし、コストナーコーチと3人並んで得点を待つ。
得点は205.68点で、本人も驚きのハイスコア。総合得点297.73点で、悲願の王座戴冠。
幸せいっぱいの笑顔で客席に感謝を伝える鍵山選手。その姿をそばで見守る正和コーチの目には静かな涙が浮かんでいた。
時代の節目といわれた大会は、親子二代で全日本王者に名を連ねるという、鍵山家の歴史に確かに刻まれる大切な一戦となった。

自分との勝負に打ち勝ち、名実ともにエースとなった鍵山選手。その先に見据えるのは、世界の頂だ。
全日本選手権を終えると、シーズン後半戦を見据え、早々にプログラムのブラッシュアップに着手。さらにフリーには、新たな挑戦として4回転ルッツを組み込むことを決意した。

年明けは、冬季ワールドユニバーシティゲームズ、アジア冬季競技大会と、大きな大会に立て続けに出場。
大技・4回転ルッツを投入した新構成で挑んだが、惜しくも成功には至らず。しかし、挑戦したからこそ見えたものがあった。
3月の世界選手権は、ミラノ・コルティナ五輪の出場枠がかかる重要な一戦。そのため、4回転ジャンプはサルコー、トーループ、フリップの3種類4本とし、“質”で勝負する決意を固めた。


シーズン最大のクライマックス、世界選手権がアメリカ・ボストンで開幕。翌年の五輪の代表枠数が決まる今大会。例年以上の緊張と熱をはらんだ、特別な舞台が幕を開けた。
開催国アメリカの観衆を沸かせたイリア・マリニン選手の演技の余韻が残るリンクに、最終滑走で登場したショートプログラム。
リンクを包む静寂を支配するように、次々とジャンプを決めていく。4回転サルコーでは軸がわずかに斜めになるも、降り切るという意志がはっきりと伝わるクリーンな着氷。
ジャンプをすべてそろえると、客席からは大歓声。大会に向け一部音源を変更したステップシークエンスは、より力強さを増し、ボストンの観客の心を一気に掴んで離さなかった。
ラストのスピンから拍手は鳴りやまず、プログラムに込めた情熱そのままにフィニッシュ。昂ぶる感情のまま両拳を振り下ろしガッツポーズを決めた。
スタンディングオベーションを浴びながら、うれしさを隠しきれないという表情でキス&クライへ。シーズンベストの107.09点が出ると、輝く笑顔を見せ、コーチ陣と喜びを分かち合った。
首位との得点差3.32点を追いかけるフリー。
覚悟を決めた顔つきでスタートポジションに立った。
注目の4回転フリップが2回転となり、続く得意の4回転サルコーもステップアウトとミスが続いてしまう。一度立て直すも、後半の4回転トーループで転倒してしまい、会場からは、背中を押すような大きな拍手と声援が沸き起こる。
挑み続ける姿を熱く見守り続けた会場の応援を背に、感情をほとばしらせるステップワークを披露。フラメンコのリズムに合わせて足を踏み鳴らし、最後まで消えることのない情熱を、一番上の客席まで届け続けた。
大会4度目の出場。チームジャパンをけん引する立場で臨んだ世界選手権だった。オリンピック出場枠が懸かる重圧は想像以上に大きく、フリーでは本来の力を十分に発揮しきれず、得点は171.10点。合計278.19点で暫定2位。
順位が表示されると、鍵山選手が真っ先に確認したのは自身の結果よりも、日本の出場枠。佐藤駿選手との合計順位により、最大の3枠確保を確認した瞬間、安堵で顔を覆った。
ショートプログラムで築いた大きなアドバンテージを生かし、結果は3位で銅メダル。初出場以来、4大会連続で表彰台に上がる快挙となった。
悔しさを抱えながらも結果を受け止め、シーズン最終戦となる国別対抗戦へと向かった。
男女シングル、ペア、アイスダンスの全4カテゴリーで各国の総合力を競う国別対抗戦が開幕。世界ランキング上位6か国のみが出場し、ミラノ・コルティナオリンピックの団体戦を見据える上でも、重要な試金石となる大会だ。
世界選手権を戦い抜いた選手たちが集い、各国の応援合戦も相まって、シーズン最後の祭典のような華やかな雰囲気に包まれる一方で、鍵山選手はこの舞台を大事な勝負の場と捉えた。ショートプログラムに基礎点の高い4回転フリップを組み込み、高難度の構成で真っ向勝負に臨んだのだ。
今季いかなる局面で進化を求め、挑み続けてきた鍵山選手。その矜持が最後まで貫き通された、来季につながる一戦だった。
フリーでは、疲労の蓄積もあったのか、4回転ジャンプで精彩を欠く内容に。観客一人ひとりと目を合わせながら、プログラムを届けようとする姿は多くの人の心に深く刻まれた。 滑りで増幅させたエネルギーや感情を観客にまっすぐに伝えることができる力。それこそが鍵山選手というスケーターの神髄であり、イタリア・ミラノのリンクでも唯一無二の力になるはずだ。
2度目の五輪へ! 2025-2026シーズン

ついに幕を開けた、自身2度目のオリンピックシーズン。
「Step by Step」をテーマに掲げ、来る大舞台に向けて着実な成長を積み重ねてきた。最初から高難度構成で勝負に出るのではなく、まずはプログラムの完成度を最優先。
その結果、出来栄え点や演技構成点で安定して高い評価を得るなど、戦略は確かな手応えを見せている。
12月。世界の強豪6人が一堂に会する、オリンピック前最後の大舞台・グランプリファイナル。ショートプログラムでは会心の演技を披露し、ついに北京オリンピックで記録した自己ベストを更新。
長く立ちはだかっていた「越えるべき壁」を、自らの手で乗り越えた瞬間だった。
2連覇を達成したものの、本来の演技を披露できず涙した全日本選手権を経て、物語は次の舞台へ。
その先に待つのは、イタリア・ミラノ。仲間との約束の地で迎えるオリンピックの時が、静かに近づいている。
2025-2026シーズンの新プログラム
SP:I Wish
FS:トゥーランドット:クリストファー・ティン版フィナーレ(コンサート組曲)
EX:frostline
原点に立ち返り、スケートを心の底から楽しむという感覚に、改めて焦点を当てるオリンピックシーズン。その思いを軸に用意された新しいプログラムは、いずれも彼自身のパーソナリティが色濃く刻まれたものだ。
ショートプログラムは、2021年ショパン・コンクールセミファイナリストで、欧州含む国内外で注目を集めるピアニスト角野隼斗氏と、ポーランド出身の若き天才ギタリスト、Marcin(マーシン)氏による、スティーヴィー・ワンダーの名曲カバー。自分らしさの出るジャズナンバーで、ショートプログラムの自己ベスト更新を狙う。
フリーは、グラミー賞受賞歴をもつ作曲家クリストファー・ティン氏が、新たなエンディングを書き下ろした新解釈の「トゥーランドット」。それをもとに、ティン氏が鍵山選手のためだけに編曲した特別な4分間だ。
両振付は、2020年からタッグを組むローリー・ニコル氏。プログラムを通して磨き上げてきた卓越した滑り、足元から立ち上る表現力、世界観に引き込む表情にも注目したい。

ショートプログラムは、スティーヴィー・ワンダーの名曲「I Wish」。使用するのは、ピアニスト角野隼斗氏と、ギタリストMarcin氏の多彩なアレンジが光るバージョンだ。
自身も選曲理由の一つとして語るように、軽快なジャズナンバーとの相性のよさは、北京オリンピックシーズンのショートプログラム「When You’re smiling」ですでに証明済み。勝負のシーズンだからこそ、自分のよさが生きるプログラムを選び、得意なジャンルの中でさらなる成長を目指したいという姿勢がうかがえる。
あごに手を添え、不敵な笑みとともに幕を開けるオープニング。 華麗なコンビネーションジャンプで一気に観客を惹きつけると、客席にもしっかりと目線を送り、観客とのコネクトを楽しみながらマイステージへと誘っていく。
氷上のスポットライトのもと、ステップシークエンスではダンサブルなムーブメントを披露。ピアノとギターの超絶技巧に極上のスケーティングが溶け合う、ジャズセッションのようなひととき。会場を包む高揚感とともに、余裕をにじませる指先で、クールにフィニッシュ。
滑ることを心から楽しみながらも、大胆さと小粋な抜け感を漂わせる緩急の使い分け。「When You’re smiling」から時を経て、少年から青年へと成長した姿が垣間見えるプログラムに仕上がっている。

オリンピックシーズンを飾るフリーは、イタリアを代表するオペラ作曲家プッチーニの「トゥーランドット」。
トリノオリンピックで荒川静香さんが、平昌オリンピックで宇野昌磨さんが滑り、それぞれ金メダル、銀メダルを獲得した、日本フィギュアスケート界にとって深い結びつきをもつ楽曲である。
1926年イタリア・ミラノで初演を迎えたこの作品にとって、2026年は100周年の節目。その記念すべき年にミラノで開催される五輪でこの曲を滑るという、どこか運命的な巡り合わせが実現した。
多くのスケーターが憧れ、滑ってきた王道ともいえるプログラムだが、鍵山選手が紡ぐのは、自分にしかできない「トゥーランドット」の世界。
というのも、この作品はプッチーニの逝去により未完に終わっており、現在広く演奏されているエンディングは、指揮者フランコ・アルファーノによって補筆されたもの。
しかし近年、作曲家クリストファー・ティン氏の手によって、新たなフィナーレが誕生。振付師ローリー・ニコル氏の目に留まり、カロリーナコーチがティン氏にコンタクト。その結果、フリーの演技時間に合わせてティン氏自らが編曲し、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団、イングリッシュ・ナショナル・オペラを集め収録するという、史上稀に見るスケールで作られた特別な「トゥーランドット」が誕生。
開演を告げるホルンの音色。舞台の壮麗な幕開けを飾るように中央へと躍り出る、軽やかで明るいオープニング。音楽の圧倒的パワーを伸びやかなジャンプで一層押し広げながら、気品と風格ある滑りでプログラムに新しい息吹を吹き込んでいく。
物語が大きく動く、姫が愛に目覚めるシーンでは、美しいスプレッドイーグルで歓喜の瞬間を表現。
栄光のフィナーレへと向かうコレオシークエンスを彩るのは、あの象徴的な「誰も寝てはならぬ」の旋律。喜びを全身で表現するかのような雄大なイナバウアーが会場を幸福感で満たし、氷上に新たな夜明けを呼び込む。
揺らぐことのないスケートへのまっすぐな“愛”と献身、挑戦への熱望に満ちたその情熱的な滑りは、トゥーランドット姫のみならず、イタリアの観客の心を大きく動かすことだろう。

エキシビションナンバーは、角野氏が鍵山選手のために書き下ろしたオリジナル楽曲「frostline」。本人の希望により作曲を依頼された角野氏が、実際に鍵山選手が練習するスケートリンクに足を運び、そこから得たインスピレーションをもとに制作したものだ。
テーマは、鍵山選手の強みでもある“速さ”。疾走感をもって踊るように連なるピアノの音色が氷の結晶となって軽やかにはじけていく、氷上に鮮やかな情景を描き出す一曲だ。 振付は、イタリア出身で、元世界女王の経歴をもつカロリーナ・コストナーコーチ。三者の感性が交差して生まれた、ドラマティックなエキシビションナンバーは、ミラノの銀盤で一層きらめきを放つだろう。
これまでのプログラム
2024-2025シーズンのプログラム
SP:The Sound of Silence
FS:Ameksa、Romanza
EX:Skydance (feat. Mariann Pleszkan) 、Resolve
ショートプログラムとフリーはいずれもローリー・ニコル氏振付で、成熟した大人の表現力が楽しめる挑戦的プログラム。
鍵山選手の神髄である静謐なエッジワークを活かすべく用意された「The Sound of Silence」。孤独な静寂の中にいる前半と、ボーカルとともに熱量を増していく後半への鮮やかなコントラストが観る者を惹きつける。端正な滑りの奥底に秘められた情熱が力強く溢れ出す名プログラム。
初めてフラメンコという新境地に挑んだフリープログラム「Amekusa」。
正確な4回転ジャンプで哀愁漂うメロディに深みを与えていく前半パート。
圧巻は、息をもつかせぬ怒濤の後半。世界に誇るステップワークがスパニッシュなリズムを激しく刻み、指先の細部にまで神経を注いだ繊細な所作が、観る者を熱狂の渦へと引き込んでいく。静と動が交錯する中で描かれる、一つひとつの美しいポージングにも酔いしれたい。

エキシビションの振付を担当したのは、韓国の名振付師で、近年日本人スケーターの間でも存在感を高め、印象的なプログラムを次々と生み出しているシン・イェジ氏。
夜明け前の空が動き出す瞬間のような、静かな胎動を感じさせるプログラム。
空へと舞い上がるような浮遊感のある滑りはどこか神秘的で、瑞々しいエネルギーに満ちている。
リンク全体を光のベールで包み込むような、神聖な時間。随所に配されたポージングの美しさも、強く印象に残る。
2023-2024シーズンのプログラム
SP:「Believer」
FS:「Rain, In Your Black Eyes」
EX:「Werther」
二人の世界的振付師のもと、前シーズンのプログラムを継続してブラッシュアップ。
イタリア合宿で現地の芸術や文化に直接触れた経験が感性を大きく刺激し、スケーターとしての表現にいっそうの幅と深みをもたらした。
名振付師シェイ=リーン・ボーン氏との初タッグで挑むのは、「Believer」。若さと疾走感の最大風速で駆け抜けるエネルギッシュなロックナンバーだ。
世界的人気を誇るイマジン・ドラゴンズ。この曲の根底に流れるのは「不屈」の精神。
力強く、メッセージ性の強い旋律は、怪我を乗り越え再び歩み出した再出発のシーズンと呼応する。
普段の端正で気品ある滑りから一変、己の殻を打ち破るような荒々しくパワフルな表現は、鍵山優真の新たな可能性を強烈に印象づけている。
新振付師のもと、初めて出合う「新しい自分」で、鮮烈なカムバックを遂げる。
フリーは、「Rain, In Your Black Eyes」。
静かに降り注ぐ雨が、次第に激しさを増し、切れ味鋭いスケーティングとともに、怒涛の感情を連れてくる情感豊かなナンバー。
プログラムと地続きで、着氷までノーブルなジャンプは、まるで物語の中で生きているよう。
圧巻は、嵐の中を駆け回るようなステップシークエンス。狂おしいほどの焦燥感を背負って氷上を駆け回る姿は、どこまでも観る者の胸に迫ってくる。
一分の隙もないほど緻密なスケーティング。しかし不思議なことに、その精巧さが極まるほどに観る者の涙腺を刺激する引力がある。研ぎ澄まされた技術と芸術性。その二つが高い次元で融合した、結晶のようなプログラム。

エキシビションナンバーは、ゲーテの小説『若きウェルテルの悩み』を題材とするオペラ『Werther(ウェルテル)』。
実際にこの現地でオペラを鑑賞し、そこで感じ取ったものを、ローリー・ニコル氏、カロリーナ・コストナー氏らとともに振付に落とし込んだ。
空気をはらんだ柔らかな滑りで、苦悩する若者の内面を繊細に描き出している。
連綿と受け継がれてきたクラシカルなスケート技術を堪能できる、珠玉のエキシビションナンバーだ。
2022-2023シーズンのプログラム
SP:「Believer」
FS:「Rain, In Your Black Eyes」
※2023-2024シーズン参照
2021-2022シーズンのプログラム
SP: When You’re Smiling
FS:『グラディエーター』より
両プログラムとも、シニアでの飛躍を後押ししたニコル氏の振付で挑む勝負のシーズン。
ショートは、引き続き暗いニュースが後を絶たない今の世で、“笑顔が広がるように”とニコル氏が選曲したもの。
大人っぽいジャズナンバーで、はにかむ笑顔に、観客も自然と笑顔になってしまう多幸感のあるプログラム。
フリーには、新たな4回転ジャンプ・4回転ループを投入。
テーマとなる映画『グラディエーター』は、皇帝暗殺の濡れ衣を着せられ、反逆罪に問われた元ローマ軍将軍が、今度は剣闘士として復讐のために戦う姿を描いた超大作。
力強さの中に、家族を失った悲しみ、戦い続けることのやるせなさなど、複雑な感情が込められており、表現の面でも進化した姿を見ることができる。
壮大な音楽とともにラストに向かうパートでは、祈りにも似た、魂が浄化されるような極上の滑りを披露。
氷に映える、ブラックにゴールドが輝く衣装は剣闘士をイメージしたもので、北京のリンクで躍動する姿を楽しみに待ちたい。
2020-2021シーズンのプログラム
SP:「Vocussion」
FS:「Lord Of The Rings」→『アバター』より
2020-2021シーズンも長年タッグを組む佐藤操コーチ振付のプログラムを予定していたが、”シニアデビューのシーズンを飛躍の年にしてもらいたい”という佐藤コーチからの提案を受け、急遽プログラムを変更。浅田真央さんのプログラムでもおなじみの世界的な振付師のニコル氏がオンラインでショートプログラムを振り付けた。
ショート「Vocussion」のテーマはシルクロード。新たな出会いや困難に直面しながら旅を通して経験を積んでいくさまが、シニアに挑戦し新たな世界に飛び出していく姿とリンクするプログラムとのこと。 パーカッションの音に合わせて複雑なリズムを刻むアップテンポの曲で、踊り心を持ち合わせた鍵山選手にぴったりのプログラム。
自身で決めたというフリーは、ミュージカル版の『ロード・オブ・ザ・リング』で、振り付けは佐藤コーチ。ストーリー仕立てになっており、平和への願いを込めて情感たっぷりに滑り上げる。中盤の剣を振り回すようなステップも見どころ。
関東選手権終了後、急遽フリーをショートと同じくニコル氏振付の映画『アバター』に変更。キャラクターではなく、世界観を表現したいという思いから、舞台となる密林をイメージした深いグリーンの衣装で登場。
2019-2020シーズンのプログラム
SP: 『砂の器』より「ピアノ協奏曲 宿命」
FS: 映画『タッカー』より
ショート、フリーともに振付は、以前からタッグを組む佐藤操コーチ。
ショートは「ピアノ協奏曲 宿命」。これまでリズミカルな曲が多かった鍵山選手にとっては新境地となるプログラムだが、持ち前の表現力で物語を重厚に滑り上げる演技が期待される。
フリーは自身も好きだと語る、ジャズの調べが小気味良い『タッカー』。軽快なリズムに合わせて楽しそうに踊る姿が印象的な、躍動感のあるプログラム。
Profile

Staff Credit
写真/アフロ 文/轟木愛美

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