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No.210 くらげ
『メルカトルかく語りき』麻耶雄嵩【ネタバレなし感想】【夏は読書】
2024.08.31
夏だ! 時間がたくさん! そうだ、本を読もう。そういうわけで、長らく私的オールタイムベストに君臨する麻耶雄嵩『メルカトルかく語りき』を紹介します。
麻耶雄嵩『メルカトルかく語りき』
傲岸不遜、超人的推理でシルクハットにタキシードの銘探偵メルカトル鮎と腐れ縁の相棒で作家の美袋がさまざまな事件に遭遇する短編集。現在『メルカトルと美袋のための殺人』、『メルカトル悪人狩り』の三作が刊行されています。『メルカトルかく語りき』は二作目の短編集。「死人を起こす」「九州旅行」「収束」「答えのない絵本」「密室荘」の五篇を収録しています。
『メルカトルかく語りき』感想
一言で言うと、この作品はいわゆる「問題作」だと思います。クラシカルな服装で超人的推理の探偵と作家の助手という組み合わせは一見正統派な展開を期待させますが、彼らが導く解決は滅茶苦茶です。もう滅茶苦茶です。
そんな破天荒な短編集のどこが面白いのか。それはもう「なんだこれ?!」と叫びたくなるような滅茶苦茶加減だと思います。
短編五篇の解決はどんなに荒唐無稽な解決でも、唐突に提示されるわけではなく、他のミステリと同じく、作中に散りばめられた手がかりを元にした論理的な推理を経て読者に提示されます。
加えて、探偵役メルカトル鮎のキャラクター性です。作者はメルカトル鮎について「どういうわけかメルカトルは不可謬ですので、彼の解決も当然無謬です。」と述べています。つまり、メルカトルの下す解決に間違いが無いことが著者のことばによって、作品の外側から保証されていると言えます。
滅茶苦茶な解決は、あくまでミステリらしい推理を経て導かれる。そして、その正当性はメルカトル鮎が探偵役を務めることによって、作品の外側から担保される。そういうわけで、読者はどんなに理不尽な解決を突きつけられたとしても、その滅茶苦茶さを受け入れざるを得なくなってしまいます。さらに、解決の滅茶苦茶さは無秩序というわけではなく、ある一定の方向を向いている点は短編集ならではの楽しいポイントです。
公式サイト→https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000206504
最後に、中でも気に入ってる二篇を紹介します。
『収束』
依頼を受け、メルカトル鮎と美袋はのちに連続射殺事件が起きたことで世間を騒がせる洋館〈岩谷荘〉が建つ島を訪れる。メルカトルが島を訪れた次の日、メルカトルの依頼人の小針が射殺体として発見された。
まるで倒叙のような冒頭から始まる短編。独特な結論の面白さはもちろん、結末はメルカトルと美袋らしい。『メルカトルかく語りき』のなかで一番読みやすい。シリーズを読んだことがない人にもおすすめしたい一作。
『答えのない絵本』
メフィスト学園で起こった教師殺人事件にメルカトル鮎が挑む。容疑者はメフィスト学園の一年生二十人。
なんと容疑者二十人。容疑者二十人の状態から行われる消去法推理は圧巻。短編集全体の中で(作者の言葉を借りるなら)一番毒が強く、短編集全体の趣向が如実に顕れている一作。
おすすめの本
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出身地
東京都
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身長
159cm
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学年
大学2年生
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推し
推し:コスメ集め(主にネイル!)、文章を書くこと、小説(ミステリ!)、ピアノ、ゲーム、FAKE TYPE.