この日最も熱く燃えた場所。さいたまスーパーアリーナでの世界選手権
その後治療のため、グランプリファイナル、全日本選手権出場を断念。
復帰戦の舞台は、5年ぶりの日本開催となる世界選手権となった。
3月21日春分の日、気温は23℃近くまで上がり、東京ではその日桜が開花。うららかな春の陽気のなか、男子ショートプログラムが行われた。
会場のさいたまスーパーアリーナには大勢の人が詰めかけ、場内は汗ばむほどの熱気だった。
前日までの公式練習では笑顔を見せ、調子のよさをうかがわせた羽生選手だったが、冒頭の4回転サルコーがまさかの2回転となり、規定により0点となってしまう。その後のジャンプはすべて成功させ、演技構成点では高い得点を記録したものの、3位発進となってしまう。
2連覇を狙う首位ネイサン・チェン選手との点差は、12.53点。
勝負を決めるフリーでは、今世紀最大の白熱した戦いが繰り広げられた。
逆転を狙う羽生選手は、吹き荒れる風の音を合図に演技をスタートさせると、冒頭4回転ループを完璧に着氷。4回転サルコーで減点があったが、その他のジャンプはすべて加点がつく出来栄え。
世界選手権に向け、痛み止めを飲みながら練習に励んだ日々。魂を削るような鬼気迫るステップは、羽生選手の生き方そのものを見ているかのようだった。どんな時でもひたすらに勝利を追い求める、勇猛果敢な姿。観客は手拍子で後押しし、最後のジャンプが決まると、地割れのような歓声が鳴り響いた。クライマックスに向かうコレオシークエンスに、超満員の客席からは惜しみない拍手が送られる。最後は爆発的なエネルギーをのせ、手を天に高く突き上げフィニッシュ。力強いガッツポーズが飛び出し、アリーナは歓声で揺れた。得点は300.97点。4か月ぶりの実戦で、世界最高得点を塗り替えた。
興奮覚めやらぬなか、リンクに姿を現したのは、首位のチェン選手。冒頭の4回転ルッツで、4.76点の加点を得るなど、高難度ジャンプを次々と決める圧巻の演技を披露。総合得点は、驚異の323.42点。先ほどの更新されたばかりの世界最高得点を上回り、大会2連覇を飾った。
数分間の間に2度も世界最高記録が更新されるという、世界最高峰の演技の応酬に、さいたまスーパーアリーナは熱狂に包まれた。
金メダルに惜しくも届かなかったものの、チェン選手との激闘を終え、「楽しかった」と息を弾ませながら語った羽生選手。互いにリスペクトし、高め合う存在である二人。五輪2連覇以降、目の前に現れた“超えなければいけないもの”の存在に、胸を高鳴らせるファイターの姿がそこにはあった。