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【羽生結弦】フィギュアスケート史に燦然と輝く栄光の軌跡|2010~2021年の試合をプレイバック【フィギュアスケート男子】

羽生結弦。
数々の偉業を
達成しても尚、圧倒的な進化を続け、人類初の大技に挑もうとするスケーター。
どんな困難においても自分を貫き、最後には必ず「勝つ」スケーター。
常に人に感謝し、その何倍もの勇気と希望を世界に届けてくれるスケーター。

シニアデビュー以降、その歴史に燦然と輝く黄金色の瞬間と、後世まで語り継がれるべきいくつもの感動の演技を振り返る。

  2010-2011シーズン

鮮烈なシニアデビュー、4回転ジャンプを成功

SP:「ホワイト・レジェンド」バレエ音楽『白鳥の湖』より 

FS:「ツィゴイネルワイゼン」

2014年フィギュアスケート全日本選手権でSP「ホワイト・レジェンド」を演技する羽生結弦選手
2010年グランプリシリーズ NHK杯

前季の2009-2010シーズン、当時の最年少記録である14歳でジュニアグランプリファイナル優勝を飾ると、ジュニア最高峰の大会・世界ジュニア選手権も制し、満を持してシニアクラスに移行。


シニアデビュー戦で、4回転成功

デビュー戦となったグランプリシリーズNHK杯。
フリーで自身初となる4回転ジャンプ・4回転トーループに成功し、その結果
4位と大健闘。

続くロステレコム杯では、
ショートで自己ベストを更新したものの、フリーで得点を伸ばせず総合7位に。「強くなりたい」と悔しさをにじませた。

2010年フィギュアスケートグランプリシリーズNHK杯で「ツィゴイネルワイゼン」を演技する羽生結弦選手
2010年グランプリシリーズ NHK杯

四大陸選手権で史上最年少のメダリストに

その後全日本選手権4位となり、四大陸選手権の代表に選出。4回転トーループを着氷させ、初出場にして2位。記念すべきシニア初の表彰台に上った。
世界選手権に次ぐ権威のある大会・四大陸選手権で、
史上最年少のメダリストという華々しい成績をもって、シニア1年目のシーズンを終えた。


東日本大震災

3月11日。

翌シーズンに向け、仙台のホームリンクで練習の日々を送っていた羽生選手を未曾有の大震災が襲う。リンクは閉鎖され、自宅も被害を受けたことで避難所での生活を余儀なくされた。
その後、全国を転々としながら、60公演ものチャリティーショーに精力的に出演。一時スケートを続けていくことについて葛藤もあったが、観客からの温かい声援が、再び前へと進み出すための力になった。

  2011-2012シーズン

伝説の始まり。世界選手権初出場で日本最年少メダリストに

SP:「悲愴」 

FS:映画『ロミオ+ジュリエット』より

2011年フィギュアスケートグランプリシリーズ中国大会で「悲愴」を演技する羽生結弦選手
2011年グランプリシリーズ 中国大会

世界選手権出場を目標とした、シニア2年目のシーズンがスタート。

グランプリファイナル初出場

グランプリシリーズ1戦目の中国杯でのショートで、早くも4回転トーループに成功。翌日のフリーでも成功させたものの、後半のジャンプにミスが出て結果は4位に。

グランプリシリーズ全6戦のポイント上位6名が出場できるグランプリファイナル。1戦目で4位の羽生選手が出場するには、次のロステレコム杯で優勝あるのみ。
これまでグランプリシリーズでの最高順位は4位。表彰台の中央に立つためには、それまでの自分を大きく超える演技が必要だった。


迎えたロステレコム杯。ショートでスピン、ステップで最高評価のレベル4を揃え2位発進。フリーでもジャンプのミスを引きずらず最後まで滑りきり、2位の選手とわずか0.03点差で逆転優勝。グランプリ
シリーズ初の金メダルを手にし、初のファイナル出場を決めた。


グランプリファイナルのフリーでは、ラストの3回転サルコー以外すべてのジャンプを成功させる好演技。表彰台に
僅差で届かず4位となるも、自己ベストを更新し、着実な成長を見せた。


全日本選手権初の表彰台。世界選手権代表に

12月の全日本選手権。ショートではジャンプのミスがあり4位と出遅れるも、翌日のフリーでは気持ちを切り替え、気迫あふれる演技を披露。フリーで1位のスコアを出し、結果は総合3位。4回目の出場にして、ついに層の厚い日本男子フィギュアスケーターのトップ3の牙城へと切り込み、念願の世界選手権への切符を手に入れた。

そして3月、フランス・ニースで開催された世界選手権で、後に伝説として語り継がれる歴史的な演技を披露する。

2012年世界フィギュアスケート選手権で、「ロミオ+ジュリエット」を披露する羽生結弦選手
2012年世界選手権

衝撃の4分30秒、世界選手権で伝説のロミオ誕生

初めての世界選手権は、右足に負った捻挫の影響からかジャンプにミスがあり、ショート7位からのスタートとなった

3位に8.65点差で迎えたフリー『ロミオとジュリエット』は、試合を重ねる度に自己ベストを更新してきた珠玉のプログラム。

鋭い眼光を湛え、真っすぐに前を見つめる。張り詰めた表情からはこれからなにかとんでもないことが起こることを予感させた。

冒頭の4回転ジャンプを華麗に決めると、その勢いのまま3つのジャンプを成功。途中思わぬところで転倒してしまうというアクシデントに、客席からは一瞬悲鳴が漏れるも、すぐに拍手が起こり、若き背中を後押しした。

その直後、
まるで先ほどのミスなどなかったかのように、鮮やかにジャンプを決めてみせ、会場からは大きな歓声が上がる。


そしてプログラムはいよいよ
クライマックスに差し掛かる。
魂の雄叫びとともに、ジュリエットを失ったロミオの慟哭する様を全身全霊で表現。その体から迸るエネルギーたるや、ニースのリンクを燃やし尽くしてしまいそうなほどだった。

その後、グランプリファイナル、全日本選手権とミスが続いていたラストのジャンプも無事成功させ、圧巻のフィニッシュ。

永遠のような一瞬の静寂の後、会場からは割れんばかりの歓声が湧き起こった。

世界を震撼させた演技はフリー
2位、技術点だけなら1位という高得点をたたき出し、総合3位に。日本男子として世界選手権では17歳3か月という最年少メダリストの誕生だった。

  2012-2013シーズン

ブライアン・オーサーコーチに師事、全日本選手権初優勝

SP:「パリの散歩道」

FS:「ノートルダム・ド・パリ」

2012年グランプリファイナルで「パリの散歩道」を披露する羽生結弦選手
2012年グランプリファイナル

オリンピックプレシーズンとなった2012-2013シーズン。
さらなる高みを目指すべく、慣れ親しんだ仙台を離れ、拠点をカナダに移すことを決意。ブライアン・オーサーコーチ率いる名門・クリケットクラブで、スケーティングの基礎から磨く日々がスタートした。


本格的にシーズンが幕を開けると、その成果が早くも形となって表れた。
初戦のフィンランディア杯でのフリーで、新たに取り入れた4回転サルコー
に成功し、見事優勝。グランプリシリーズのスケートアメリカ、NHK杯ではショートで2大会連続世界最高得点を更新。

オリンピックの会場となるロシア・ソチで開かれたグランプリファイナルでは
2位に入り、大会初のメダル獲得。

札幌で開かれた全日本選手権では、ショートで国際スケート連盟(ISU)非公式ながら自身のもつ世界最高得点を更新し、ついにナショナルチャンピオンに輝いた。

2013年世界フィギュアスケート選手権で「ノートルダム・ド・パリ」を披露する羽生結弦選手
2013年世界選手権

満身創痍の世界選手権。オリンピック出場3枠を死守

四大陸選手権を2位で終え、世界選手権に向けて意気込みを新たにしたのもつかの間。インフルエンザにかかり練習がままならなかったばかりか、左足を痛め、不安を抱えながら大会に挑むこととなった。

2012-2013シーズン調子のよかったショートだったが、完治していないケガの影響か、ジャンプのミスがあり9位発進。オリンピックの国別出場枠最大「3」をつかむには、上位2名の順位合計13以内が条件。髙橋大輔選手が4位に入り、ショートの時点での順位合計はギリギリの13。18歳のナショナルチャンピオンの肩に、かつてない重圧がのしかかった。

大きなプレッシャーを胸に迎えたフリー。
ショートでミスをした4回転トーループを決めると、バランスを崩す場面がありながらも
渾身の力で滑りきり、総合4位と大健闘。正念場で日本男子のエースとしての意地を見せ、髙橋選手とともに、出場枠「3」を死守した。

  2013-2014シーズン

オリンピック日本男子シングル初の金メダリスト誕生

SP:「パリの散歩道」 

FS:映画『ロミオとジュリエット』より

2014年ソチオリンピックで金メダルを獲得した羽生結弦選手
2014年ソチオリンピック

オリンピックを戦う2つのプログラム

勝負のシーズンに選んだフリーは、『ロミオとジュリエット』。

2シーズン前、震災後の苦難をともに乗り越え、世界選手権で初メダルを掴み取った、思い入れのある作品。プログラムへの思いはそのままに、デヴィッド・ウィルソンの振付のもと、クレイグ・アームストロング作曲の楽曲から、ニーノ・ロータ作曲のものに変更しての挑戦となった。

▶▶ レジェンドプログラム「ロミオとジュリエット」

 

一方ショートは、前シーズン2度も歴代最高記録を更新した「パリの散歩道」を継続。トリノオリンピック男子シングル銅メダリスト、ジェフリー・バトルとの初タッグ作品で、海外に拠点を移して以降、瞬く間に少年から青年へと成長を遂げた、羽生選手の魅力が詰まったプログラム。

追いかけた王者の背中と、運命のグランプリファイナル

グランプリシリーズは2戦とも、シニアデビュー以降背中を追いかけてきたカナダのパトリック・チャン選手と対決。当時のチャン選手は、超絶技巧のスケーティング技術と表現力で、高い演技構成点をたたき出し、世界選手権を3連覇中
羽生選手がソチで頂点に立つためには、オリンピックまでにこの世界王者との差をどれだけ詰めることができるかが鍵だった。


初戦のスケートカナダ、2戦目のエリックボンパール杯はジャンプにミスがあり、どちらもチャン選手に続く2位。
2敗の成績で、オリンピック前哨戦ともいえるグランプリファイナルが開幕。
ショートで完璧な4回転トーループを披露し、世界最高得点をたたき出すと、フリーでも自己ベストを更新。ショート、フリーともに1位で、ついにグランプリファイナル初優勝。
いよいよオリンピックの頂点が見えてきた。

この勢いのまま、全日本選手権では国内参考記録ながらショートの世界最高得点を更新し、見事2連覇。オリンピックの切符をその手につかみ取った。


試合を重ねるごとに、幼い頃夢見たオリンピック金メダルへと一歩ずつ近づいていく。
一瞬たりとも目が離せない、快進撃の続きは、オリンピックの舞台へと移された。


2014年ソチオリンピックで「パリの散歩道」を披露する羽生結弦選手
2014年ソチオリンピック

ソチオリンピック、開幕

初めてオリンピックのリンクに立ったのは、この大会から新たな種目として加わった団体戦だった。代表としてショートに出場し、完璧な演技で首位に立った。

女子シングル、アイスダンス、ペア総合での成績は5位だったが、来る個人戦に向けて確かな手ごたえを掴んだ。

2014年ソチオリンピックフィギュアスケート男子シングルで金メダルを獲得した羽生結弦選手
2014年ソチオリンピック

世界歴代最高点でショート首位

ショートの滑走順は、第4グループの1番手。

リンクの中央に立ち、一つ不敵な笑みを浮かべると、会場にゲイリー・ムーアの哀愁漂うギターの音色が流れ出す。

冒頭の4回転トーループを鮮やかに決めると、長い手足を生かした滑りで、観る者の心を次々と奪っていく。リンクを切り裂く鋭いギターの音にぴしゃりと合わせた、目の覚めるようなトリプルアクセル。連続ジャンプも難なく決め、ラストに向かって複雑なステップとともに、オリンピックの氷の上に自分のスケートを刻んでいく。

そして最後は右手の人差し指を天に大きく突き上げ、堂々の演技終了。

得点はなんと世界歴代最高の101.45点。この大一番で史上初となる100点超えの記録を打ち立てたのだった。

 

2014年ソチオリンピック表彰式で金メダルを握りしめる羽生結弦選手
支えてくれた人たちへ感謝するかのように、愛しそうに金メダルを握りしめる羽生結弦選手。

歴史が大きく動いた、フィギュアスケート日本男子選手初の金メダル

運命のフリー。

冒頭の4回転サルコーで転倒してしまうが、直後の4回転トーループは2点以上の加点がつく。その後羽生選手にしては珍しいジャンプのミスに見舞われるも、代名詞でもあるトリプルアクセルから始まるコンビネーションジャンプは、見事な出来栄えで着氷。

転倒で残りわずかとなった体力を振り絞り、切なくも美しい『愛のテーマ』を紡いでいく。最後は思いをぶつけるように、氷に手をつくポーズでフィニッシュ。


試合後に「金メダルは駄目かなと思った」と語ったように、得点は自己ベストから15点近く低いものだったが、ショート、フリー1位の完全優勝でオリンピックの頂点に輝いた。

この種目で日本勢初となる記念すべき金メダル。さらに初出場、史上2番目に若い19歳2か月でのチャンピオン。
2014年2月14日、フィギュアスケート日本男子、ひいてはフィギュアスケート界の歴史が大きく動いた瞬間となった。

2014年世界フィギュアスケート選手権で、「ロミオとジュリエット」を披露する羽生結弦選手
2014年世界選手権

世界選手権初制覇

オリンピックの興奮覚めやらぬなか、羽生選手は早くも翌月の世界選手権を見据えていた。

会場はさいたまスーパーアリーナ。五輪王者の演技を見ようと、多くのファンが詰めかけた。

ショートでは珍しく4回転トーループで転倒し、3位発進。
逆転を誓ったフリーで、6大会ぶりに4回転サルコーに成功。4回転トーループも美しく決め、会場からの後押しもあり、すべての要素をほぼノーミスで滑り切る。すべての力を出し切り、演技後は
氷に突っ伏してしばらく立ち上がることができなかった。

結果は191.35点で、ショートでの7点差を覆し、逆転優勝。世界選手権初タイトルを獲得したばかりか、同一シーズンにグランプリファイナル、オリンピック、世界選手権を制した史上2人目のスケーターとして、その名を刻んだ。

  2014-2015シーズン

何度でも立ち上がる、魂のシーズン

SP:「バラード第1番ト短調」

FS:映画『オペラ座の怪人』より

2015年世界フィギュアスケート選手権「オペラ座の怪人」を演技する羽生結弦選手
2015年世界選手権

オリンピック王者そして世界選手権王者として迎えたシーズン。
ショートは「パリの散歩道」に続き、ジェフリー・バトルに依頼。曲はショパンの「バラード第1番ト短調」。試合では初となるピアノ曲に挑戦した。
フリーは『オペラの座の怪人』で、後に『SEIMEI』、『Hope&Legacy』など数々の名プログラムを生んだ振付師シェイリーン・ボーンとの記念すべき初タッグ作品となった。


かつてない試練を乗り越え、グランプリファイナルへ

グランプリシリーズ1試合目は中国杯。

初戦ということもあり、ジャンプにミスがありショートは2位。そして翌日、フリー直前の6分間練習でアクシデントが起きた。
最終グループに出場する選手たちが揃って最終確認を行う中、他の選手と勢いよく衝突。しばらく起き上がることができないほどの衝撃で、出血もしていた。
練習は中断され、誰もが出場は難しいと思ったその時、頭とあごにテーピングをした姿で再びリンクに登場。
脳震盪は起きていないと判断されたため、自らの強い意志で試合に出ることを決意したのだ。

そればかりか、冒頭2種類の4回転にも果敢に挑戦。転倒してしまうも、回転数は足りており、本来の基礎点を獲得。その後も極限の状態が続き、転倒してもそのたびに立ち上がり、4分30秒を演じきった。

5度の転倒で、5点の減点となったが、これまで力を入れてきたスケーティングや技のつなぎなどが評価され、得点は154.6点。

結果が出ると、両手で顔を覆い、涙を流した。

最終結果は総合2位。窮地に立たされながらも、最後まで戦い抜いたことにより、グランプリファイナル出場に向けて十分な結果を残した。

2014年NHK杯「バラード第1番」を演技前の羽生結弦選手
2014年グランプリシリーズ NHK杯

精密検査の結果は、頭部や脚など計5カ所のケガで、全治2~3週間。回復が間に合えばNHK杯出場というところで、カナダに戻らず国内で調整を続けた。

そして大会2日前、医師からの判断を受け、出場を発表。とはいえ、まだ練習を再開したばかりで、脚に違和感を抱えた状態での試合。
ショートは5位、フリーでも苦戦を強いられ、総合4位という結果に。誰もが“あれだけの大事故の後の試合、今回の結果も止むなし”と思うなか、羽生選手は、「ケガの影響ではなく、これが僕の実力」と語り、グランプリファイナルでの雪辱を誓った。


不屈の精神で、グランプリファイナル2連覇

グランプリシリーズの順位でポイントが加算され、その上位6名が出場できるグランプリファイナル。中国杯2位、NHK杯4位となった羽生選手は、今回ギリギリの6位での出場。ショートの滑走順は、6位からスタートとなるため、1番手での登場となった。

ショートで今シーズン初めて4回転を成功させると、フリーではさらに大きな加点のつく出来栄えで着氷。フリーの自己ベストを更新し、見事2連覇。王者としての意地を見せつけた。

2014年フィギュアスケート全日本選手権での羽生結弦選手
2014年全日本選手権

痛みに耐え、全日本選手権3連覇

スペイン・バルセロナで開かれたグランプリファイナル閉幕から2週間も経たずして、全日本選手権が開幕。
ショートでは、コンビネーションジャンプの2つ目が2回転になった以外はミスなくまとめ、首位に立つ。

フリーは、冒頭の4回転で転倒があったものの、その後は大きく崩れることなく、見事3連覇を達成。

大会終了後、実はグランプリファイナルの期間中から続いていたという腹痛のため、精密検査を受診。「尿膜管遺残症」と診断され、急遽手術を受けることに。手術後は約2週間の入院と、約1か月の安静が必要と発表された。
王者を襲う度重なる試練に世界中が胸を痛める中、2014年の年は暮れた。

失敗こそ力に。世界選手権銀メダル

回復後、ようやく練習を再開するも、着氷時に右足首を捻挫。再び休養を強いられ、本格的に練習に復帰できたのは、世界選手権まで1か月をきった3月のことだった。

大会当日。ショートは冒頭の4回転トーループで手をついたものの、2014-2015シーズンなかなか決まらなかった3回転ルッツ―3回転トーループの連続ジャンプを成功させ、シーズン自己ベストで首位に。

だが翌日のフリーでは、序盤のジャンプにミスが続き、3位という結果に。総合では2位と、惜しくも2連覇とはならず、羽生選手は悔しさを滲ませた。


一夜明け、今シーズンの成否について聞かれると、「失敗したかどうかは人の見方による。失敗は成功のもと。失敗しなければ気づかないことがたくさんある。このプログラムを滑ってむだなことは一つもない」と、それまで何度も困難に打ち勝ってきた羽生選手らしい言葉を口にした。

2015年世界フィギュアスケート選手権での羽生結弦選手
2015年世界選手権

4月。シーズンの最後の試合となった国別対抗戦では、ショートで2.71点という高い出来栄え点がついた4回転トーループ、トリプルアクセルを披露。フリーでも迫力のある滑りで、ラストファントムを演じきり、チームの銅メダル獲得に貢献した。


羽生選手にとっては、あまりにも長く感じられただろう激動のシーズンが幕を閉じた。
10月には腰痛のためにフィンランディア杯を欠場、11月の中国杯では衝突事故、12月には手術も経験。
『試練は乗り越えられる者にしか与えられない』という言葉があるが、大きな壁にぶち当たるたび、その逆境を強さに変えてきた。それは、オリンピック王者となっても尚、満足することのない、飽くなき向上心があるからこそ。
追う立場に戻ることを「楽しみ」と語る次のシーズン。羽生選手は、このシーズンに達成できなかった、“プログラム後半に4回転ジャンプを入れるという高難度の構成にチャレンジする。


ファンタジーオンアイス2015でヴァーティゴを披露した羽生結弦選手。
ファンタジーオンアイス2015 in 幕張

  2015-2016シーズン

新たな扉を開け、絶対王者への階段を駆け上がったシーズン

SP:「バラード第1番ト短調」 

FS:『SEIMEI』

2015年グランプリファイナルでSEIMEIを披露する羽生結弦選手
2015年グランプリファイナル

新境地となる和のプログラム『SEIMEI』

数多の壁を乗り越え、新たな気持ちで迎えた新シーズン。
ショートは、前シーズンに完璧な演技を見せることができなかった「バラード第
1番」を継続、フリーには、平安時代に実在した陰陽師・安倍晴明を描いた映画『陰陽師』を選んだ。
制作にあたり、シェイリーン・ボーンとともに能や狂言を研究し、振付に取り入れるなど、プログラムの細部にまで日本の伝統文化が息づいている。

衣装は、当時の貴族の日常着である「狩衣」をイメージしたもので、衿や袖口には、古来より高貴な色として知られる紫を使用。プログラムの冒頭には、自身の息の音を吹き込み、「同じ発音の日本語が持つ、多様な意味を込めたい」という思いから、『SEIMEI』と名付けた。



トータル300点超え、異次元の領域へ

シーズンの目標は、得点が1.1倍になるプログラム後半で4回転ジャンプを決めること。前シーズンはケガの影響もあって惜しくも叶わず、持ち越しの課題となっていた。


初戦のオータムクラシック。

2位に大差をつけて優勝したものの、課題の後半の4回転は、ショート、フリーともに回転不足となった。

しかし、表現の面では大きな収穫もあった。自ら制作に携わり、曲と演技との融合を極限まで突き詰めた『SEIMEI』は、演技構成点でジャッジから高い評価を得た。特に「音楽の解釈」の項目では、9.45点と過去最高点を記録。初戦にして、スケート史に残る名プログラム誕生を予感させた。

グランプリシリーズ1戦目のスケートカナダ。

ショート冒頭のトリプルアクセルは、3点の加点がつく見事な出来栄えで着氷。だが後半にジャンプが乱れ、規定違反により2つのジャンプの得点がノーカウントに。まさかの6位発進となった。
しかし、逆境でこそ力を発揮するのが羽生選手。フリーでは、4回転ジャンプ3本を鮮やかに決め、ショート6位から巻き返し、銀メダルを獲得した。

2戦目のNHK杯の舞台は、かつて長野オリンピックでアイスホッケーの会場として利用されたこともある長野・ビッグハット。
スケートカナダで2位となった悔しさから、猛練習に励んだ羽生選手は、ショートで「4回転ジャンプ2本」にチャレンジすることを明言。前シーズンから、まだ一度もノーミスの演技をしたことがない「バラード第1番」にもかかわらず、ここにきて自身最高難度の構成
に挑むことにしたのだ

ショート当日。最初の4回転サルコーを成功させ、続く4回転トーループからの連続ジャンプを2.57点の加点がつく出来栄えで成功。ピアノの旋律に合わせ流れるようなスケーティングを見せ、最後のトリプルアクセルまで完璧に着氷。まるで別人のような気迫に満ちた表情で、フィニッシュポーズを決めた。

得点は、オリンピック以降誰も破ることのできなかった自身のもつ世界最高記録を5点近く上回る、106.33点。新世界を拓く扉にいよいよその手を掛けた。

翌日のフリー。静謐なリンクに響き渡る笛の音とともに演技がスタート。

人さし指と中指を立てるポーズで「呪(しゅ)」を唱えると、圧倒的な力で氷上を支配。そのまま「プログラム後半の4回転ジャンプ」を含む、すべてのジャンプを加点がつく出来栄えで成功させ、圧巻の演技を披露した。

すべてを出し切った晴れやかな表情で演技を終え、得点を待つ。

結果は世界最高得点となる216.07点で、ショートとの合計は、驚異の322.40点と、トータルでも世界歴代最高得点を20点以上引き上げた。この大会で、ショート、フリー、総合すべての得点で世界記録を更新するという歴史的な優勝。フリー200点超え、総合300点超えという前人未到の領域を切り拓いた。



誰も追えないところまで。再び世界記録更新

NHK杯の興奮覚めやらぬまま迎えたグランプリファイナル。自らの記録を超えることができるのか、そして大会史上初の3連覇なるかに、世界中が注目していた。

ショート当日。ショパンの「バラード第1番」が流れると、4回転サルコー、4回転トーループからの連続ジャンプで満点となる出来栄えで着氷。ピアノの一音一音を捉え、鍵盤の上を跳ねるかのようにステップを踏み、華麗なるフィニッシュ。

演技構成点は、50点満点中、驚異の49.14点と、フィギュアスケートにおける芸術性の極みといえるような演技だった。
得点はNHK杯を超える110.95点で、驚異の110点超え。圧巻の演技で首位に立った。


その勢いのままフリーでもパーフェクトな演技を披露。219.48点をたたき出し、合計で330.43点。NHK杯での300点超えから約2週間で、またしてもショート、フリー、合計すべてで世界記録を更新する異次元の強さを見せた。

2015年フィギュアスケート全日本選手権で『SEIMEI』を披露する羽生結弦選手
2015年全日本選手権

全日本選手権で4連覇を果たし、王座奪還に挑んだ世界選手権。

ショートでは、またしても出来栄え点で満点のつくジャンプを連発し、世界記録に迫る110.56点。歴代最高記録を2度更新しても尚「まだ完璧じゃない」とフリーの構成を見直し、後半のジャンプを4回転トーループから、得点が高いサルコーに変更して臨んだ。
だが本番では
珍しいミスが続き、結果は2位と、惜しくも優勝とはならなかった。


大会終了後、シーズンの序盤から左足を痛めていたことが明らかになり、左足で氷を突くトーループは負担が大きいためジャンプを変更していたことがわかった。足に激痛を抱えながらも、
ジャンプを3回転にすることをよしとせず、4回転サルコーに果敢に挑戦した羽生選手。

今シーズン歴代最高記録を2度塗り替えながらも、進化の歩みをやめない向上心の高さ。それこそが羽生選手が「絶対王者」たるゆえんであり、翌シーズンはこの悔しさを更なる力に変えることになる。

2016年世界フィギュアスケート選手権で「バラード第1番」を披露する羽生結弦選手
2016年世界選手権

  

  2016-2017シーズン

世界初、4回転ループ成功と、珠玉のプログラム『Hope&Legacy』の完成まで

SP:「レッツ・ゴー・クレイジー」 

FS:『Hope&Legacy』

2016年フィギュアスケートオータムクラシック公式練習での羽生結弦選手
2016年オータムクラシック

表現の幅を広げた新プログラム

全治2か月のケガから復帰し、迎えたオリンピックプレシーズン。

新プログラムの振付は、今回もジェフリー・バトルと、シェイリーン・ボーン。 
ショートは、プリンスの名曲「
レッツ・ゴー・クレイジー」。「バラード第1番」とは打って変わり、衣装もヘアスタイルもロック仕様に。持ち前のキレのある滑りで、アップテンポのロックナンバーとなった。

フリーは、『Hope&Legacy』で、久石譲作曲の「View of silence」と長野パラリンピックの閉会式にも使用された「Asian dream song」を編曲したもの。『SEIMEI』では日本古来の文化を雅に、そして力強く滑り上げたが、『Hope&Legacy』は、自然を尊び、寄り添うことで文化を発展させてきた、日本人の美の根底にアプローチするようなプログラム。


さらにこのシーズンは、未だISU公認大会で誰もクリーンに着氷したことのない、4回転ループに挑戦。ショート、フリーの両方に4回転ループを組み込み、計6本の4回転ジャンプを跳ぶという高難度の構成となっていた。

2016年フィギュアスケートオータムクラシックで『レッツゴー・クレイジー』を披露する羽生結弦選手
2016年オータムクラシック

初戦のオータムクラシックで、いきなりショート、フリーともに4回転ループ成功。ISU公認大会史上初の快挙で優勝したものの、その他のジャンプにミスがあったこともあり、課題を残してグランプリシリーズに臨んだ。

  

2016年フィギュアスケートグランプリシリーズスケートカナダで『Hope&Legacy』を披露する羽生結弦選手
2016年グランプリシリーズ スケートカナダ

1戦目のスケートカナダでは、ジャンプにミスがありショート4位発進。フリーでも4回転ループにミスがあったものの、体力面で課題となっていた後半のジャンプを成功させ、総合2位に。

 2016年フィギュアスケートグランプリシリーズNHK杯で『Hope&Legacy』を披露する羽生結弦選手
2016年グランプリシリーズ NHK杯

2戦目NHK杯ショートでは、4回転ループを乱れながらも着氷させ、残るジャンプは完璧に成功。トリプルアクセルでは、出来栄え点満点と、強さを発揮し、シーズンの世界最高得点をマーク。


フリーでは、ノーミスとはならなかったものの、冒頭の4回転ループはきっちり決め、シーズンの世界最高得点でNHK杯優勝。
グランプリファイナルに向け、演技全体の完成度をさらに高めることに注力した。

2016年グランプリシリーズNHK杯表彰式での羽生結弦選手、ネイサン・チェン選手、田中刑事選手
2016年グランプリシリーズ NHK杯
フィギュアスケート2016年グランプリファイナルで「レッツゴー・クレイジー」を披露する羽生結弦選手
2016年グランプリファイナル

史上初の4連覇とノーミスに燃えるグランプリファイナル。
ショート冒頭で4回転ループを堪えながらも着氷させると、あとは羽生選手の独壇場。スピードにのってキレのあるジャンプを披露すれば、会場はどんどんヒートアップ。最高のレベル4と評価された極上のスピンステップで観客を魅了し、シーズンベスト106.53点で首位に立った。

中1日置いての『Hope&Legacy』。前半はジャンプも成功し、音楽と一体化するような流麗なスケーティングを披露したが、後半は精彩を欠く場面があり、プログラムの完成は次回に持ち越されることに。フリーは3位という結果だったが、ショートでの大きなリードがあり、見事4連覇を達成した。

2016年フィギュアスケートグランプリファイナル記者会見での羽生結弦選手
2016年グランプリファイナル
2017年フィギュアスケート四大陸選手権で「レッツゴークレイジー」を披露する羽生結弦選手
2017年四大陸選手権

四大陸選手権で劇的なリカバリー。『Hope&Legacy』の完成はすぐそこに

5連覇のかかった全日本選手権は、インフルエンザにより欠場。

次戦は、4年ぶりの出場となる四大陸選手権。1年後に迫った平昌オリンピックの会場となる江陵アイスアリーナにて開催される、テスト大会も兼ねた重要な大会であった。

ショートでは、4回転ループを鮮やかに決めるも、続く連続ジャンプが2回転に。3位発進となったが、ノリのよいファンキーな音楽をロックスターさながらに演じて見せた。

逆転を胸に臨んだフリー。凛とした表情でリンクの中央に立った羽生選手。真っすぐに前を見つめるその目には、燃えたぎる闘志を宿していた。

4回転ループを軽々と決め波に乗ると、その他のジャンプも次々と成功。ピアノの旋律とともにしっとりと滑り上げれば、生命が芽吹くような温かな光がリンクに降り注ぐ。


しかし演技後半、ショートに続き4回転サルコーからの連続ジャンプが2回転となってしまうミス。
だがそのままで終わらないのが、“絶対王者”。急遽構成を変え、その後の連続ジャンプを
4回転トーループ+2回転トーループに変更、さらに最後の3回転ルッツの代わりにトリプルアクセルと、すさまじいリカバリーを見せた。

得点を最大限に伸ばした結果、シーズンベストをたたき出し、フリーは1位。ネイサン・チェン選手にわずかに届かず2位となったものの、王者の貫禄を十分に見せつけ江陵アイスアリーナを後にした

 2017年フィギュアスケート世界選手権で優勝した羽生結弦選手
2017年世界選手権

王の帰還

世界を驚かせた四大陸選手権での演技から1か月半。『Hope&Legacy』には

さらなるドラマが待っていた。

その舞台は世界選手権、開催国はフィンランド・ヘルシンキ。シーズンの集大成であり、オリンピック前最後の世界選手権だけに、熾烈な戦いが繰り広げられることが予想された。

一つのミスが命取りになるショート。4回転ループを今シーズン一番の加点のつく出来栄えで成功、勢いに乗りどんどんスピードを上げていくも、4回転サルコーからの連続ジャンプで膝をついてしまう。すぐに2回転トーループをつけたが、連続ジャンプとして認定されず、得点源を失うことに。

それでも、音楽にぴたりとハメたトリプルアクセルは満点をつけるジャッジが続出。客席を煽って、ジャッジ席を指差しハートを撃ち抜いて、と会場を熱気で包み込みこんだ。
結果はまさかの5位と大きく出遅れたものの、「金メダルを獲りたいので、しっかり修正します」とフリーでの巻き返しを誓った。

 2017年フィギュアスケート世界選手権でブライアン・オーサーコーチとハグする羽生結弦選手
2017年世界選手権

2連覇中で首位のハビエル・フェルナンデス選手と10.66点差で迎えたフリー。
1番滑走で登場すると、4回転2本を含む最初の3つのジャンプを正確に着氷。
次は、ショートでミスをし、今シーズン5戦ともフリーで決めることができていない4回転サルコー+3回転トーループ。張りつめた空気の中、鬼門のジャンプを軽やかに決めると、そこからはまるで
映画のように、音楽と調和した美しい世界が広がっていく。ジャンプを決めるたび、リンクの上に柔らかな風が吹き、草木が生い茂り、花が咲く。
最後のジャンプを決め、力強くスピンを回り切り、貫禄のフィニッシュ。初の
ノーミスの演技で、ついにこの極上のプログラムが完成。誰もが待ち望んだ春の訪れに、観客は割れんばかりの拍手を送った。

結果は2015年に自身が出した世界最高得点を更新する223.20点。5位からの大逆転を果たし、見事優勝。記録にも記憶にも残る演技で、見事3年ぶりに王座に返り咲いた。

 

シーズンの最終戦は国別対抗戦。
4回転が1回転になるなどミスが重なり、まさかの7位スタート。その日は悔しさで寝付けなかったことから、「こんなに悔しいんだったらもう1回、4回転をやっちゃえよ」と自らを奮い立たせ、フリーで4回転を5本入れることを決断。
1本ミスがあったものの、4本の4回転を着氷し、1位に。
チームの優勝に大きく貢献した。


試合を重ねるたび、新しい世界を見せてくれる羽生選手。
その姿が他の選手に刺激を与え、フィギュアスケート競技の成長に繋がってきた。複数の4回転が必須となる「真・4回転時代」。百花繚乱の男子シングルで、オリンピックの金メダルを手にするのは誰なのか。平昌オリンピックが約10か月後に迫っていた。


  2017-2018シーズン

歴史の頂へ。ケガを乗り越え、五輪2連覇

SP:「バラード第1番ト短調」 

FS:『SEIMEI』

2017年グランプリシリーズロステレコム杯で『SEIMEI』を演技する羽生結弦選手
2017年グランプリシリーズ ロステレコム杯

最強のプログラムを携え決戦のシーズンへ

いよいよ開幕したオリンピックシーズン。
勝負の年に選んだプログラムは、「
バラード第1番」と『SEIMEI』。

「バラード第1番」は、2015年に110.95点で世界最高得点をマーク、演技構成点でも高い評価を得たプログラム。羽生選手自身が「呼吸をするかのように曲を感じられる」と表現したように、ピアノの鍵盤の上を滑っていくかのような、音楽と完全に調和した美しい身のこなしはため息が漏れるほど。何度見ても新たな発見と感動があり、フィギュアスケートの芸術性を体現しているといっても過言ではない。

技術的にももちろん進化を遂げていて、4回転サルコーをループに、4回転からの連続ジャンプを後半に入れる構成となっている。

異次元の演技で、フィギュアスケート史上誰も見たことのない領域へと誘った『SEIMEI』。リンクに結界を張るように己だけの世界を創り出し、技術的にも表現でも究極まで磨き上げた、羽生選手にとって神髄ともいえるプログラムである。こちらは4回転を2本増やした、計5本を予定しており、成功すれば圧倒的な高得点が狙える構成を予定していた。



初戦のオータムクラシック。

右ひざに痛みを抱え、ジャンプの変更を余儀なくされたが、ショートは3本中2本のジャンプで満点がつく会心の出来栄え。112.72点と、いきなり自身が2015年に出した世界最高得点を更新。フリーはジャンプで精彩を欠き、総合2位に甘んじたものの、1戦目から世界を大いに驚かせた。

 

4回転ルッツ成功と、五輪2連覇の前に立ちふさがった試練

続くグランプリシリーズ1戦目のロステレコム杯。
ショートでミスがあり、2位発進。だが翌日のフリーでは、4種類目の4回転ジャンプとなるルッツに試合で初挑戦し、見事成功。総合は2位と逆転優勝とはならなかったものの、世界王者としての強さを証明して見せた。さらに試合後の会見で、将来的に4回転アクセルに挑戦したいと発言し、オリンピック後の現役続行に意欲を示すなど、印象的な大会となった。


未来への展望を語り、勢いづいた矢先、羽生選手にまたしても試練が襲いかかった。

2戦目のNHK杯の公式練習中、4回転ルッツでバランスを崩し転倒。突然の出来事に空気が凍り付いた。診断結果は、右足関節外側靭帯損傷。棄権を余儀なくされた。

全日本選手権を目指し治療を続けたが、練習再開の見込みが立たず、敢えなく出場を断念。選考基準に基づいてオリンピックの切符を手に入れたものの、それはぶっつけ本番で決戦の地、平昌に降り立つということを意味した。

66年ぶりの連覇なるか、2度目のオリンピックが開幕

年が明け、4年に1度の大舞台、平昌オリンピックがついに開幕。

オリンピック金メダリストという座に甘んじることなく、血の滲むような努力のもと、全身全霊で走り抜いた4年間。その成果を五輪のリンクの上に刻むべく、王者が戻ってきた。

アメリカのディック・バトン以来の66年ぶりの連覇をかけて挑む、大決戦。

世界中がその勝負の行方を見守った。

2018年平昌オリンピックで『バラード第1番』を演技する羽生結弦選手
2018年平昌オリンピック

「誰が取ろうが僕も取ります」

試合前日、今回のオリンピックでまだ日本勢の金メダリストが誕生していないことについて聞かれると、「誰が取ろうが僕も取ります」と即答。並々ならぬ強い意志と、王者の風格を漂わせた。

長い治療期間を経ての、約4か月ぶりの実戦がオリンピック。ただでさえ重圧がのしかかる状況のなか、自らプレッシャーをかけることで己を鼓舞する、羽生選手らしい発言だった。


永遠のような静寂の後に待っていた、歓喜の瞬間

ついに迎えた、男子シングルショートプログラム。滑走順は、ソチオリンピックと同じグループの1番。

誰もが固唾をのんで見守るなか、フレデリック・ショパンの「バラード第1番」とともに、この世で最も美しい2分40秒が始まった。

冒頭。静かに瞳を閉じ、15秒。

息をするのも忘れるほどピンと張りつめた空間に、永遠とも思えるような時間が流れる。

瞼を開け、ゆったりと滑り出すと、そのままふわりと飛び上がり、4回転サルコーを完璧に着氷。伝家の宝刀トリプルアクセルは、振付の一つのように滑らかに決め、出来栄え満点を獲得。最後の4回転トーループ+3回転トーループの連続ジャンプを力強く決めると、会場を飲み込むような、激情を込めたステップが始まる。

鋭い眼光、鮮烈なステップ、そのすべてで氷を支配し、圧巻のフィニッシュ。

期待を超えた完璧な復活劇に、悲鳴にも似た大歓声が鳴り響いた。

得点は自身の世界最高得点に迫る111.68点で、首位。ループは回避したが、長年磨きをかけてきたサルコー、アクセル、トーループの完成度を証明して見せた。

 

2018年平昌オリンピックで『SEIMEI』を演技する羽生結弦選手
2018年平昌オリンピック

4年越しのバトン。栄冠をその手に。オリンピック2連覇

五輪王者が決まる運命のフリー。

江陵アイスアリーナを包む静寂に、和太鼓と龍笛の音色が響き渡る。
冒頭の4回転。サルコー、トーループともに、雲がたなびくような美しく流れのあるランディングを披露。出来栄え点で満点を獲得し、そのまま前半のジャンプをすべて成功。

力強く、観る者の目を射抜くように、しゃなり、しゃなりとステップを踏めば、だんだんと霧が晴れ、栄光への道が開けていく。

後半、4回転トーループからの3連続ジャンプでステップアウトするも、直後のトリプルアクセルからのジャンプを2連続から3連続に変えてリカバリーする冷静さも見せる。

最後のジャンプ、3回転ルッツで体勢を崩しながらも意地で堪え、いよいよクライマックス。天地震わす猛然たるコレオシークエンス。禍々しきものを封じ、自らの使命を全うするかのように、躍動しながらステップを踏んでいく。
両手を大きく広げて、勢いよくフィニッシュを決めると、アリーナは総立ちに。歓喜の日の丸が揺れた。
勝利を確信し、人差し指を突き上げ感情を爆発させた羽生選手。得点は206.17点、合計317.85点で、男子66年ぶりとなるオリンピック連覇を達成。

歴史に燦然と輝く劇的な勝利に、世界中の人が心打たれ、感動に包まれた。


演技直後、痛めた右足首にそっと手を添え感謝を伝えると、膝を折り氷に手をついた。それは、ソチで披露したフリー『ロミオとジュリエット』のラストポーズ。万全の演技ができず悔しい思いをしたあの時の自分に、4年越しのメッセージを送ったのだ。


4年間、どんな逆境でも自分のスケートを貫き、再び輝かしい勝利をその手に収めた絶対王者。次なる目標は、
前人未到の4回転アクセル。夢ではなく、現実に。また新たな旅が始まった。

国民栄誉賞受賞

試合後、痛めた右足はまだ完治しておらず、痛め止めを服用し、オリンピックに臨んでいたことが明らかになった。治療に専念するため、世界選手権は欠場。しばしその羽を休めることになった。

4月には自らプロデュースしたアイスショー「コンティニューズ・ウィズ・ウィング」や、地元仙台で祝賀パレードが開催。歴史的快挙をお祝いしようと世界中からファンが駆け付けた。さらに6月には、国民、社会に感動と希望を与えたとして、国民栄誉賞をの授与が発表された。個人としては史上最年少、冬季競技選手としては初の受賞となった。

 

  2018-2019シーズン

自分の原点に立ち返り、再び絶対王者が燃え上がるまで

SP:『秋によせて』

FS:『Origin』

2018年グランプリシリーズロステレコム杯で「Origin」を披露する羽生結弦選手
2018年グランプリシリーズ ロステレコム杯

オリンピック後の会見で「もうちょっとだけ、自分の人生をスケートに懸けたい」と語った羽生選手。4回転アクセル成功を目指し、自分のために滑る新シーズンが始まった。

新プログラムは、原点に戻る気持ちから、どちらも幼い頃から滑りたいと考えていた曲に決定。ショートは、敬愛するアメリカのジョニー・ウィアーがかつて使用した『秋によせて』。フリーは、髪型を真似するほど憧れてきたロシアの皇帝・エフゲニー・プルシェンコの「ニジンスキーに捧ぐ」をアレンジしたもので、『Origin』と名付けた。


たぎる心は止められない

プログラムの全容は、4年連続出場となるオータムクラシックで明かされた。
伏し目がちに、真っすぐと手を伸ばし、始まるショート。アルバムをめくり思い出を反芻するように、徐々にプログラムの世界へと入っていく。抒情的なピアノの音色がなんともノスタルジックな雰囲気を醸し出し、それはクライマックスに向けて、激情的に変化していく。
の前をキラキラと流れていく過去の情景を慈しむかのようなステップ。それは、これまでの羽生選手の濃密なスケート人生を見ているかのようで、切なくも美しい。ラストは、最初と呼応するかのようなポーズでフィニッシュ。
2018-2019シーズンから、GOEの幅が7段階から11段階(-5~+5)になるなど
、いくつかルール改正があったが、初戦のジャンプ、4回転サルコーは+3.49点と順調な滑り出し。スピンがノーカウントになるミスがあったが、その後のジャンプもすべて成功し、首位で初戦のショートを終えた。

「自分のスケート人生の始まり、起源、根源的なものを感じながら滑りたい」という思いが込められた『Origin』。
始まりを予感させる、心臓の鼓動。重厚感のあるメロディとともに貫禄たっぷりに滑り上げる。超絶技巧のヴァイオリンの音色に、
夜を切り裂く稲妻のように鋭いジャンプを重ねていく。

冒頭の4回転ループに成功し、続くトーループは4点に近い加点がついたものの、2度ジャンプのミスがあり、満足のいく優勝とはならなかった。試合後は悔しさを滲ませ、「オリンピックが終わってからある意味で抜けていた自分の気持ちに火をつけられた」と語り、オリンピック以降の穏やかな表情から一変。勝利への渇望が、再び王者を燃え上がらせた。

2018年世界フィギュアスケート選手権で練習中の羽生結弦選手。
2018年世界選手権

エンジンのかかった五輪王者を誰が止めることができようか。オータムクラシックからプログラム構成を変更し、一気に難易度を上げて、グランプリシリーズに乗り込んだ。

1戦目は、中国杯の代替として開催されたフィンランド大会。 ヘルシンキといえば、ショート5位からの大逆転で優勝した2017年の世界選手権の開催地。羽生選手にとっては、初めての国際試合で優勝した思い出深い国であり、ファンにとっても縁起のよい場所。

ショートは、冒頭の4回転サルコーは4.3点の加点が付く完璧な着氷。ルール改正後の世界最高得点となる106.69点で首位につけ、前戦での悔しさを晴らした。

フリーは、フリーで世界初となる4回転トーループ+トリプルアクセルの連続ジャンプを着氷。回転不足もあったが、ショートに続き、世界最高得点の190.43点をたたき出し、圧倒的スコアで優勝を飾った。
シニアデビュー以降、意外にもグランプリシリーズ初戦での優勝は初。それまでの悪いジンクスを断ち切り、五輪2連覇の強さを見せつけた。

「今日しかないと思った」負傷しながら演じきったロステレコム杯

2戦目はロステレコム杯。
ジョニー・ウィアーの『秋によせて』の振付師で、ロシアの解説を担当するタチアナ・タラソワが見守るなか、ひときわ思いの込もった演技を披露した。
氷の精のようにリンクを舞い、躍動感のあるステップを披露。もちろんジャンプも完璧に成功させ、110.53点をマーク。わずか2週間で再び世界最高得点を更新した。

このままフリーでも記録を更新するかと思った矢先、またしてもアクシデントが襲った。朝の公式練習中、4回転ループで転倒。ケガをして以来、痛めやすくなっていた右足首を再び負傷してしまい、練習を引き上げた。前年NHK杯でのケガの記憶がよみがえり、見守っていたファンは心配を募らせた。


数時間後、いつもと変わらない様子でリンクに現れたが、実は医師から3週間の安静が必要と診断されており、痛み止めを飲んでの強行出場だった。
構成の難易度を落として臨み、前半のジャンプはすべて成功。だが後半は、
得意のトリプルアクセルにミスが出てしまうギリギリの状態。それでもイナバウアーやハイドロブレーディングで観客を魅了し、一度ついた火を絶やすことなく、最後まで魂の演技を見せた。

痛めたことで、一度も跳んだことのない構成で急遽挑んだフリー。ジャンプのミスがあり、得点は伸び悩んだが、ショートでの大きなリードもあり、見事優勝。グランプリシリーズ2勝を決めた。

 

グランプリシリーズ初優勝を決めた場所であり、プルシェンコを始め、スケートに熱中するきっかけとなった偉大なスケーターたちを生んだ国、ロシア。周囲が棄権を勧めるなか、それでも出場することを選んだのは、この地で「原点回帰」をテーマとした『Origin』を披露したいという思いもあったからこそ。どこまでも“義を貫く”、羽生選手らしい戦い方だった。

 

2019年世界フィギュアスケート選手権で『Otonal』を演技する羽生結弦選手
2019年世界選手権

この日最も熱く燃えた場所。さいたまスーパーアリーナでの世界選手権

その後治療のため、グランプリファイナル、全日本選手権出場を断念。

復帰戦の舞台は、5年ぶりの日本開催となる世界選手権となった。

3月21日春分の日、気温は23℃近くまで上がり、東京ではその日桜が開花。うららかな春の陽気のなか、男子ショートプログラムが行われた。

会場のさいたまスーパーアリーナには大勢の人が詰めかけ、場内は汗ばむほどの熱気だった。
前日までの公式練習では笑顔を見せ、調子のよさをうかがわせた羽生選手だったが、冒頭の4回転サルコーがまさかの2回転となり、規定により0点となってしまう。その後のジャンプはすべて成功させ、演技構成点では高い得点を記録したものの、3位発進となってしまう。

2連覇を狙う首位ネイサン・チェン選手との点差は、12.53点。

勝負を決めるフリーでは、今世紀最大の白熱した戦いが繰り広げられた。

逆転を狙う羽生選手は、吹き荒れる風の音を合図に演技をスタートさせると、冒頭4回転ループを完璧に着氷。4回転サルコーで減点があったが、その他のジャンプはすべて加点がつく出来栄え。

世界選手権に向け、痛み止めを飲みながら練習に励んだ日々。魂を削るような鬼気迫るステップは、羽生選手の生き方そのものを見ているかのようだった。どんな時でもひたすらに勝利を追い求める、勇猛果敢な姿。観客は手拍子で後押しし、最後のジャンプが決まると、地割れのような歓声が鳴り響いた。クライマックスに向かうコレオシークエンスに、超満員の客席からは惜しみない拍手が送られる。最後は爆発的なエネルギーをのせ、手を天に高く突き上げフィニッシュ。力強いガッツポーズが飛び出し、アリーナは歓声で揺れた。得点は300.97点。4か月ぶりの実戦で、世界最高得点を塗り替えた。


興奮覚めやらぬなか、リンクに姿を現したのは、首位のチェン選手。冒頭の4回転ルッツで、4.76点の加点を得るなど、高難度ジャンプを次々と決める圧巻の演技を披露。総合得点は、驚異の323.42点。先ほどの更新されたばかりの世界最高得点を上回り、大会2連覇を飾った。

数分間の間に2度も世界最高記録が更新されるという、世界最高峰の演技の応酬に、さいたまスーパーアリーナは熱狂に包まれた。

金メダルに惜しくも届かなかったものの、チェン選手との激闘を終え、「楽しかった」と息を弾ませながら語った羽生選手。互いにリスペクトし、高め合う存在である二人。五輪2連覇以降、目の前に現れた“超えなければいけないもの”の存在に、胸を高鳴らせるファイターの姿がそこにはあった。

2019年世界フィギュアスケート選手権エキシビションで「春よ、来い」を披露する羽生結弦選手
2019年世界選手権エキシビション

歴史に残る名勝負を見届け、日本での世界選手権が幕を閉じた。
エキシビションでは
「春よ、来い」を高らかに舞った。すべてを浄化させるような美しさに、うっとりとした時間が流れ、リンクには照明で桜が咲き、会場はピンク色に染まった。

ファンタジーオンアイス2019で「マスカレイド」を演じた羽生結弦選手
ファンタジーオンアイス2019で「マスカレイド」を演じた羽生結弦選手

  2019-2020シーズン

懐かしい旧友との再会と、スーパースラム達成

SP:『秋によせて』

FS:『Origin』

2019年オータムクラシックで『Origin』を披露する羽生結弦選手
2019年オータムクラシック

2019-2020シーズンのプログラムが明かされたのは、初戦のオータムクラシック。

尊敬する二人のスケーターへのトリビュート作品を完璧な形で完成させたいという思いから、ショート、フリーともに継続となった。


ショートでは、冒頭の4回転サルコーで、世界選手権に続きミスが出てしまうも、前後をツイズルで挟む芸術的なトリプルアクセル、4回転の連続ジャンプでは大きな加点を獲得し首位に。
フリーはジャンプに苦戦する場面があったが、スピン、ステップはすべて最高のレベル4と、円熟みを増した『Origin』を披露。4度目の優勝を果たした。

2019年オータムクラシック『Origin』でイナバウアーを披露する羽生結弦選手
2019年オータムクラシック

スケートカナダ初優勝

秋深まる10月の終わり。

黄金色に輝く街路樹が並ぶカナダ・ケロウナで、グランプリシリーズ1戦目となるスケートカナダが開幕。

ショート『秋によせて』では、ミスが続いていた4回転サルコーや、トリプルアクセルを最高峰の美しさで着氷。すべてのジャンプを決め、109.6点の高得点を出した。

フリーでも、オータムクラシックでの不完全燃焼を晴らした。冒頭の4回転ループを堪えると、そこからは確かな技術に裏打ちされた芸術的な
演技が続く。

技と技の間の複雑なつなぎ、情感豊かで、観る人の心に訴えかけてくるスケーティング。羽生選手がそれまで築き上げてきたものが詰まった演技を披露し、演技後にはガッツポーズ。思いを噛みしめるような、充実した表情が印象的だった。

得点は、シーズンの世界最高記録となる212.99点。合計では、世界選手権でチェン選手が塗り替えた世界最高記録に迫る、322.59点をたたき出し、優勝を飾った。

演技後は、「久しぶりに心の中から自分に勝てたなと思える演技でした」と満足そうに語り、自分の目指すスケート像を改めて確認した大会だった。


2019年スケートカナダでの羽生結弦選手
2019年スケートカナダ

NHK杯を無事に終え、3年ぶりの優勝

2戦目は、本番での演技は3年ぶりとなるNHK杯。
ショートでは、音楽を感じながら、時にセンチメンタルに、時に大胆に滑り上げ、首位発進。トリプルアクセルは、ほとんどのジャッジが満点をつける完璧な出来。4回転トーループの着氷でやや堪えるも、しっかり連続ジャンプをつけ、強さを見せた。

フリーでは、目標にしていた4回転ループに成功。続いて4回転サルコーも華麗に決め、このプログラムで初めて両ジャンプを加点の付く出来栄えで揃えた。連続ジャンプを予定していた4回転ジャンプが2回転になってしまったが、急遽構成を変更するリカバリーを披露。
195.71点をマークし、合計305.05点と2大会連続の300点超えで優勝。ケガなく無事にグランプリシリーズ2戦を終え、グランプリファイナルへの進出を決めた。

 

4Aの練習を初披露。晴れやかな表情を見せたグランプリファイナル

史上初の4連覇を決めて以降、ケガで出場できていなかったグランプリファイナル。3年ぶりの出場に際し、タイトル奪還に燃えていた。
舞台となるのは、羽生選手が11歳だった
2006年にオリンピックが開かれたイタリア・トリノ。トリノオリンピックといえば、エフゲニー・プルシェンコが金メダルを獲得、ジョニー・ウィアーがフリーで『秋によせて』を披露した大会でもある。

この地で両スケーターへのトリビュートプログラムを滑ることになるのは、ある種巡り合わせといえた。


帯同するジスラン・ブリアンコーチはトラブルにより到着が遅れ、一人きりで迎えたショート。冒頭2本のジャンプは完璧に決めるも、最後の4回転トーループからの連続ジャンプが乱れ、単独になってしまうミス。スピン、ステップは完成度が高く、最高のレベル4を揃えるも、連続ジャンプが入らなかったことが響き、2位で折り返すこととなった。

首位をひた走る、2連覇中のネイサン・チェン選手との点差は約13点。ショート終了後
羽生選手が選んだのは、4回転を1本増やし、計5本跳ぶという挑戦的な道だった。

前日の公式練習では4回転アクセルにも挑むなど、アグレッシブな姿を見せ、進むべき道の先にあるものを再確認。
そして25歳の誕生日でもある12月7日。勝負のフリーへと乗り込んだ。

パラベラ競技場のリンクに登場したその姿、その瞳には、五輪王者ではなく、挑戦者として燃えたぎる炎があった。
逆転ののろしを上げる冒頭2つのジャンプ。4回転ループ、4回転ルッツを大きな加点がつく出来栄えで見事成功。特に2017年のロステレコム杯以来、約2年ぶりのチャレンジとなったルッツの成功に会場は沸いた。


その後3回転ルッツ、4回転サルコーを決めるも、後半に入り基礎点が1.1倍となるジャンプで乱れが生じてしまう。最後のトリプルアクセルは単発の1回転になってしまい、連続ジャンプとならなかった。構成を変えたことで体力の消耗が著しいなか、それでも消えることのない内なる炎。持てる力を振り絞るようなコレオシークエンスに、羽生選手がこの瞬間にかける思いが痛いほどに伝わってくる。

今できることの限りを尽くした情熱的なフィニッシュ。その後は氷に突っ伏し、しばらく立ち上がることができないほどだった。

得点は194点、合計291.43点で2位。優勝には届かなかったが、勝負には負けているんですけど、自分のなかでの勝負にはある程度勝てた」と、その表情は晴れやかだった。



4回転ループ、ルッツの成功、そして4回転アクセルと、どんなに追い込まれた状態でも、限界に挑戦する姿。11歳の頃の自分に誇ることができるような、確かな爪痕を残した大会だった


怒涛の3連戦。全日本選手権銀メダル

4年ぶりに全日本選手権に帰ってきた羽生選手。
帰還を待ち望んでいた多くのファンが
代々木体育館を埋め尽くした


構成を変え臨んだショート。ISU非公認ながら自身が持つ世界歴代最高得点を上回る110.72点で、首位発進。
その勢いのままフリーでも記録更新なるかというところで、連戦からなる綻びが生じた。冒頭の4回転ループでステップアウトすると、4回転サルコーは決めたものの、その後もジャンプでらしくないミスが続いた
。途中何度も声援や手拍子に後押しされ、全力でフィニッシュ。結果は3位で、総合では宇野昌磨選手に続く2位となり全日本選手権を終えた。

NHK杯からここまで5週間で3試合。移動時間も考えると、息つく間もないほど過酷なスケジュ―ルだったことは想像に難くない。
それでも前に進み続ける不屈の王者が次なる舞台に選んだのは、
未だ一度もタイトルを獲得していない四大陸選手権だった。

2020年四大陸選手権で『SEIMEI』を披露する羽生結弦選手
2020年四大陸選手権

レジェンドプログラムとともに、四大陸選手権初制覇へ

2月上旬。平昌オリンピック以来約2年ぶりに極寒のソウルに降り立った。
四大陸選手権初制覇、さらにその先の世界選手権で王座奪還を狙うため、用意したプログラムは、「バラード第1番」と『SEIMEI』。羽生選手のマスターピース、伝説のプログラムの再演だった。

「バラード第1番」は、むだなものを一切削ぎ落した、芸術の結晶のようなプログラム。何度も何度もくり返し練習したこの“相棒”に身をゆだね、感じるままに氷上を舞う。

4回転サルコー、4回転トーループ+3回転トーループの連続ジャンプには、いずれも4点台の加点。

最後のジャンプ・トリプルアクセルは、音楽に溶け込むようにふわりと跳躍。完璧な着氷。降りてからの流れもよどみない。

そこからは、凍てついた氷を解かすような、熱いステップ。ラストを盛り上げるスピンで堂々のフィニッシュ。技術と芸術、まさしく羽生選手の目指すスケートそのものを示す演技だった。
得点は自身が持つ世界最高得点を更新する111.82点。圧倒的な首位に立った。

2020年四大陸選手権の表彰式での羽生結弦選手
2020年四大陸選手権でスーパースラム達成

語り継がれていくもの。スーパースラム達成

フリーでは、平昌オリンピック以降ルールが変更されたことにより、プログラムを30秒短縮し、ジャンプ構成も変更。

「バラード第1番」同様、衣装も新たにリンクの中央へと現れた羽生選手。

響き渡る龍笛の音に、懐かしさよりも、これから明かされる、新『SEIMEI』への期待感が勝る。
息をするのも忘れるくらい濃密な
4分間。

冒頭の4回転ルッツや後半の4回転トーループでミスがあり、納得の演技とはいかなかったものの、クレバーなリカバリーを見せ、唯一無二のプログラムを滑り切った。

見事優勝を飾り、主要6大会を制覇するスーパースラムを達成。これは男子シングル初の快挙で、またしてもスケート史にその名を刻んだ。


以前
シェイリーン・ボーンは『SEIMEI』の振付について、「リンク全体が雲に覆われ暗闇に包まれている状態から、光と太陽が差し込んで、雲や暗闇が消えていく」と表現していた。

シーズン終盤でプログラムを変更することに恐れや葛藤がありながらも、自分らしいスケートを目指すことを選択した羽生選手。

この大会で確かな評価を得られたことで、その判断は間違っていなかったことが証明された。その上で手にした四大陸選手権の初タイトルと、スーパースラムは大きな意味合いをもつだろう。心にかかる雲が晴れ、明るい気持ちで見つめるのは、やはり4回転アクセルの成功。
世界選手権は新型コロナウイルス感染の影響により中止となったため、戦いは翌シーズンに持ち越されることになったが、挑戦の日々は続いていく。

2020年四大陸選手権の表彰式で写真撮影に臨む、羽生結弦選手鍵山優真選手。
2020年四大陸選手権表彰式の写真撮影での一コマ。見事銅メダルを獲得した鍵山優真選手と。
2020年四大陸選手権で、同門のジェイソン・ブラウン選手、チャ・ジュンファン選手と写真撮影する羽生結弦選手
2020年四大陸選手権で、同門のジェイソン・ブラウン選手、チャ・ジュンファン選手と

  2020-2021シーズン

Road to 4A その瞬間はもうすぐそこに。

SP:「レット・ミー・エンターテイン・ユー」

FS:『天と地と』

2020年全日本選手権で「レット・ミー・エンターテイン・ユー」を披露する羽生結弦選手
2020年全日本選手権

世界的なパンデミックにより、すべてが異例となった2020-2021シーズン。
拠点であるカナダに入国が叶わず、コーチのいない状態での練習を余儀なくされた。

感染拡大のリスクを考慮し、グランプリシリーズを欠場。自粛することで、人の移動による感染リスクを減らしたいという配慮もあった。

それだけに全日本選手権についても大きな葛藤があったが、「僕自身の希望を何とかつなぐために」、世界選手権への代表選考も兼ねた本大会への出場を決意した。



果たして新プログラムのお披露目があるのか、それとも過去のプログラムの継続となるのか。その真相はベールに包まれたまま、迎えた初戦の全日本選手権。

舞台は、長野のビッグハット。初めてこの大会に出場したときの会場であり、5年前のNHK杯で当時の世界最高記録を更新し、絶対王者への階段を上った思い出の場所だった。

2020年全日本選手権で「レット・ミー・エンターテイン・ユー」演技中の羽生結弦選手
2020年全日本選手権

世界を明るく照らすSP「レット・ミー・エンターテイン・ユー」

ショートは、イギリスの人気シンガー、ロビー・ウィリアムスの「レット・ミー・エンターテイン・ユー」で、「レッツ・ゴー・クレイジー」以来、4年ぶりのロックナンバー。

衣装はデコラティブなライダースジャケットに、光沢のあるパンツ。手にはグローブをはめ、ロックスターさながらのスタイルで登場。

腕を組み、どこか余裕さえ感じさせる笑みを浮かべれば、ショーの始まりを告げる鈴の音が鳴り始める

キレのある4回転サルコーでオープニングを飾ると、4回転トーループ+3回転トーループの連続ジャンプを勢いよく決め、最後は音に合わせた一寸の狂いもないトリプルアクセル。

未曽有の事態に、世界中が暗闇に包まれた2020年。「少しでも明るいものを」という思いから選曲し、大部分の振付にも参加したこだわりのナンバー。

客席を拍手で煽り、前髪をクールにかき上げ、ギターをかき鳴らすようにパワフルなステップを踏めば、そこはもうライブ会場。「みんな楽しんで」という曲名の通り、エネルギッシュなパフォーマンスで会場を熱狂の渦へと導いた。

両手を大きく広げ、最後のポーズを決めれば、拍手喝さいのスタンディングオベーション。世界中に笑顔を届け、聖なる夜に希望の光を打ち上げた。


その得点は、103.53点。スピンがノーカウントとなるも、100点超えで首位スタートを切った。

2020年全日本選手権ウォーミングアップ中の羽生結弦選手
2020年全日本選手権

かの戦国武将の生き方に、自分自身を重ねたFS『天と地と』

一方フリーに選んだのは、戦国武将・上杉謙信の半生を描いた大河ドラマのテーマ曲である『天と地と』。琴や琵琶の音色が印象深い楽曲であり、和のコンセプトは羽生選手の得意とするところ。『SEIMEI』に続く代表作誕生の予感に、期待は高まるばかりだった。

2020年全日本選手権でフリープログラム『天と地と』を披露する羽生結弦選手
2020年全日本選手権

清廉潔白な人柄を表すようなブルーグリーンの衣装に身を包み、覚悟を決めた表情で、いざ出陣とばかりに合戦の舞台へと飛び出していく。腕を十字に交差するポーズは、振付師のシェイリーン・ボーンが甲冑をイメージしつくったもの。

高さのある4回転ループ、軽やかな4回転サルコーと、流れるように次々とジャンプを決めていく。

戦国時代最強の武将と評される一方、歌や琵琶をたしなむなど、風流な一面も兼ね備えていたという謙信。“軍神”と呼ばれながらも、戦うことへの葛藤を抱え、最後には出家を選んだ謙信の生き方、美学に自分を重ね合わせた。

戦うことの代償を感じながら、それでも前へと進み続ける、強い決意を4分間で表現した。

羽生結弦選手のフリープログラム『天と地と』の衣装
羽生結弦選手の『天と地と』衣装には美しい桜が咲き誇る

7本すべてのジャンプをブレることなく完璧に着氷させ、フィニッシュ。演技後は数秒間、天を見つめる姿が印象的だった。


得点は、国内参考記録ながら、2020-2021シーズンの世界記録215.83点をマークし、合計319.36点で5年ぶり、5度目の優勝。

10か月ぶりの実戦、初戦にしてこの演技。この地にまた新たな伝説を残し、世界選手権へと歩を進めた。

2020年全日本選手権で披露された羽生結弦選手の新プログラム『天と地と』
2020年全日本選手権
  

戦い抜いた世界選手権

スウェーデン・ストックホルムにてバブル方式で開催された世界選手権。
来年に控えたオリンピックの出場枠最大「3」を死
守すべく、会場へと乗り込んだ。


アップテンポのメロディに乗せ、縦横無尽に舞い踊るショート。無観客開催ながら、画面越しにポジティブなエネルギーが伝わってくるような心躍る演技となった。

ジャンプはすべて成功、時おり涼し気な笑顔を浮かべながら、クールに演じきり、貫禄のあるフィニッシュ。ノーミスの演技で106.98点をマーク。首位スタートを切った。


このまま王座奪還なるかと思われたがフリーの
勝負のリンクに姿を見せた羽生選手は、どことなくいつもと違う様相を呈していた。


冒頭の4回転ループ、サルコーで手をつくと、得意のトリプルアクセルでもバランスを崩してしまい、流れに乗ることができない。

それでも後半2本の4回転を成功させ、クライマックスのコレオシークエンスでは、激流のように押し寄せる感情をハイドロブレーディングやイナバウアーで表現。


得点は、全日本選手権に比べ30点以上低い182.2点で、総合3位の銅メダル。
2位には鍵山優真選手が入り、北京オリンピックの出場3枠を獲得した。


フリー当日に喘息の発作があったと一部のメディアが報じたが、それについて

「発作自体は、フリーの後に感じたかなと思うんですけど、でも終わってみたら、ああちょっと苦しかったかなと思うくらいで、特に会場入りが遅くなった理由ではないです」ときっぱり語った羽生選手。

さらに気になる今後についても、「もし僕が4Aを目指している状況のなかにオリンピックというものがあれば、それは考えます。ただぼくにとって最終目標は、オリンピックで金メダルではなくて、4回転半を成功させること」と、現役続行の意志を示した。


シーズン最後の試合として出場した国別対抗戦。帰国後の隔離期間終了直後の試合で、ノーミスとはいかなかったが、フリーでは世界選手権の際苦戦したトリプルアクセルもしっかり決めた。

さらに大会後、エキシビションの練習では、4回転アクセルにトライ。公の場で挑戦することで、来シーズンこそ必ず成功させてやるという並々ならぬ決意が伝わってきた。



2020年世界フィギュアスケート選手権での羽生結弦選手
2020年世界選手権

羽生結弦を突き動かす原動力

世界的なパンデミックの影響により、すべてが前例のない環境で執り行われることになった2020-2021シーズン。

羽生選手も例外ではなく、拠点のカナダに入国が叶わず、コーチ不在のなか、国内で黙々と練習する日々を送った。

そのなかで精神的に追い詰められ、「一人でやるのもうやだ、疲れたな、もうやめよう」と思う日々もあったという。そんなとき暗闇の底から救い上げてくれたのは、これまで大事に滑ってきた我が子のようなプログラムたちだった。
逆境のなかで改めてスケートへの愛を確かめたこのシーズン。自分と向き合う時間が増えたからこそ
手に入れたものがある。

目指すは、精魂込めたプログラム『天と地と』で4回転アクセルを成功させること。「あと8分の1回れば立てる」と、その瞬間は確実にすぐそこまで近づいている。

限界のその先へ。

人のもつ強さも弱さも力に変えて、ひたすら前へと突き進むのみ。

彼がその“ダイヤモンド”を完成させたとき、世界はまた新たな伝説の目撃者となる。



  • 羽生結弦★ 世界が認める麗しき絶対王者。その魅力を徹底解剖!【フィギュアスケート男子】

    1994年12月7日生まれ、宮城県仙台市出身。身長172cm。趣味は音楽鑑賞。オリンピック2連覇、グランプリファイナル4連覇、世界選手権2回優勝したほか、ショート、フリーの歴代最高得点など、数々の記録を塗り替えてきた絶対王者。2018年、個人最年少での国民栄誉賞受賞。国内外を問わず多くの人々を魅了する、日本が誇る世界的スーパースター。今季は前人未踏の4回転アクセルの習得を目指す。

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